3.廃工場の入り口
オティーリエはそのまま、目星を付けた廃工場に向かった。
工場勤務者や工場に用事がある人のために西門から工業地帯まで、西の街道沿いにバスが出ていて、オティーリエはそのバスを利用して工業地帯へ向かう。
まだ午後の中途半端な時間のおかげで、乗客はほとんどいない。
オティーリエはナップザックを膝の上に抱えながら客席に座った。
そのまま、アーサーに状況を説明する。
『アーサー、これから工業地帯に向かいます。』
『分かっている。
誘拐された人物の救出に向かうのであろう?
我が主なら、そうするだろうと思っていた。』
アーサーは短時間の間に現代の言葉も文字も習得していた。
まだ完全ではないものの、ある程度は会話も文章も理解出来る。
ただ、オティーリエとの会話については、頑なに古語を維持しているけれど。
『ご理解いただけて何よりです。』
『理解したという意味では、今回の件で我が主について、少し認識を改めた。
我が主は自ら事件に首を突っ込んでいるのだと思っていたが、それだけではなくて、事件の方も我が主に寄ってくるのだな。
まさか、このような流れで事件に巻き込まれるとは思わなかった。』
『そうですね、小さなきっかけで事件に巻き込まれることも多いです。
だからこそ、お城を出て街を見て回ることは重要なのです。』
『いや、それは我が主が城を抜け出す理由にならぬ。
だが、それもまた必要なことなのだろうな。』
どこか悟ったように言うアーサー。
しっかりお小言混じりだったけれど、オティーリエはそちらには反応しないで後半にだけ返事をすることにした。
『はい、必要なことなのです。
それより、事件について説明は不要なようですね。
おそらく、現地でアーサーにもご協力をお願いすると思いますので、よろしくお願いしますね。』
『心得た。』
◇ ◇ ◇
オティーリエはあたりを付けた廃工場に到着した。
バスを使ったと言っても、移動にそこそこ時間はかかっている。
おかげで確実に16時の約束には間に合わないだろうけれど、仕方がない。
こんな中途半端な状態で二日も待てないのだから。
まずは、廃工場の周囲を探ってみる。
特に気になることはない。
だけど、もともとオティーリエも外から一目で分かるとは思っていなかったので、まずはこの廃工場を徹底調査。
この廃工場の入口は2か所。
道路に面した所にある大型車両が2台ていど通れるくらいの大きなシャッターと、工場脇の細い道を通って奥にある場所にある、おそらく人が出入りするための扉。
シャッターの方は人の力では持ち上げられないほどの大きさがあるので、人が出入りする扉の方を調べてみる。
すると、この扉には鍵はかかっていなくて、呆気ないほど簡単に扉が開いた。
それでも、オティーリエは警戒して、すぐには中に入らなかった。
おもむろにナップザックを背中からおろすと、ぷらーんとアーサーを取り出す。
『アーサー、お願いがあります。』
『なんなりと、我が主よ。
まあ、何をして欲しいのかは、だいたい察しはついたが。』
アーサーはぷらーんとされたまま答えた。
この状態自体は特に気にしていないらしい。
『はい、おそらくお察しの通りです。
この建物の捜索をお願いします。
確信は持てていませんが、地下への階段があるかもしれませんので、それを探してきて欲しいのです。』
『心得た。
・・・その、降ろしてくれないか、我が主。』
ぷらーんとさせたまま降ろそうとしないオティーリエに、アーサーは珍しく戸惑った様子。
『可愛らしくて、つい、降ろすのを忘れていました。
それでは、よろしくお願いしますね。
あと、ここでお待ちしていますので、何かありましたら、念話でご連絡下さい。』
『了解した。』
オティーリエはアーサーを降ろすと、再びナップザックを背負って立ち上がった。
それからオティーリエが扉を小さく開けると、アーサーがその隙間から建物の中に入って行く。
オティーリエはアーサーの後ろ姿を見送ると、扉の横に立ったまま、じっと扉の隙間から中を眺めていた。
しばらくそうしていると。
突如、オティーリエの背後から手が伸びてきた。
扉の中を気にしていたせいで、オティーリエがその手に気づいた時には一瞬遅く。
次の瞬間には口を塞がれ、さらに身体に回された腕で両腕ごと抱え込まれて、全く身動きが取れないようにされてしまった。
再び、大活躍のアーサー君。
そして、オティーリエの背後から忍び寄ってきた人物とは。




