26.これもピロートーク?
「実は、ロハンさん達には言わなかったけど、リアーヌさん、他にも証拠見つけてたんだよ。」
これ以上、護衛について質問されないように、オティーリエはかなり無理矢理、話題を変えた。
「他にも?」
セレスフィアが、これ以上突っ込まれたくないんだろうなと悟って、オティーリエの話題転換に乗った。
ちょっと顔が笑っているけれど。
もちろん、嫌味な笑みではなく、見守るような笑み。
「うん。
リアーヌさんが調べてた街の不思議。
その中に5年前に沈んだ輸送船とか、沖にいる黄金の海のヌシ、なんて話もあったんだけど、これ、どうやら密輸船が事故で沈没したのを誤魔化すために流した噂みたい。」
オティーリエもセレスフィアが笑っているのは分かったけれど、話に乗って来てくれたので、むしろ感謝しかない。
「そんな話もあったんだ。
じゃあ、その沈没船を引き上げれば、証拠になるのかな?」
「そうだね。
積み荷も引き上げられていないみたいだし、船籍なんかも分かるだろうから、証拠として十分使えると思う。
ただ、引き上げるの大変だし、今回は昨晩、荷下ろししたばかりの荷物がまだあるから、それを使えば大丈夫じゃないかな。」
ノシェの疑問に、オティーリエが答えた。
「ああ、そっか、漁協の大会議室にまだあるって言ってたっけ。
ん?
あ、ひょっとして、ロハンさんが昨晩、どうしても外せなかった町長の命令って。」
「そ。
密輸品の荷下ろし。」
「なるほどね。
そんなところに繋がってるなんて思わなかった。」
ノシェが感心したように腕を組んで頷いた。
今、ノシェはベッドの上に胡坐をかいて座っている。
ちょっと殿方には見せられない姿だ。
「密輸品繋がりで、わたしもフィアとセリアに質問させて。」
「ちょっと待って、密輸品繋がりで、どうしてフィアと私?」
セリアが両手を腰に当てて怒ってます、というフリで
セリアはすでに髪を拭き終わっていて、バスタオルは脇机の上に置いている。
「あ、ごめん、紛らわしい言い方しちゃった。」
オティーリエが顔の前で両手を合わせて、上目遣いに謝る。
オティーリエはまだ髪を拭き終わっていないので、バスタオルは両手で挟みつつ。
「まあ、いいでしょう。
それで、質問というのは何かしら?」
セリアが軽く背を逸らして高飛車な言い方をする。
実に楽しそうだとノシェは横から見ていて思った。
「ガブリエル・マルシャンって人、知ってる?」
その質問に、先に答えたのはセレスフィア。
「いいえ、残念ながら。
むしろ、ティリエの方がご存じかと思っておりましたわ。」
「ううん、わたしも知らない。」
2人のやり取りに、セリアがえ?とちょっと意外そうな顔をした。
「私、知ってるわよ。」
「え、ホント?
すごい、さすがセリア。」
ちょっと勢い込んでオティーリエがセリアの方に身を乗り出した。
オティーリエとしては、おそらく知ることが出来ないと思っていたことを知ることが出来て、勢い余ってしまった形。
「なんかその持ち上げられ方、ちょっと心外なんだけど?」
セリアが軽くオティーリエを睨むと、オティーリエもごめんと再び顔の前で両手を合わせた。
まあ、セリアも本気で怒ってるわけではない。
「まあ、いいわ。
そのガブリエルって人、レチアの観光協会会長よ。
2人にはあまり縁のない人だから、知らなくて当然と思うわ。」
「そっか、セリアは家がホテルを出してるから知ってるんだね。
さすがセリア、よく家業の勉強してるね。」
ホテル経営と観光協会は切っても切れない。
商売上、繋がりのある人物を知っているのは当然のこと。
ただ、セリアはまだ学生で、実際に商売を行っているわけではないので、自分から進んで学ばなければ把握出来ていない情報。
「ま、まあ、このくらいわね。
ミドルスクールも今年いっぱいだし。」
その言い方に、オティーリエはん?とちょっと心の中で首を傾げた。
ミドル・スクールが終わり、と言った。
つまり、ハイ・スクールに進むつもりなのかな?と。
ちらっとセレスフィアとノシェを見ると、2人は特に表情を変えたりはしていなかった。
が、なんだろう、セレスフィアの態度には少し違和感がある。
何が、と言われると、セレスフィアならオティーリエと同じ疑問を持つはず。
なのに、無反応なのが逆に怪しい。
オティーリエがさっとセレスフィアとノシェを伺ったのに気づいたセリアは、オティーリエが何か言い出す前に慌てて続きを話し始めた。
「それで、そのガブリエルって人のことだけど。
温厚で人当たりのいい人物って聞いたわ。
でも、裏でこんなことをしていたなんてね。
案外、実際にはお金の力で今の座を手に入れたのかもしれないわね。」
「でも、観光協会会長なんかが禁制品の密輸なんかで捕まったら、きっとレチアの観光業界は大混乱だね。」
ノシェがセリアに話を合わせて言ったが、これは気を使ったわけではなくて素。
セリアが言いたくないのなら無理に聞くつもりはないオティーリエは、セリアにあえて聞くのは止めておくことにした。
「大混乱じゃ済まないと思う。
観光業を隠れ蓑に禁制品を販売していたのなら、販路はきっと観光協会に根差してるだろうから、観光協会自体、存続の危機になるかもね。」
「うわぁ、なんか大変なことになりそうだね。」
「ノシェが、きっかけ作った張本人だよ。」
だって、密輸の証拠見つけたのノシェだし。」
「え。
いや、ちょっと待って。
みんなじゃない?」
オティーリエが笑いながら言うと、ノシェはちょっと焦ったようにみんなを見回した。
「もちろん、みんなですよ。
安心して。」
セレスフィアはノシェに優しく言った後、め、とオティーリエを叱った。
それに、オティーリエはちょっと舌を出しながらノシェに頭を下げた。
「ごめんごめん。
ちょっと揶揄っちゃった。」
「勘弁してよ。
ティリエの指摘は、こう、グサッと来るんだから。」
もちろん、ノシェも言葉では文句を言いながらも、顔は笑っている。
「う、ごめんなさい、気を付けます。」
「うむ、許してしんぜよう。」
「ありがとう。」
オティーリエが笑いながら改めて謝ると、ノシェが腕を組んで鷹揚に頷いた。
それで、誰ともなく笑い声が上がる。
その笑いのさざ波が収まると、気を取り直してノシェが言った。
「さてと。
じゃあ、明日はどうしよっか。
さすがに街中はバタバタしてそうだよね。」
「そうね。
やはりビーチかしら。」
「ホントは漁港とか見たかったよね。」
「あ、わたしも漁港行きたい。」
ノシェがみんなに言うと、セレスフィアは同意したものの、セリアとオティーリエは、わざわざ騒ぎの渦中に入って行くようなことを言い出した。
「・・・だってさ、フィア。」
「初日のように、街の方々にはあまり快く迎えていただけないかもしれませんわよ。
それでもよろしくて?」
セレスフィアが2人に尋ねると。
「港が見たいから、大丈夫。
ね。」
「うん。」
セリアが答えてオティーリエに同意を求めると、オティーリエも頷いた。
「ノシェは?」
「ん、別にそれでいいよ。
海は初日にたっぷり堪能したしね。」
セレスフィアがノシェにも確認すると、そんな答えが返って来た。
その答えに、セリアとオティーリエが期待の眼差しでセレスフィアを見る。
その2人の視線にセレスフィアはにっこりと微笑んだ。
「分かりました。
それでは、明日はポール・セリジュアルを観光しましょう。
せっかくですから、朝早くから港に行きますわよ。
早起きを覚悟して下さいませ。」
「この旅行中に朝寝坊なんてする気ないから大丈夫よ。」
セリアが元気よく答えた。
両腕を上げて曲げて見せるけれど、力こぶは当然、出来ない。
「じゃあ、明日の朝食は6時くらいにしてもらうように言ってくるよ。」
ノシェがそう言って、ベッドから降りた。
「え。」
ノシェが言ったその時刻に、さすがにセリアが声を失くす。
そして、次の言葉が出て来る前に、ノシェは手の平をひらひらとさせながら、部屋を出て行った。
「でも、漁港は確かに楽しみですわ。
貿易港には視察に行ったことはありますけれど、漁港は初めてですもの。」
「わたしは一度、漁港に行ったことあるよ。
活気があって、楽しいんだよね。
新鮮なお魚も美味しいし。」
「でしたら、昼食は、またカフェ・デュ・パリエにしましょう。
やっていらっしゃるといいのですけれど。」
「リアーヌさんのあの様子だと、自分のために休むな、なんてエマさんに言いそうだけどね。」
「ふふ。
確かにそうですわね。」
明日は港町観光!
事件で気になっていたことの最後のまとめです。




