30.王都の駅で
そして、いよいよこの旅行も終わりの時。
4人はレチアから王国横断鉄道でオリベスク駅に到着した。
4人は周囲の乗客が降りた後も、しばらく、席に座ったままだった。
旅の名残を惜しむように。
もしくは別れるまでの時間を少しでも引き延ばすように。
オティーリエの心模様を写すように、それまでザワついていた客車の中はシンと静まり返り、ホームの喧噪だけが聞こえてくる。
だけれど、いつまでもそうしているわけにはいかない。
「行きましょう。」
そう言うと、まずセレスフィアが立ち上がった。
横に座るオティーリエに手を差し伸べて、立ち上がるように促す。
俯けていた顔をノロノロと上げてその手を見たオティーリエは、その手をぎゅっと握ると、立ち上がった。
立ち上がったところで、オティーリエはセレスフィアの顔を見て、あれ?と思った。
オティーリエは、これでティリエとしてみんなと会うのも最後、と、ちょっと、いや、かなり寂しい気持ちでいたけれど、セレスフィアにそんな様子はない。
そして、すでに立ち上がっていたらしいセリアとノシェも、優しく迎えるような笑顔でオティーリエを見ていた。
3人の様子を見て、さすがにオティーリエにもピンときた。
きっと、3人とも、ティリエとの時間をこれで終わりにするつもりはないのだろう。
オティーリエには全く想像も出来ないけれど、3人、いや、きっとセレスフィアは、今回のように、まだまだティリエと会う算段を付けているに違いない。
オティーリエは、ガーデンパーティーでオティーリエと、そして、ティリエの心情を3人に語った。
オティーリエだけでなく、ティリエも確かにそこにいたのだ、と。
みんな、その気持ちを大事にしてくれているのだろう。
もちろん、それは3人だけでなく、お父様、爺や、ヨハンを始めとするお城のみんな。
『よい友人を持ったな、主。』
『はい。』
そして、アーサー。
そんな気遣いが嬉しくて、オティーリエは胸がいっぱいになった。
だけど、ここで泣いたりしてはいけない。
だから、目一杯の笑顔で言った。
「うん、行こう!」
◇ ◇ ◇
4人は列車を降りて、他の乗客の邪魔にならないように改札に近いベンチの所に移動した。
つまり、この旅行の最初の集合場所。
「じゃあ、ここで解散ね。」
セレスフィアはみんなを見回して、そう言うと。
それから。
「みなさん、今回はお付き合い下さってありがとう存じます。
おかげさまで皆様との友誼を深める、とても素晴らしい時間が過ごせました。」
にこやかに、そう続けた。
「こちらこそ、ご招待下さってありがとう存じます。
とても有意義な時間でした。」
まずセリアが答えて。
「なんか、身に余る待遇でちょっとむず痒かったけどね。
いい経験になったよ。
こっちこそ、ありがとう、フィア、みんな。」
ノシェが続いて。
それから最後に。
「うん、とっても楽しかったよ。
フィアが招待してくれたおかげ。
それから、みんながいてくれたおかげ。
みんな、ありがとう。
それから、フィア、ホステス役お疲れ様でした。
ホステスが素晴らしかったから、この旅も素晴らしかったよ。
準備とか色々大変だったと思うけど、本当にありがとうね。」
オティーリエが笑顔で言った。
4人の顔に、旅行が終わってしまったという寂寥感はない。
なぜなら、これは今回の旅行が終わってしまっただけで、4人の関係がなくなるわけではないから。
セレスフィア、セリア、ノシェも、このオティーリエの反応で、今後のことを考えていることを悟られたな、と気付いた。
気付かれたところで、気にはしなかったけれど。
なぜなら、それで何かが変わるわけではないから。
「ちょっと待って。
ティリエにそんなに言われちゃったら、私、立場ないじゃん。」
セリアが混ぜっ返すと。
「大丈夫、セリアはお嬢様の対応として、合ってたよ。
わたしはお嬢様じゃないからね。
色々言っても問題ないんだよ。」
楽しそうにオティーリエが返した。
「そういう意味じゃあ、むしろあたしの方が立場がないよね。」
「ノシェはフィアの付き人兼任だもん。
だいじょぶだいじょぶ。
2人は立場があるんだから、何の立場もないわたしが言うのが正しかったんだよ。」
ノシェが言うと、それにもオティーリエが返した。
それに、セリアとノシェが顔を見合わすと、揃ってオティーリエの方に向き直って、むっとした顔をした。
「なによ、何かそれ、ティリエが一番の大人みたいじゃない。」
「そうそう、ティリエはそんな背伸びなんかしないでいいんだよ。」
「え、逆にそれって、わたしがいつまでも小さい子みたいじゃない?
わたしだって成長するんだよ。」
「うん、確かに背、伸びたもんね。
腰は相変わらず細いのに、胸も膨らんで身体に丸みも出て来て、将来が楽しみだね。」
セリア、ノシェ、オティーリエで言い合いを始めたと思ったら、すぐにノシェの爆弾発言で話の方向が変わった。
パッとオティーリエが身体を隠すように横を向きつつ両腕で胸を隠して、ノシェを横目で睨む。
「ちょ、ノシェ、セクハラ。」
「羨ましいって話だよ。
あたし、こんなだからね。」
ノシェはオティーリエの反応を気にせず、カラカラと笑って胸を張った。
「ノシェもまだまだ成長しますわよ。
それよりも、このようなお話は、公共の場所でするお話ではありませんわよ。」
そんなノシェを、横からセレスフィアが注意する。
別に周囲の目を集めてはいないけれど、脇で控えているヨハンが聞こえないフリで明後日の方向を向いているのが、少し可哀そうだ。
「っと、そうだね、ごめんごめん。
ティリエもごめんね。
許して。」
ノシェが申し訳なさそうな顔で、両手を顔の前で合わせてオティーリエに謝る。
オティーリエはそっとノシェを見た後、わざとらしく腰に両拳を当てて、胸を張って言った。
本当は見下ろすようにしたかったのだけれど、平均身長よりも高いノシェに対して、低いオティーリエではそんなことは出来なかった。
「特別に許して差し上げますわ。
いちおう、褒めてくれたわけですしね。」
そう言ってから、ノシェを見た。
オティーリエとノシェの目が合う。
2人のどちらかともなくプッと吹き出すと、2人で笑い出した。
「さ、乗り換えに間に合わなくなりますよ。
ティリエはそろそろ縦断鉄道のホームに向かった方がよろしくてよ。」
「あ、そうだね、ありがとうフィア。」
セレスフィアに言われて、オティーリエは駅のホームの時計を確認した。
あと30分ほどで王国縦断鉄道の発車時刻。
そろそろ移動しないと間に合わない。
「じゃあ、わたし、行くね。
みんな、この1週間、本当にありがとう。
宝物が出来たよ。」
「それはこちらも同じ想いよ。
ありがとう、ティリエ。」
「そうそう。
私も、とっっっても楽しかったわ。
ティリエがいてくれたおかげよ。
もちろん、みんなもだけど。
ありがとうね。」
「やっぱり4人揃わないとね。
難しいと思ったけど、ティリエも来てくれて嬉しかったよ。
ありがとう。」
オティーリエに、セレスフィア、セリア、ノシェの順に答える。
オティーリエが傍に控えているヨハンをちらっと見ると、ヨハンはオティーリエと自分の荷物を持ってオティーリエの横に来た。
それから、オティーリエは自分の荷物を受け取る。
「うん、ありがとう、
じゃあ、またね。」
オティーリエが笑顔でそう答えると、セレスフィアはふふ、と笑った。
オティーリエは、またティリエと会おうとセレスフィアが画策していることに気付いている。
もちろん、気付いてもらうために、そんな態度で接していたのだし、オティーリエなら気付いて当然だろう。
セリアとノシェも、当然気付くだろうと思っていたので、笑顔のままだ。
「ええ。
またね。」
「またね。」
「また。」
オティーリエはそれで、3人に背中を向けると、ヨハンを伴って改札に向かった。
改札の前で振り返って3人を見ると、一度大きく手を振る。
それに、3人も手を振り返した。
そして、オティーリエは再び3人に背を向けると。
その後は一度も振り返ることなく、改札を抜けて、向こう側の人混みの中に紛れて行った。
これで、第11話も終わりです。
4人の旅行と事件のメインストーリー二本立てだったおかげで長くなってしまいました。
第11話は投稿までに時間がかかってしまいましたが、第12話はここまでかけずに投稿出来るように頑張ります。
もしよろしければ、評価や感想等、今後の励みになりますので、よろしくお願いします。




