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5.第二騎士団の事情聴取2

「まずはポールさん、今日の朝からの行動を教えて下さい。」

「朝から、ですか?

 気にしてなかったので、細かいことは忘れちゃいましたけど。」

「覚えていることだけで構いませんので。」

「分かりました。」


ポールは腕を組んで、思い出すようにちょっと上を見ながら話しだした。


「いつも通り、6時に起きて準備をして朝食、8時頃には店に来ていたと思います。

 時間は多少、前後していると思いますけど。」


と、ポールはここまで思い出し思い出ししながら言った後、組んでいた腕を解いてガスパーをまっすぐ見た。


「それから開店の準備をして、10時頃に商談のために店を出ました。

 戻って来たのは13時半頃で、戻って来たらアメリ―さん、ネルさん、リーエさんが店の前にいたんです。」

「何の商談ですか?

 相手は?」


ガスパーの質問に、ポールがちょっと眉を顰めた。


「それ、必要ですか?」

「どうでしょう。

 すみません、どこにどんな情報が転がっているか分からないもので、どんなに関係がなさそうでも、とりあえず聞いてみるのが我々捜査員の習性なのです。」


その答えに、ポールはちょっと溜息を付いてから答えた。


「商談、と言うのはコーヒー豆の仕入れ先です。

 今までの仕入れ先よりも安く販売してくれる所を見つけたので、それで相談に行っていました。

 相手はハーカン・エピセリーです。」

「他意のない、個人的な疑問なのですが、仕入れ先を変えるのですか?」

「どうでしょう。

 親父がうんと言ってくれないもので。」

「最近、二人がギスギスしてたのって、それが理由?」


アメリ―が横から質問を挟んだ。

事情聴取の途中で口を挟むのはなかなか勇気が必要だけれど、アメリ―にとって、このことはとても気になっていたことだったから。

その質問に、ポールが苦虫をかみ潰した顔で答えた。


「ああ、はい、そうです。

 アメリ―さん、よく見てますね。」

「そりゃ、毎日来てるからね。

 気になってたのよ。」

「マスターとポールさん、喧嘩してたのですか?」


今度はオティーリエが口を挟んだ。

ガスパーがちょっと嫌そうな顔をしているけれど、発言は止めなかった。


「まあ、そうですね。

 相手にしてくれない親父に、私が一方的に言い募ってる形ですから、あれが喧嘩と言えれば、ですけど。」

「分かりました。

 不躾な質問をしてしまい、すみません。」

「いやいや、このくらい、構いませんよ。」


オティーリエが申し訳なさそうに謝ると、ポールは小さく手を振った。

それで脇道の話も一段落、と判断したガスパーが、次の話題に移った。


「ポールさんが店に戻って来るまでの行動は分かりました。

 ポールさんが店を出る時、お父様は何をされていましたか?」

「開店の準備をしていました。」

「分かりました。

 ポールさん、ありがとうございます。

 それでは、アメリ―さん、先ほども話が出ましたけれど、どうして店の扉をガチャガチャしていたのですか?」

「あたしは朝から話さなくていいの?」


まだガスパーの態度を嫌悪しているアメリ―は、敬語で話すつもりはなく、普通に話した。

態度もちょっとつっけんどんだ。


オティーリエはアメリーの態度も理解できるものの、ガスパーが実は関係者に必要以上に肩入れしないようにするために、あえてこのような態度を取っていることを知っているので、心中はちょっと複雑。


「はい。

 喫茶店に来てからのことを教えて下さい。」

「ふーん。

 分かった。

 あたしが喫茶店に来たのは、お昼休みに入ってからだから、12時をしばらく回ったくらい。

 来てみたら、メニューボードも出てないし、窓も全部閉まってるし、扉を開けようとしても開かないしで、いったん、引き上げたのよ。

 それで、お昼休みをズラすことにして仕事して、13時くらいにまたお昼休みにして来てみたら、やっぱり開いてなくて。

 だから、扉開かないかなと思ってガチャガチャやってたら、リーエさんに声をかけられたの。」

「窓が閉まっていたのですか?」


ガスパーが店の窓を見ました。

今は全部開いている。


「あ、はい、私がマクシムさんとアントワームさんを呼びに行って帰って来た時に開けました。

 それまでは閉まっていましたよ。」

「鍵も閉まっていたわ。」


答えたのはポールで、補足したのはアメリ―。


「なるほど。

 鍵が閉まっていたのはどうしてご存じなのですか?」

「もちろん、本当に閉まっているのか見てみようと思って開けようとしてみたから。

 開かなかったけど。」

「扉も、閉まっていたのですよね?」

「ええ、そうよ。」


アメリ―の答えに、ガスパーはふむ、と顎に手をやった。


「まあ、でも、こうして入れたのですから、ポールさんが鍵をお持ちだったのですよね?」

「いえ、私は鍵を持たずに出ていました。」


ポールはそう答えてから、ちら、とオティーリエを見た。

ピッキングしたなんて、言っていいものか迷ったから。


「それでは、どうやって店に入られたのですか?

 ああ、いや、それはいったん、脇に置いておきましょう。」


ガスパーは顎にやった手を下ろした。


「そうして、アメリ―さんが扉を開けようとしていたところに、ネルさんとリーエさんが来たのですね?」

「はい、そうです。

 何やらお困りのようでしたので、お声かけさせていただきました。

 ただ、厳密には、ネルさんと私ではアメリ―さんがいらした所に到着したタイミングにはタイムラグがあります。

 ネルさんと私が二人で歩いていて、少し離れた所でアメリ―さんをお見掛けしましたので、私が先行してお声かけしたのです。」


ガスパーの質問に、オティーリエが答えた。

ネルは巻き込まれただけなので、基本的にネルとオティーリエに関する質問にはオティーリエが答えるつもりでいる。


「なるほど。

 お二人はどこに向かわれていたのですか?」

「パティスリー・オロンジュです。

 私がネルさんを案内していました。」

「分かりました。

 リーエさんがアメリ―さんに声をかけた時のアメリ―さんの反応は?」

「ちょっと不審者を見るような感じでした。

 それで、自己紹介したところで、ポールさんがいらしたのです。

 ポールさんがいらしたので、改めて私が自己紹介したところで、ネルさんも合流されて、全員で挨拶を交わしました。

 それから、扉が開かないというお話でしたので、私がポールさんにご許可いただいて、鍵を開けました。」

「どうやって?」

「第二騎士団の方には少々言いにくいことなのですが、ピッキングです。

 私の特技でして。

 もちろん悪用したことはありませんよ。」


ガスパーの表情はそれを聞いて、わずかに眉をひそめた。

一瞬、言葉に詰まったようになった後、口を開いた。


「まあ、その点に関しましては、確かに店の関係者に許可を貰っているようですので、目を瞑ります。

 それで、扉を開けてからは?」


オティーリエはちら、とアメリ―を見た。

その時の光景を思い出したようで、顔が強張っている。


オティーリエは、もともとアメリ―は話すのは怖いだろうと思っていたので、オティーリエが答えた。


「最初にアメリ―さんが入店されました。

 次に私が入店しようとしたところで、アメリ―さんの悲鳴が聞こえましたので、慌てて入店したところ、アメリ―さんはカウンターを指差しながら床に座り込んでいらっしゃいました。

 平静ではないご様子でしたので、次に入店されたネルさんにアメリ―さんをお願いして、私はカウンターの中を見に行きました。

 ポールさんも次に入店されて、カウンターに来られたところで、第二騎士団にご連絡をお願いしました。

 ポールさんもカウンターの奥のことを気にされていらしたのですが、私がもう一度お願いして、第二騎士団にご連絡に行っていただきました。」


あえて、遺体という言葉は使わずに。

もちろん、言葉の流れからそれを想起はするだろうけれど、せめてもの小さな気遣いとして。


「どうしてそのような判断を?」

「アメリ―さんをネルさんにお任せしたことですか?

 ポールさんに第二騎士団へのご連絡をお願いしたことですか?」


ガスパーは表情こそ変わらなかったものの、返って来た質問に戸惑って、ちょっと目が揺らいだ。

ガスパーとしては後者への質問だったけれど、確かに前者への質問とも取れる。

でも、戸惑ったのはほんの一瞬。


「では、その両方を。」

「分かりました。

 アメリ―さんをネルさんにお任せしたのは、ネルさんは巻き込まれた立場だからです。

 私がアメリ―さんに声をかけることを提案しましたので。

 ですので、何か起こっているのでしたら、私が把握しないといけないと思い、状況の確認を私がすることにしました。

 もちろん、ネルさんでしたらアメリ―さんをお任せしても大丈夫と思ったためでもあります。」


オティーリエはちらっとネルを見てから、話を続けた。


「ポールさんに第二騎士団へのご連絡をお任せしたのは、この辺りの地理に一番詳しいと思ったからです。

 後は、やはり、あまりお見せ出来る光景ではありませんでしたので。」

「なるほど。」


オティーリエの答えに、ガスパーは頷いた。


「詳細にご説明いただきまして、ありがとうございます。

 その後のことはマクシムさんとアントワームさんにお聞きしましたので、大丈夫です。

 ですが、もう少し確認させて下さい。

 まず、店の鍵はどこにあるのですか?」

「あそこです。」


ポールがカウンター入り口側の扉の横に吊ってある鍵を指差した。

全員の視線がそちらを向く。


「あの三つの鍵のうち、二つが店の鍵です。

 もう一つは奥の倉庫への鍵です。」

「なるほど。

 改めて確認しますが、あの鍵はずっとあそこに?」

「おそらく、そうだと思います。

 あまり気にしていませんでしたので、ハッキリとは言えませんが。」

「少なくとも、ポールさんが第二騎士団にご連絡に行かれた後はありましたよ。

 ちょうど目に入りました。

 3つ、あったことは断言できます。」


ポールの答えに、オティーリエが付け足した。


「分かりました。

 つまり。」


ガスパーが一拍置いてから、言った。


「この喫茶店は、密室だったということですね。」

第二騎士団の事情聴取のつづきです。

現場捜査と聞き取りで、第二騎士団としてはあるていど見当はついた様子です。

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