6.密室の作り方
ガスパーは背後の三人を見た。
三人ともガスパーの視線に応えて頷く。
「状況的にも、おそらく事故だと考えられます。
ただ、念のため、鑑識はさせて下さい。」
ガスパーがそう言うと、オティーリエはポールの方を見た。
ポールは背中を丸めて下を向き、両手をぎゅっと握り合わせている。
深い悩みに落ちているように見える。
アメリ―は、そんなポールの背中に手を添えながら、心配そうに見ている。
そんな二人を、オティーリエは痛まし気な表情で見つめた。
それから、オティーリエは周囲を一度見回した後、そっと立ち上がった。
ネルが期待の眼差しでオティーリエを見ている。
「ガスパーさん、少しお手伝いさせていただいてもよろしいですか?」
「お手伝いですか?」
「はい。
私しか持っていない情報があります。
このことは、マクシムさんとアントワームさんもご存じありません。
あ、ご存じないと言いましても、マクシムさんとアントワームさんの責任ではありませんよ。
タイミングの問題ですので。」
オティーリエがそう言うと、ガスパーは一瞬だけ考えて、すぐに結論を出した。
「どのような情報ですか?」
「ポールさん。」
オティーリエがポールに声をかけた。
ポールはまだ自分の考えの中に沈んでいて、返事は返ってこなかった。
そんなポールにアメリ―が添えていた手でポンポンとして、声をかけた。
「ポールさん。」
それでようやくポールが気が付いて、顔を上げた。
「ん、あ、え。
あ、アメリ―さん、どうかしましたか?」
「リーエさんが。」
アメリ―がポールに言うと、ポールはオティーリエを見た。
「ポールさん、すみません、糸がありましたら、少しいただけませんか?」
「糸ですか?
ええ、ありますよ。
少しお待ち下さい。」
ポールはそう言うと立ち上がって、カウンターの中に入って行った。
マルタンの遺体が見えたのだろう。
複雑な表情を浮かべつつ。
そうしてポールが持って来たのは、大きな糸巻きだった。
そこそこ太い糸が巻き付いている。
ちょうど、オティーリエが見つけた窓の鍵の取手に付いていたのと同じくらいの太さ。
「ありがとうございます。
それでは、少しだけいただきますね。」
オティーリエはポケットから小さなハサミを取り出すと、糸を30cmほど切り取った。
「それでは、皆様、こちらにお越し下さい。」
オティーリエはそう言うと、窓の一つにやってきた。
オティーリエが喫茶店内を捜査した時に鍵に糸が結び付けられていた窓。
今はその糸はなくなっている。
訝し気な表情でガスパーがその窓の所にやってきて、他のみんなもガスパーを取り囲むように後ろに付いて来た。
ポールは青ざめた表情で一番後ろにいる。
オティーリエはちら、とポールを見た後、窓の方に向き直った。
「今からご覧に入れるのは、密室の作り方です。」
そう言って、まずは、窓の鍵の取っ手に糸の一端を結び付けた。
「ネルさん、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「私ですか?
分かりました。」
特に説明もないのに、ネルはオティーリエのお願いの内容を把握したようだ。
楽しそうにオティーリエの横に出て来る。
「それで、ここをこうします。」
オティーリエは鍵を半ばくらいまで、つまり鍵はかからないけれど、窓を閉めれるくらいの所で止めた。
次に、窓を半ばまで閉めて、その糸のもう一端を窓の隙間から外に出した。
それから、ネルを見る。
ネルはオティーリエの視線に頷くと、窓から外に出た。
みんなの見ている前で、糸が持ち上げられた後、窓が閉められた。
その後、糸が引っ張られていき、その糸に引っ張られて、かちゃんと窓の鍵が閉まった。
「以上が、密室の作り方です。」
オティーリエが、みんなの方を向いて言った。
密室、という言葉に、令嬢がそうではなかったことを解き明かしました。
これで、一気に事件性が高まりました。