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29.今度こそ観光

翌日はいよいよホルトノムル侯爵領に帰る日。

午前中、荷物の片づけをした後、お屋敷の部屋でゴロゴロお喋りして過ごした4人は、お昼になる少し前にお屋敷を出た。

もちろん、滞在中、お世話になったこのお屋敷の使用人達にお礼を言って。


それから、4人はカフェ・デュ・パリエに寄った。

ポール・セリジュアルでの最後の昼食をここで取るために。

今日はリアーヌもお手伝いに来ることは昨日のうちに確認済み。

エマの許可をもらってリアーヌも一緒に昼食を取り、事件の話やお互いの住んでいる街の感想などで大いに盛り上がった。


 ◇ ◇ ◇


食事が終わった後も少しの間、お喋りをしていたけれど、たまたま、会話が途切れた。


「それでは、そろそろ行きましょうか。」


その途切れ目で、セレスフィアがセリア、ノシェ、オティーリエに声をかけた。

少し寂しそうな目をしているけれど、こればかりは仕方がない。


セレスフィアの言葉の意味を敏感に察したらしく、セリーヌの笑顔が強張った。


「そうね。

 名残惜しいけど、いつまでもはいれないもんね。」

「リアーヌちゃん、あたし達、この後、帰るつもりなの。

「そっかぁ。

 もっとお話したかったのに、残念。」


ノシェが言うと、リアーヌは本当に残念そうに頷いた。


「でも、短い間だったけど、お世話になりました。

 ずっと悩んでたことが解決したのは、お姉さん達のおかげだもん。

 本当にありがとうございました。」


そう言って、リアーヌはぺこりと頭を下げた。

それに、4人は笑顔で答える。


「こちらこそ、お相手してくれてありがとう。

 リアーヌさんのおかげで、とても楽しい思い出が出来たよ。」

「そうそう。

 こう言っちゃなんだけど、リアーヌちゃんがいなかったら、この街の人、嫌いになってたかも。」


オティーリエがにこやかに言った後、セリアが混ぜ返すように悪戯っぽい顔で言う。


「うわ、そんなことにならなくてよかった。」


リアーヌが寂しい気持ちを振り払うように、セリアに乗っかってお道化た感じに言った。


「でも、リアーヌちゃん、精神的な傷って目に見えないから、気を付けてね。

 何かおかしいと思ったらすぐにお父さんお母さんに言うんだよ。」

「はぁい、気を付けます。」

「よろしい。」


そう言うと、ノシェは立ち上がった。

それに続いて、セリア、オティーリエ、セレスフィアの順に席を立つ。


「あら?」


それから、お会計票を手に取って内容を見たセレスフィアが、首を傾げた。

注文や金額などは書かれておらず、《この街の英雄様へ、ささやかな感謝をこめて》と書かれている。


セレスフィアはそのお会計票を3人に見せると、全員がにこやかな笑みで顔を見合わせた。


「マスターに、どうもありがとうございます、ご厚意に甘えさせていただきます、とお伝えください。」


そう言って、セレスフィアはお会計票をリアーヌに渡した。

リアーヌも笑顔で頷きながらお会計票を受け取る。

4人が扉に向かうと、リアーヌは付いて来て、エマもカウンターから出て来た。


「それでは、また機会がありましたら、お会いいたしましょう。

 それまで、お元気でお過ごし下さい。」


セレスフィアがそう口火を切ると。


「またね。」

「またお会いしましょう。

「きっと、ではなくて必ず、ね。」


セリア、ノシェ、オティーリエが言葉を続けた。


「はい、みなさまもお元気で。

 またお会いしましょう。」

「うん、またね。

 バイバイはしないよ。」


それに、エマとリアーヌも言葉を返す。


そうして、4人はカフェ・デュ・パリエを後にした。

エマとリアーヌはお店から出て来て、4人が見えなくなるまで、その背中を見送った。


 ◇ ◇ ◇


4人は街中を通って街道まで来ると、街道ではオストライア家の車が待っていた。

ヨハンもその車の助手席に座っている。


車の傍までやってくると、4人は振り返ってポール・セリジュアルの街を眺めた。

ここから、街や漁港や海が見える。

防風林のおかげで、オストライア家のお屋敷は見えないけれど。


オティーリエは、その光景を見ながら、腕を広げて思いっきり深呼吸した。

この海の香りを覚えておくために。

みんなで行く、最初で最後の旅行だろうから。


オティーリエが深呼吸したのを見て、セリアとノシェも同じように深呼吸した。

セレスフィアは腕を広げたりはしなかったけれど、目を瞑ってその空気をすうっと吸いこむ。


4人はそうして、ポール・セリジュアルの光景を目に焼き付けてから、車に乗り込んだ。


 ◇ ◇ ◇


ポール・セリジュアルからレチアまでは、オストライア家の車なら1時間ほど。

バスだと2時間かかるけれど、オストライア家の最新型の車なら半分の時間で着いてしまう。

車は街に入ると、ホテルに向かうのではなくて、港へと向かった。


ポール・セリジュアルは大きな漁港だったけれど、このレチアは大きな貿易港。

他国からの大きな貿易船がやってきて、その積み荷を降ろしては、また別の積み荷を積んで旅路に着く所。

漁港とはまた違った光景を見ることが出来る。


港が近づくと、大きな貨物を降ろすためのものだろう、何基もの巨大なクレーンが見えて来た。

車の向かう先に、いっぱいに並べられていて、今も何基か可動している。

それに気づいたオティーリエがみんなに言うと、前方の車室の窓を開けて、みんなでその光景を見た。


『あれはなんだ?』

『クレーンと言います。

 貿易船が積んで来た大きな貨物を陸揚げするのに使用するものです。

 あれで荷物を釣り上げて、港で待機しているトラックに荷物を移すのです。』

『大きな、とはどのていどまで移動できる?』

『物によりますけれど、数トンまで搬送出来るものがありますよ。』

『そのように巨大な物を運搬できるのか。

 素晴らしい物だな。』

『はい。

 このような機械を発明された方を尊敬いたします。』


「すごいね。

 あんなに大きなクレーンがいっぱい。」

「さすが、王国一の貿易港ね。」

「港の中まで入れるかは分からないけど、そばまで行って見るだけでも楽しめそうだね。」


ノシェ、セリア、オティーリエが順に感想を言うと。


「そうね。

 ポール・セリジュアルのことはないでしょうし、存分に楽しみましょう。」


セレスフィアが、全員の感想をまとめた。


 ◇ ◇ ◇


レチアの港はポール・セリジュアルの港と違い、様々な種類の巨大なクレーンや大きな倉庫がたくさん並び、物も人もたくさん、ひっきりなしに行き来していた。

漂う匂いにも、海の香りよりも、蒸気機関の発する煙の臭いや、機械油の匂いなどの方が強く漂ってくる。

活気についてはポール・セリジュアルと同様。

機械に負けないほどの怒号が飛び交い、熱気に満ちている様が外まで伝わって来る。


とはいえ。

港の中は大きな荷物を運ぶための大型車やクレーンなどが休む間もなく動いているので、一般人は危険だということで奥までは通させてもらえなかった。

輸入品や部外秘の運搬物を扱ったりもしているので、関係者以外は立ち入り禁止、という都合もある。


でも、中に入れないだけで、港沿い走る道路を歩くだけでも、港の中を覗けるので、大いに楽しめた。

一番はしゃいでいたのは、もちろんオティーリエ。

3人にひっきりなしに話しかけながら、さらに並行してアーサーとも話をしていた。


オティーリエほどではないにしても、セレスフィア、セリア、ノシェも、普段見られない光景に興奮気味に会話をしていた。


こうして、港観光をした後は、港の傍にあった大きな公園で一休み。

この公園は港の関係者も休憩に使う公園のようで、大勢の人がベンチに座ったり、芝生の直接座ったりしてくつろいでいた。


 ◇ ◇ ◇


港近くの公園を後にした4人は、メインストリートでウインドウショッピングをしたりカフェでお茶したりした後、ホテルに向かった。

この日のホテルも、当然、来た時に泊まったオスター家のホテル。


4人はこの日も様々な話題で盛り上がったけれど。これがこの旅行の最後の夜、ということは一度も話題に出すことはなく、誰からともなく、眠りに就いていた。

この旅行も最終日。

今日こそは観光です。

最終日ということは、あえて意識しないようにして、みんなで楽しんだ一日でした。

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