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12.帝国の関与

夕方、午後の勉強の時間も終わって、夕食までの隙間時間を利用して、オティーリエはルカに会いに来た。

ヨハンとリスの姿のアーサーも一緒。

色々と秘密のお話をするので、侍女達は連れて来ていない。


と、言う訳で、最近、なんだか定番になりつつあるけれど、迎賓室でオティーリエがソファに座り、その斜め後ろにヨハンが立って、向かいにはウィリアムとルカが座っている。

ルカの方も心得たようで、オティーリエとして来る時はこの布陣で領主代理としての話、リーエとして来る時はオティーリエ個人として話したいということなのだと理解した。


「ルカ、本日は昨日のゴリラ型ロボットに関連してお聞きしたいことがあってお伺いしました。」

「え、あいつ?

 僕は何も知らないけど?」


何言ってるの?という顔でルカが聞き返す。

それにオティーリエは分かっていますよ、という顔で話を続けた。


「はい。

 お聞きしたいのは、あのゴリラ型ロボットで使われていた資材についてです。

 ゴリラ型ロボットはその骨格に、剛性の強化の魔術をかけて、魔石で魔力を供給してその魔術維持するような仕掛けが施された資材が使われていました。

 ルカは、このような資材にお心当たりはありますか?」


ルカへの質問だけれど。オティーリエの言葉に強く反応したのはウィリアムだった。

とても驚いた表情をしている。

それはそうだろう。

ウィリアムの知る魔石は、降魔石のことなのだから。

しかし、現場でそのような物は発見されなかったし、文脈から推測するに何か別物の違うようだったので、ウィリアムはそれに口を挟むのは控えた。


ルカの方はと言うと、オティーリエの質問に意地の悪い笑みを浮かべた。


「姫さん、ひょっとして魔術的な物ならネルガーシュテルト帝国が絡んでるんじゃないかと思って僕に聞きに来たってわけ?」


そして、ふふんと得意げな表情になった。


「でも、残念。

 僕はそんな物知らないよ。

 そもそも魔石をそんな風に使うなんて、聞いたこともないね。」


ルカの答えに、オティーリエはやっぱりそうなのかな?と思い、ヨハンは、ん?と思った。

ルカは魔石と聞いても、脅威的な存在だと思っていない様子。


ちなみにルカの横でウィリアムは、そこは得意げになるところではないだろう、と心の中でツッコミを入れていた。


「ネルガーシュテルト帝国では、魔石をどのようにお使いになられているのですか?」


オティーリエの反応が薄かったので、ルカはちょっと不満そう。

でも、質問にはきちんと答えた。


「魔術師の魔力補助のためだよ。

 魔力が足りなかった時に魔石から魔力を引き出して魔術を使ってる。

 他の使い方は聞いたことがないよ。」

「そうなのですね。

 分かりました。」


この答えから、オティーリエはルカの言う魔石とは、やはり降魔石ではなくて、魔力の塊の方の魔石なのだと了解した。

オリベール王国を始め、その周辺国では魔石とは降魔石のことで、魔力の塊の魔石はその存在自体、知られていない。


しかし、ネルガーシュテルト帝国では、魔石とは魔力の塊のことを言って、しかもそれが存在している。

このような国は、現代では他にはほぼないだろう。


「ルカ、一つ忠告しておきますね。

 少なくとも、このオリベール王国とその周辺国では、魔石という言葉は降魔石のことを指しますので、お気を付けくださいね。」

「へえ、そうなんだ。

 了解、気を付けるよ。」


オティーリエの忠告に、ルカは素直に頷いた。

オティーリエとしては降魔石という言葉は通じるのかな?と思いながらの忠告だったけれど、大丈夫だったようだ。


ここまでのルカとの会話で、オティーリエが聞きたかったことはだいたい聞けた。

やはり、ネルガーシュテルト帝国は魔石を持っていて、利用している。

他にどれくらいの国が魔石を使っているかは分からないけれど、マージナリィに言って調べてもらうのもいいかもしれないとは思った。


オティーリエは、ルカとここまで話してから、今度はウィリアムを見た。


「ここまでのお話、ウィリアム卿には情報が足りていなかったと思います。

 後で説明させていただきますね。」

「は。

 ぜひ、お願いいたします。」


そう言われて、ウィリアムは慇懃に頭を下げた。

それから。


「ところで、どうしてお嬢様が先ほどのような情報をご存じなのですかな?

 広場のロボットの残骸には、一般人は誰も近づけなかったはずなのですが。」


少し咎めるようにオティーリエに質問した。

それに、オティーリエはちょっと目を泳がせた。

ウィリアムが言いたいことは、みなまで言われなくとも想像がついたから。


「ゴリラ型ロボットを魔力を探知する魔法で見てみたところ、外装や駆動部などは特別な物ではなかったのですが、骨格が魔力を帯びていましたので。」


とりあえずそこまで説明する。

これで誤魔化せるとは思えないけれど。

ウィリアムの方も、逃さなぬとばかりにきらんと目を光らせた。


「なるほど。

 では、先ほどの魔石の話はどこに行きましたかな?

 そういえば、お嬢様の車が例の広場から離れた所を走っている所を見た騎士もいるのですが?」


その指摘に、オティーリエも観念しましたとばかりにつづきを説明した。


「ゴリラ型ロボットが爆発した際に、遠くに飛んで行って変形した後、煙を吹いた箱がありましたよね?

 気になったもので、あの箱を追いかけて、その残骸を調査したのです。

 ですけれど、ヨハンも一緒でしたよ。

 決して、一人では行動しておりません。」


答えが少々、言い訳がましくなってしまったのは仕方ない。

しかし、ウィリアムの追及はそれで終わらなかった。


「箱を追いかけて行ったということは、調査が目的ではなくて、ロボットのパイロットを捕まえるのが目的だったのではありませんか?」

「はい、その通りです。」


そのウィリアムの追及に、オティーリエは顔を下げたりはしないものの、いくぶん、身体を小さくして答えた。

そんなオティーリエに、ウィリアムは小さく溜息をついてから、話を続けた。


「まあ、ヨハンが一緒なのでしたら、あまり強くは言いませんが。

 御身はホルトノムル侯爵のご息女なのです。

 その身を危険に晒すような行動はお控え下さい。」

「はい。

 不必要に危険には近づかないようにします。」


オティーリエが素直に答えると、ウィリアムはもう一度、小さく溜息をついた。

このオティーリエの答えは、必要なら危険に近づくと言ってる。

オティーリエ本人もそれを意識しての言葉選び。

ウィリアムもそれは分かったけれど、そういったところも含めて、このお嬢様なので、とりあえずこれで矛を収めることにした。


「本当に、十分にお気を付けください。」


とは言え、思わず一言余分に出てしまったけれど。


「はい。」

「あれ、姫さん、僕と別れた後は近衛騎士と一緒だったんじゃないの?」


今度はルカが首を傾げながら尋ねた。

しかし、これにはオティーリエもきちんと答えることが出来る。

オティーリエは気持ちを切り替えて、それに答えた。


「はい。

 途中からヨハンと合流したのです。」


とは言っても、余計なことは言わずに、簡潔に事実だけを述べる。

誤魔化す際のコツ。


「ふーん。

 まあ、いいけどさ。

 どうせ、最初からそいつもいたんでしょ。」


誤魔化されてはくれなかったけれど。

ルカはちょっと不貞腐れた様子。

近衛の騎士はともかく、従者のヨハンまで護衛に付いていたと聞いては、仕方のないところ。

でも、この指摘は正しいので、オティーリエとしても否定は出来ない。

とは言え、変に誤魔化すよりも、正直に言った方がいいだろう。

と、言う訳でオティーリエは素直に事情を話すことにした


「ルカが信用できないからと言う訳ではありませんよ。

 ヨハンには普段から護衛のみでなく、お城との連絡係や車の手配など、色々と便宜を図っていただいておりますので、それを含めてのことです。

 昨日も、ゴリラ型ロボットが暴れ出してからは、別の用事で離れておりましたもの。

 ルカがいらしたおかげで、あの混乱の中でもヨハンが離れることが出来たのですよ。」

「ふーん。

 まあ、いいけどさ。」


ルカは完全に納得した訳ではないけれど、ある程度は納得した。

ヨハンとルカでは立ち位置も役割も違うので、多少は仕方がないことだから。

ただ、信用して自分一人を護衛にはしないんだな、と、ちょっとだけ不満はあるけれど。


「それより、ルカ。

 貴方は昨日、あの後どうされたのですか?

 東の壁外を見て回ると仰ってましたけれど。」


オティーリエは部屋の空気を変えようと話題を変えた。

ルカに聞きたかったことももう聞き終わったし。


「ああ、うん、あの後は。」


ルカもオティーリエの話題転換に乗っかって、東の壁外での話を始めた。

ルカへの聞き取り調査です。

こう聞くと、帝国の関与が濃厚そうです。

早計は禁物ですが。

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