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4.第二騎士団の事情聴取1

扉を開けて、二人の男性が入ってきた。

一人は20代半ばくらい、もう一人は10代後半に見える。

この二人のことは、実はオティーリエは知っている。

捜査部第3グループのガスパー・レグリスとミヤリ・スミスだ。

ガスパーの方が先輩なので主担当者、ミヤリは補佐で来たのだろう。

マクシムとアントワームは制服だけれど、ガスパーとミヤリは半袖のYシャツにネクタイ、スラックスと私服。


二人が入って来ると、マクシムとアントワームはカウンターの中から出て来て、話しかけた。

そして、ガスパーとミヤリが挨拶をして捜査員だと知ると、マクシムとアントワームは敬礼をして挨拶を返した。

四人はそのまま事務的な話をした後、オティーリエ達の座るテーブルにやってきた。


「ガスパー・レグリスです。

 こっちはミヤリ・スミス。

 マクシムさん達と一緒に、本件の捜査に当たります。」


ガスパーが事務的な調子でそう言って、四人に頭を下げた。

その後ろで、一緒にミヤリも頭を下げる。

オティーリエ達四人も、軽く会釈を返した。


「まずは現場を確認させていただきます。

 その後、事情聴取させていただきますので、少々お待ち下さい。」


ガスパーはそう言うと、四人の返事も待たずにカウンターへと向かった。

ミヤリ、マクシム、アントワームもそれに続いて四人から離れる。


ガスパーはカウンターのところでマクシム、アントワームに話を聞きながら、カウンターの中に入って行った。

ミヤリがガスパーの後ろでメモを取っているようだ。


「なんだか、こう、次々に何か起こると、どんな表情をしていいのか分からなくなりますね。」


ポールが苦笑しながらアメリ―、ネル、オティーリエに言った。

どうやら、ガスパーの勢いに毒気を抜かれた様子。

ポールが少し落ち着いた様子になったことに、アメリ―はほっと胸を撫で下ろした。


「そう言えば、アメリ―さんはこの近くで働いているのですか?

 常連さんとのことでしたけれど。」


当たり障りのなさそうな話を、という訳でオティーリエがチョイスしたのはアメリ―の働いている所。


「あたし?

 あたしはロドニー会計事務所で事務をしてるの。

 近くか?と言われると、ちょっと遠いんだけど。

 ここから歩いて10分くらい。」

「それなのに、わざわざここに来ているということは、よほどこのお店の料理が美味しいのですね。」

「そうなの。

 ここのランチが美味しくて、いつもここに食べに来ているのよ。」


ちょっと勢い込んでアメリ―が答えた。

それにオティーリエが頷く。


「ランチが美味しいのですね。

 モーニングなどもやっているのですか?」

「いえ、モーニングはやっていません。

 11時に開店です。」


この質問に答えたのはポール。

ポールも本当に落ち着いたようで、多少、表情に翳は落ちているものの、普通に受け答えしてくれる。


「ちなみに閉店は何時ですか?」

「17時です。

 もう少し開店時間長くてもいいと思うんですけどね。

 親父が仕込みにかける時間は削れないと言って聞かないんですよ。」

「夜も営業してくれれば、あたし、食べに来るんだけどな。」

「ありがとう。

 でも、食べるよりは飲みに来てくれる方が嬉しいですね。」

「飲みに、ですか?」


アメリ―にポールが答えると、その答えを不思議に思ったオティーリエが首を傾げながら質問した。


「はい。

 この喫茶店はコーヒーが売りなんです。

 親父がコーヒージャンキーなもので。

 仕込みも、料理の仕込みではなくて、コーヒーの仕込みなんですよ。

 ああ、いや、仕込み、と言うよりも研究、と言う方が正しい気がしますね。」

「研究、ですか?」

「はい。

 今の季節、どの豆でどのくらい焙煎して、何度のお湯で淹れればいいか、とか。

 他にも色々と。

 私にはよく分かりませんが、毎日、熱心にコーヒーを淹れては味を確認してますよ。」


ポールのその言い方には、暖かみがあった。


「失礼します。」


四人がそんな話をしていると、ガスパーがテーブルの横にやってきた。

後ろにミヤリ、マクシム、アントワームが立っている。


「長くお時間をいただきまして申し訳ございません。

 少々、みなさんのお話を伺ってもよろしいですか?

 状況を把握したいもので。」


ガスパーがそう言うと、ポールが立ち上がって答えた。


「はい、分かりました。

 どうぞ、よろしければ隣のテーブルにでもおかけ下さい。」

「ありがとうございます。

 ただ、すみません、テーブルは移動させていただいて、四人でお話を聞きやすいように座らせて下さい。」

「どうぞ。

 どのようにしますか?」

「ああ、すみません、我々で移動させていただきますので、お構いなく。」


ガスパーが後ろを見て頷くと、四人は隣のテーブルを退けて、ガスパーを先頭に、後ろに残りの三人が並ぶように椅子を持って来て座った。


 ◇ ◇ ◇


「それではまず、みなさんのお名前をお聞かせ下さい。

 フルネームと、あと勤め先もお願いします。」


ガスパーがそう言うと、まずはポールが口火を切った。


「ポール・ブーランジェルです。

 この喫茶店の従業員です。」

「亡くなられたのは?」


その質問に、ポールは一瞬、痛まし気な表情をしたけれど、すぐにそれを隠した。


「マルタン・ブーランジェル。

 私の父親です。」

「これは、無神経な質問で失礼しました。」


ガスパーはそう言って、頭を下げた。

とはいえ、その言葉にさほど感情は感じられない。


「いえ、大丈夫です。」

「ありがとう。

 では、次の方、お願いします。」


ガスパーはきちんと話しているもの、その言い方には感情が籠っておらず、事務的だった。

その物言いにアメリ―はちょっと眉を顰めたけれど、そのことには触れずにアメリ―が答えた。


「アメリ―・メルシエ。

 ロドニー会計事務所の事務員。」


とは言え、アメリ―の言い方に棘があるのは仕方がないところ。


「分かりました。

 次の方。」


しかし、ガスパーの方もアメリ―の言い方は気にせずに話を進める。


「リーエです。

 ファミリーネームはありません。

 お城で家女中をしています。」


アメリ―の次はオティーリエが答えた。

お城の家女中、ということでガスパーがちょっと片目を見開いたけれど、追及はなかった。


「分かりました。

 次の方。」

「ネルです。

 パヴィラニー・コーポレーションに勤めています。」


ネルの会社名に、オティーリエは表情に出さなかったものの、内心で首を捻った。

つい先日、ホルトノムル侯爵領を上空から魔力探知を行った飛行船の持ち会社だったから。

偶然の一致ならいいのだけど、オティーリエは少し気になった。


パヴィラニー・コーポレーションに勤めていること自体は、ホルトノムル侯爵領にも支店があるのでおかしいことではない。

本人が観光で来ていると言っているので、本来の勤め先は他国の支店もしくは本店だろうけれど、それをここで指摘する必要はないだろう。

ガスパーも特に違和感なく受け入れたようだ。


「分かりました。

 みなさんの関係は?」


その質問に、ポール、アメリ―、オティーリエは顔を見合わせた。

ネルは笑みを浮かべたまま、お任せします、といった風。

結局、口を開いたのはポール。


「先ほども申しました通り、私はこの店のマスターの息子で従業員です。

 アメリ―さんはこの店の常連で、私とは顔見知りです。」


そう言ってから、ポールはオティーリエを見た。

オティーリエはそれに頷いてガスパーに答える。


「ネルさんと私は友人です。」


と、オティーリエが言った瞬間、ネルはちょっと嬉しそうだった。


「このお店にはたまたま通りかかりました。

 お店の前の通りを歩いていた時にアメリ―さんが扉をガチャガチャとされていたので、気になってお声かけしたのがきっかけです。

 ポールさん、アメリ―さんとは今日が初対面です。」

「なるほど。

 アメリ―さんが何をされていたのか気になりますが、それは後でお聞きすることにしましょう。」

「あの、マスターは、その、殺されたのですか?」


アメリ―が少し躊躇いながら、そう質問した。

ガスパーが顔色一つ変えずに、それに答える。


「それを、今から確認していきたいと思います。

 もう少し、お話をお聞かせ下さい。」


ガスパーはそう言って、さらに質問を始めた。

第二騎士団の事情聴取です。

四人は素直に聴取に応じます。

その中で、ネルがちょっと気になる発言を。

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