表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/145

2.マスターの遺体

オティーリエはその叫び声に、バッと喫茶店の中に駆け込んだ。

お店の中は、扉の反対側にカウンターがあり、中がキッチンになっているようだ。

調理器具やコーヒーを淹れるための道具などが並べられている。

カウンターの前には6脚のカウンター席があって、さらに入り口側と奥側の壁際に6席、テーブル席が置かれている。


そして、今、お店の中央でアメリーが腰が抜けたように座り込んで、カウンターの方を指差していた。

その表情には恐怖が浮かんでいる。


「ま、マスターが、マスターが・・・。」


震える声で、そんなことを呟いている。


オティーリエは後ろから入ってきたネルに視線を送った。

それにネルが真剣な表情で頷くと、オティーリエはカウンターへと飛び込んだ。


「あれ、こういう時、逆なのでは。」


ネルはそんなオティーリエに、ちょっと拍子抜けした様子で呟いた後、軽く首を振って気持ちを入れ替えて、アメリーに近寄った。

その前にしゃがんで顔を覗き込むようにしながら、視線を合わせる。


「大丈夫ですか?」


ネルに顔を覗き込まれながら、そう声をかけられて、アメリーは目をパチパチさせた後、ハッと気が付いたような表情になった後、ネルに必死な表情で言い募った。


「マスターが、マスターが倒れてるの!

 死んだように青くなって・・・!」

「アメリーさん、落ち着いて下さい。

 はい、深呼吸。」


アメリーはそう言われて目をパチクリした後、スー、ハー、スー、ハーと深呼吸した。

それで幾分落ち着いた様子。


かと思えばそうでもなかった。

いったん、静かになったものの、今度はネルの肩を掴んで乗り出すように中腰になり、必死の形相でネルに言い募る。


「そうよ、カウンターの中でマスターが倒れているのよ。

 早く助けないと。」

「はい、分かっていますよ。

 今、リーエさんが様子を見ています。

 アメリ―さんは、ひとまず落ち着いて下さい。」


ネルが落ち着いた様子でアメリ―の目を見ながら言うと、アメリ―はそれでようやく正気に戻ったようで、ネルを見ながらストンとそこに座り込んだ。

ネルの肩に置いた手も滑り落ちる。


「あ、そ、そうね。

 取り乱しちゃった。

 ごめんなさい。」

「いいえ。

 立てますか?」

「あ、はい。」


アメリーの様子を見て、ネルはすっと立ち上がると、アメリーに手を差し出した。

アメリーがその手を取ると、ネルはアメリーを助け起こした。


 ◇ ◇ ◇


オティーリエがカウンターに入ると、その奥で一人の男性が倒れていた。

頭を壁にもたれかけさせていて、瞳孔は開き、口も軽く開いていて、顔色も蒼白だ。

一目ですでに事切れていることが見て取れた。


その男性は濃い赤色の髪で、ポールとは血縁だろうと容易に想像が付いた。

カフェ・ブーランジェルのロゴの入ったエプロンを付けている。


オティーリエはそばに屈んで全身の様子を見てみたけれど、特に血痕などはなかった。

ただ、ざっと見た感じ、死後半日ていどのように見える。


そこまで見て取ったところで、背後からポールの声が聞こえた。


 ◇ ◇ ◇


ポールはネルに続いて店内に入った。

リーエがカウンターに向かい、ネルがアメリーに歩み寄って行く。

ポールとしてはアメリーが心配だったけれど、すでにネルが向かっていたので、カウンターに向かった。

そして、カウンターから中を覗き込むと、その奥に倒れている人物が見えた。


「あ、親父・・・?」


思わず呟く。

それから、様子を確認しようと近付こうとした、その時。


「ポールさん。」


父親の横に屈んで様子を見ていたリーエが、立ち上がって声をかけてきた。

ポールはハッとして思わず動きを止める。


「すみません、急いで第二騎士団にご連絡をお願いします。

 すでに亡くなられています。」

「いや、え?

 親父が?」


呆然とした顔で、再び一歩踏み出そうとしたポールの前に、遺体を隠すようにリーエが立ち塞がった。


「はい。

 ご遺族はご覧になられない方がいいでしょう。

 それより、第二騎士団へご連絡をお願いします。

 おそらくポールさんが一番、この辺りに詳しいと思いますので。」

「あ、ああ、分かった。」


そこまで言われて、ポールは踵を返すと、喫茶店を出て行った。


ポールが出て行ったのを見送ったオティーリエは、ネルとアメリーの方に視線を移した。

ネルがアメリーを落ち着かせてくれているようで、アメリーはテーブル席の一つに座り、ネルはその横に膝立ちになって俯いているアメリーの顔を覗き込むようにしながら何か話しかけているようだ。

とりあえず、アメリ―はネルに任せておけば大丈夫そう。


ポールが第二騎士団を呼んで戻って来るまで、さほど時間はかからないだろう。

オティーリエは、その前に終わらせるべく、現場検証を始めた。

喫茶店の中にはマスターの遺体が。

令嬢は本格的に捜査に乗り出します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ