13.飛行船の持ち主
言っていた通り、ヨハンは新聞チェックの時間に飛行船の情報を持って来た。
部屋に入って椅子に座るなり、飛行船についての話を始める。
「お嬢、あの時間に領都上空を飛んでいたのは、パヴィラニー・コーポレーションっていう会社が持っている飛行船だけだったそうだ。
飛行船の名前はケイト・アンド・フランシス号。
素性もハッキリしている飛行船だ。」
「パヴィラニー・コーポレーションと言えば、全世界規模の総合商社ですね。」
パヴィラニー・コーポレーションは世界各地に拠点を設け、世界規模で様々な商売を行っていて、全世界でも十指に数えられる総合商社。
その本拠地は、ネルガーシュテルト帝国に併呑されたイラス共和国だったりする。
しかし、イラス共和国がネルガーシュテルト帝国に併呑された後も会社は存続していて、現在も活動を続けている。
「ああ。
成り立ちは知ってるよな?
まあ、だからと言って、帝国の関与を疑うことにはならないと思うが。」
「そうですね。
それで、ケイト・アンド・フランシス号はどのような航路を飛んでいたのですか?」
「ハイトンのムスリニーからオリベスクだそうだ。
ホルトノムル上空で旋回したのは、なんでもエリアマネージャーとかいうお偉いさんが乗船していて、城塞都市の全景を見たかったから、と言ってるらしい。」
ハイトンというのはオリベール王国の南隣にあるクウェーリ公国のさらに南隣にある国。
ムスリニーというのはそのハイトンにある地方都市のこと。
ムスリニーからオリベスクに飛ぶのなら、ホルトノムルはその航路上の通過点になる。
「本当でしたら誇らしいことですけれど、少し取って付けたような感じはしますね。」
「だな。
だが、逆に、だからこそ本当なのかもしれない、とも思ってしまうけどな。」
「そうですね。
それに、事実を利用して言い訳に使っている可能性もありますし。
なんとも言いにくいですね。」
「じゃあ、これはいったん置いとこう。」
と、とりあえず結論づけてから、ヨハンは次の話題に移った。
「こいつの積み荷なんだが、総合商社らしく多岐に渡ってる。
食料品、化粧品、あと宅配の荷物なんかも積んでるらしい。」
「遊覧用の飛行船ではないのですね。」
オティーリエが言うと、おっと、とヨハンはそこで気が付いた。
「そいつを先に言うべきだったな。
そう、遊覧用ではなくて、貨物運搬用の飛行船だ。
大型の飛行船で、さすがに重機は無理だが、自家用車数台ていどなら乗せられるらしいぞ。」
「ぜひ、飛んでいる姿を見てみたかったですね。
残念です。」
本当に残念そうにオティーリエが言う。
「飛行船なんてそんな珍しい物じゃないだろ。」
「ですけれど、普通の物よりかなり大きいのでしょう?
それだけで見る価値があります。」
ふんす、とちょっと力を入れて言うオティーリエ。
しかし、まあ、いつものこと、とヨハンはオティーリエの発言を無視することにした。
「まあ、飛行船についてはこんなところだ。
他に聞きたいことはあるか?」
それに、オティーリエの頬がぷくっと膨れた。
けれど、すぐにハッと気が付いて元に戻る。
こんな子供っぽい仕草は卒業したのだ。
「いえ、分かりました。
ありがとう、ヨハン。
それより、オリベスクに向かうのでしたら、オリベスクで探りを入れられそうですね。」
「そうだな。」
ヨハンが頷くと、オティーリエがにっこり笑った。
「と、言う訳で、通信の魔法具をお貸し下さい。
まだお持ちですよね?
お父様に直接、お話します。」
オティーリエにそう言われて、ヨハンはちょっと驚いた後、すぐに仕方ないという顔をした。
「お見通しか。
いちおう、緊急連絡用で、普段は使っていないんだがな。」
「はい、承知しております。
ですけれど、今回は降魔石と魔石の説明も必要でしょうし、手紙では説明しきれないと思いますので、直接、お話したいのです。」
「なるほど、確かにそれはそうだな。
はいよ。」
ヨハンは懐から通信の魔法具を取り出した。
受け取るためにオティーリエが手を差し出すと、その手の平にポトリと落とす。
「ありがとう。
夜に連絡して、明日、お返ししますね。」
◇ ◇ ◇
ただ、結局のところ、ケイト・アンド・フランシス号からは特に何も見つけられなかった。
エリオットは、ケイト・アンド・フランシス号がオリベスクで積み荷を降ろす際に諜報員を作業員の中に潜り込ませて、操縦席まで探ったらしいのだけれど、怪しい装置はなかったらしい。
もともと、魔力探知に魔法具を使ったというのも推測だし、推測が当たっていたとしてもその形状は分からないので、それも仕方のないことだろう。
◇ ◇ ◇
こうして、白騎士への挑戦状に端を発した騒動はあまり確証は得られず、暗い未来予想図のみを残して幕を閉じた。
第7話はこれでおしまいです。
幕間的なお話だったのですが、思ったよりも文字数がかかってしまいました。
次のお話は、また街で起こった事件に首を突っ込んで奔走するお話です。
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