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25.屋敷に戻って

リアーヌと4人は少し会話を楽しんだ後、エマが夕食の時間を告げに来たので、それで4人はパリエ家を後にすることにした。

その時にはさすがに応接室の3人は解散していた。

エマが3人がどこに行ったかは聞いていて、ロハンは近所の、それから他地区の漁師仲間を説得に。

ピエールは警察署に戻って警官を率いて証拠の押収に。

マルグリットはレチアに。

それぞれ、向かったらしい。


それを聞いた後、オティーリエはエマにヨハンから渡された紙と、伝言を書いた紙の2枚を渡した。

中を見ずに、マルグリットにいつでもいいから渡せる時に渡して欲しいと伝えて。


ヨハンから渡された紙は、ヨハンが作成した供述書で、倉庫にいた監禁犯と、パリエ家を見張っていた男の供述をまとめたもの。

最後にホルトノムル侯爵家の紋章が押してあるので、証拠能力も持っている。

ただ、エマはホルトノムル侯爵家の紋章を知らなかったので、これ幸いとオティーリエはその点には触れなかった。

ホルトノムル侯爵家の話は不必要に話したくなかったから。


もう一枚はオティーリエからマルグリットへの伝言。

私警団から供述を取れなかった時に使うように、という内容。


そうして、4人は夕食の時間をかなり過ぎてから、オストライア家のお屋敷に戻って来た。


 ◇ ◇ ◇


「1日・・・たった1日。

 なんだか、もう何日も経ったような気がするよ。」


ベッドに寝転がって、伸びをしながらノシェが言った。

夕食の後、お風呂に入って(オティーリエの髪と背中はセリアが洗った)、部屋に戻って来たところ。


「本当にね。

 怒涛の一日だったわ。」


セリアがベッドに腰掛けて、濡れた髪の毛を拭きながらノシェに同意した。

セレスフィアとオティーリエも髪を拭きながらベッドに腰掛けている。

ノシェはショートカットなので、脱衣スペースですぐに拭き終わってしまっている。


「ティリエって、いつもこんなことしてるの?」

「ううん、1日でこんなに状況が変わることなんて滅多にないよ。

 普通は日進月歩。

 推理が外れることもあるし、人と会うために待ったりしたり。

 今回は、もともとリアーヌさんが調べてたから、こんなにスムーズに進んだんだよ。」

「そのリアーヌさんの調査内容を、ティリエが的確に追いかけたおかげでもありますね。」


セリアの質問に答えたオティーリエに、セレスフィアが言った。


「ありがと。

 でも、わたしはそんなに大したことしてないよ。

 それよりも、フィアがスムーズに話を進めてくれたおかげ。

 やっぱり交渉が一番難しいもん。」

「こちらこそ、ありがとう。

 でも、それこそ一人の力ではなくて、みんなで力を合わせた結果だと思いますわよ。」

「みんなで?

 私、何かした記憶ないんだけど。」

「あたしも。

 今回、なんかお邪魔ばっかで役に立てなかったなーって、ちょっと落ち込んでるんだけど。」

「あ、それ、私も一緒。」


セレスフィアが言うと、セリアとノシェがちょっと気落ちした様子で、それぞれ言った。


「2人とも、何を言っているのですか。

 セリア、街の方々に後を託せたのは、貴女のおかげですよ。」

「え、私?」

「ええ。

 そうですね、ロハンさん達の3人の中で、犯罪を摘発するのに最も重要な人物などなただと思いますか?」


セレスフィアがセリアに問いかけると、セリアもすぐに答えた。


「もちろん、署長さんでしょ?」

「ええ。

 ですけれど、署長さん、最初のうちは覚悟が定まっていませんでしたでしょう?

 その署長さんに覚悟を決めさせたのは、セリアでしたわ。

 貴女がいなければ、署長さんは最後まで態度をはっきりさせず、街の方々で事件を解決する目処は立たなかったでしょう。

 貴女が、この街を救ったのですよ。」

「ふ、ふーん、そっか。」


言われて、セリアは照れながら、でも、ちょっと嬉しそうな顔をした。


「ノシェもだよ。」


セレスフィアに続けて、オティーリエもノシェに向かって言った。


「灯台で、ベッドの仕掛けをすぐに見抜いたでしょ。

 あそこで見つけた証拠は、この事件解決の鍵だったからね。

 リアーヌさんの誘拐だけじゃなくて、町長の悪事、つまり街を覆っていた暗い影を排除出来ることになったのは、ノシェのおかげだよ。」

「え、あれぐらいで?」

「その、あれぐらい、が重要なの。

 わたしはすぐに見抜けなかったから、たぶん、リアーヌさんの救出を優先して、あのタイミングで見つけることが出来なかったと思う。

 そしたら、町長の悪事の決定的な証拠も入手できていなかったし、そしたらロハンさん達との話し合いも暗礁に乗り上げていたから。

 だから、ノシェもこの街を救った立役者だよ。」

「そっか。

 ありがと。」


オティーリエに言われて、ノシェはほっとしたようにニッコリ笑った。


「でも、この事件の一番の立役者は。」


軽く身を乗り出すようにして、オティーリエが言うと。

ノシェは身体を起こして。

それから3人ともオティーリエの真似をして、軽く身を乗り出した。

せーの、なんて掛け声はいらない。


「「「「リアーヌさん(ちゃん)。」」」」


4人で声を揃えて言うと、誰からともなく、ふふふ、ははは、と笑い出した。


そして、その笑いが収まると、オティーリエは真面目な顔でノシェに言った。


「あとね。

 倉庫でわたしがヨハンに捜査を任せようとした時に、ノシェが言ってくれたことも嬉しかったよ。

 わたし、ヨハンに頼ることに慣れ切ってて、ああいう気遣い、出来なくなってたから、気付けてよかった。

 ありがとね、ノシェ。」

「あ、あー。

 いや、そこは気付かなくてよかったと言うか。」


ヨハンとしては、むしろどんどん頼って欲しいところだろう。


「え、どういうこと?」


ノシェが今度は困ったような顔で言いにくそうに言葉を濁すと、オティーリエは首を傾げた。


「そこも含めて、ヨハンさんとの絆についての宿題ってことね。」


セリアがすぱっとオティーリエの疑問を切り捨てると、オティーリエはハッとして顎に手をやって考え始めた。

とりあえず、セリアはそんなオティーリエは横に置いておいて、セレスフィアの方を見た。


「そんなことより、この後のこと、ロハンさん達に任せちゃってよかったの?

 街のことも、みんなで解決するんだと思ってたんだけど。」

「そうですわね。

 確かにそのつもりでしたけれど、途中で思い直しました。

 町長に反旗を翻すのは、余所者ではなく、街の方々でなければいけない、と。

 みんなに相談なしに決めてしまったのは申し訳なかったのですけれど。

 ごめんなさいね。」


セレスフィアが謝罪の言葉を口にすると、セリアが返事をする前にノシェが慌てて口を開いた。

主に謝罪させるなんて、付き人の風上にもおけない。


「ううん、大丈夫、フィアが謝る必要なんてないよ。

 あたしも、その方がいいと思う。」


そんなノシェを微笑んで見てから、セリアもノシェに続けて言った。


「私も賛成。

 だから、フィアは謝る必要なしね。」


言ってから、セリアはオティーリエを見た。

オティーリエはまだ悩んでいる様子で、先ほどと姿勢が変わっていない。


「まあ、ティリエはフィアに話を合わせてたから、気付いてたんだよね。」


と、セリアが肩を竦めながら、そんなオティーリエをフォローする。


「そうですわね。

 むしろ、ティリエは最初からそのつもりだったのではないかとも思いますけれど。」


セレスフィアがオティーリエを見たけれど、オティーリエはまだ自分の考え事に集中していた。


「ええっと、ティリエ?」

「わ!

 あ、えっと、ごめん、何?」


ノシェがそんなオティーリエに声をかけると、オティーリエもそれでようやく気が付いたようで、驚きの声を上げた。

ノシェはそれに苦笑いを浮かべた後、今までの会話と全然関係ないことを聞いた。


「ちょっと聞きたかったんだけど、倉庫で誘拐・・・じゃなくて監禁犯を見張ってた人って誰?」

「ああ。

 えっとね、実はヨハン以外にも、隠れてわたしに護衛が付いてるの。

 その人。」

「・・・え。

 そうだったの?」


ノシェが驚いた顔でセレスフィアとセリアを見た。

2人とも首を振る。


「そうだったのですね。

 心当たりが思い浮かばず、ずっと引っかかっていました。」

「でも、全然視線とか感じなかったわよ・・・ね?」


セレスフィアもノシェに同意する。

それから、セリアはセレスフィアとノシェを交互に見ながら質問した。


「ええ。」

「うん。」


そのセリアの質問に、2人も同意した。


「そこは、ほら、プロだから。」


オティーリエは簡単に説明したけれど。


「警護、ということでしたら、むしろ、警護対象に警護していることを知らせるものではないかしら?」


セレスフィアが、こて、と首を傾げながら尋ねた。

うんうん、とセリアとノシェも頷く。


『え、アーサー、そういうものなのでしょうか。』

『時と場合による。

 だが、もともと、主が街に出る時、いや、城を抜け出す時は隠れて警護が付いていたのであろう?

 ならば、それが習慣化しているのではないか?』

『・・・その可能性はありそうですね。

 それはともかく、わざわざ言い直す必要はございませんよ?』

『強調するための話法であって、本当に言いたいのは言い直した後だ。』

『より悪い意味になっておりませんか?』

『受け取り方次第だな。

 それから、今回の場合について言えば、主に気を使わせたくなかったためであろう。

 警護します、と言って付いて来れば主も警護者に気を使うだろうが、隠れて警護すれば、主も逆に気を使って警護者をいないものとして扱うであろうからな。』

『なるほど、ご指摘の通りですね。

 ありがとう、アーサー。

 ですけれど、このお話、前半は不要だったのではありませんか?』

『いや、実に重要な会話だったと思われる。』


「うーん、きっと、だけど。

 わたし達が警護してもらってるなんて知ったら、警護してくれてる人達に気を使っちゃうから、こっちに気を使わせないように、ってことじゃないかな。」

「ああ、確かに知ってれば気を使っちゃいそうだね。」


オティーリエがアーサーからの指摘をそのまま言うと、ノシェが頷いた。


「でも、今、知っちゃったわよ。」


セリアが指摘すると。


「気を使わせないように隠れて」


と、オティーリエはここまで強調して言って。


「警護してくれてるんだから、逆にいないフリをする方が護衛してくれてる人への気遣いだと思うよ。」

「なるほど、そういう考え方もアリね。

 分かったわ、そう思うようにする。」


オティーリエの説明に、セリアも納得して頷いた。

そう、なんとたった一日の出来事でした。

亡くなった灯台守とリアーヌが、ほとんど事を終わらせていたおかげです。


今年の投稿はこれで最後です。

本年はありがとうございました。

来年は1月5日から投稿します。

来年もよろしくお願い致します。

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