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2.お祭りの朝

7月3日当日の朝8時。

オティーリエは白騎士への挑戦状の新聞広告で指定された広場にやって来た。

リーエに変装、と言っても、もちろん服は家女中ではなくて普段着で。

この季節、長袖は着れないので、アーサーは鎖状のブレスレットになってもらって右腕に巻いて、

ルカも、他人のフリで付かず離れずで付いて来ている。


オティーリエが広場に着いてみると、すでにそこはお祭り騒ぎ。


広場を囲うように屋台が並び、すでに販売が開始され、客が屋台の前に並んでいる。

オティーリエとしては人が少ないうちに様子を見ようと思ってそれなりに早くやって来たつもりだったのだけれど、それでも遅かったらしい。

さすがはホルトノムル侯爵領。

お祭りごとに本当に目ざとい。


広場の真ん中は大きく開けられていて、ロープが張られて立ち入り禁止になっている。

実はこの広場の使用許可申請が出されたわけではないのだけれど、何もしなければ大混乱になることが予想出来たので、お城側で事前準備を行ったのだった。

もちろん、第一騎士団は広場から離れた所でゴリラ型ロボットが出現した時に備えて待機しているし、第二騎士団も会場警備のために出動している。


「おや、リーエちゃんじゃないかい。

 おはよう。」

「おはようございます。

 今日はこちらにご出店されているのですね。」


屋台のおばさんがオティーリエに声をかけて来た。

いつもは中央広場で串焼きの屋台を出しているおばさんで、お腹が空いたからと言うより交流のために時々串焼きを買っているうちに親しく声をかけてくれるようになった。

オティーリエはおばさんに挨拶を返すと小さめの串焼きを購入して、お店を離れた。


本当はもっと話をしたかったところなのだけれど、お店が忙しそうなのでやめておいた。


今、ルカは、オティーリエのすぐ横ではなくて少し離れた所から護衛をしている。

オティーリエが串焼きを買って歩きながら食べ始めたのを見て、いやいやお嬢様のすることじゃないだろ、とか心の中でツッコミを入れながら。


ちなみにヨハンは、そのルカにも見つからないように完全に周囲の人に溶け込みながらオティーリエの護衛をしている。


そんな、ざわざわとした中をオティーリエは人の間をすり抜けるようにして広場の中心へと向かった。

広場の中心は巨大なロボットが対決するためだろう、かなり大きめに丸くパーテーションロープでスペースが区切られていて、第二騎士団員が一定間隔で立っている。

それから、白騎士やゴリラ型ロボットが通れるようにだろう、東の街道からそのスペースまでにも道を作るようにパーテーションロープが設置されていた。


そのパーテーションロープを囲うように、すでに人だかりが出来始めている。

椅子を持って来て座っている強者までいるようだ。

オティーリエは出来るだけ急いでその囲いの前の方の隙間を探して歩いた。

幸い、一番前に人一人分のスペースが確保できたので、そこに立って開始時間まで待つことにする。


そのオティーリエのすぐ後ろにルカがやって来て、そこで立ち止まった。

ルカはオティーリエには声をかけず、あくまで観客の一人のフリで、そこに陣取る。

オティーリエもちらりとルカを見ただけで、すぐに前を向いた。


 ◇ ◇ ◇


そうして待つこと1時間半。

東の街道側ではなく、反対側がざわざわとしだした。

そのざわめきにつられてオティーリエがそちらを見てみると、遠くからゴリラ型ロボットがやって来るのが見えた。

新聞広告に掲載されていたものと全く同じ。

そして、その大きさも白騎士と対決するのに相応しい大きさであるようだ。


ゴリラらしく、ナックルウォーキングでゆっくりと歩み寄って来る。


その様子を見て、オティーリエは内心、感動に打ち震えていた。

実際にはいないだろうという予想が外れて残念がる場面だけれど、それ以上に、巨大なロボットが歩いてくる景色に心奪われていた。

それはもう胸の前で両手を組んで、長く離れていた恋人を迎えるかのような表情を浮かべるほどに。


そんなオティーリエを見たルカは、ちょっと引き気味。


『ふむ。

 マージナリィの話では、現代では作れないということではなかったか?』

『はい。

 ですけれど、実際に作った方がいらしたのですね。

 感動です。

 爺やのお話では関節の動きに耐えられる資材がないとのことでしたけれど、どのように解決したのでしょうね。』

『主よ、あのロボットの魔力を見てみるといい。』

『分かりました。』


オティーリエはアーサーに言われた通り、魔力を見る魔法を使ってみた。

もちろん、心言で。


魔力(Mana)探知(Detection)


ただ魔力を帯びているかだけを見る魔法。

魔力の質や量までは見ることは出来ないけれど、魔力を持っているかは見ることが出来る。

母親には教わっておらず、アーサーの知識の中にもなかったのだけれど、ルカが知っていて教えてもらった。

ちなみにアーサーの知識になかったのは、魔法語でも短い文節で見れるため、アルビオン皇国時代は、わざわざシンボル化されていなかったためらしい。


そしてその魔法を使って見えた光景は、ゴリラ型ロボットの中でもフレームと思わしき部分が魔力を帯びている様子だった。


『魔法で骨格を強化しているのですね。』

『そういうことだ。

 この機会に、主は目新しい物を目にした時は魔力を見るように習慣づけるのもいいと思う。』

『はい、そうします。

 ところで、あのように永続的な強化は可能なものでしょうか?

 いつか、魔力が尽きてしまうと思うのですけれど。』

『おそらく魔石を使用しているのだろうな。』


アーサーの言う魔石は純粋な魔力の塊のこと。

つまり、ゴリラ型ロボットは魔法で強度を増した骨格を用いていて、その魔法は魔石に蓄えられた魔力で維持しているということ。


『あの骨格そのものが魔石なのですか?』

『いや、あの骨格自体は魔法が付与されただけの物だ。

 骨格に魔石が埋め込まれているのだろうと思う。』

『そうなのですね。

 分かりました。』

『ところで、あれがあればマージナリィでも同じ物を造れるか?』

『造れると思います。

 ただ、爺やは魔法には頼らず、現代の技術で造ることに拘ると思いますけれど。』

『なるほど。

 それは残念だ。』


ゴリラ型ロボットが近づいて来るのが見えてから、広場の方では色々と人の動きがあった。

新聞記者達は我先にとゴリラ型ロボットが近づいて来る方に向かい、他の人々も少しでも近くで見ようと移動を開始する。

第二騎士団は少しでもそんな人々の動きをコントロールしようとパーテーションロープを伸ばしてゴリラ型ロボットがまっすぐ来れるよう道を作るべく走り出した。

また、第二騎士団の別動隊は広場の人々を誘導して、ゴリラ型ロボットが来る方から中心のスペースまで通れるように道を作ろうとしている。


そんな風に広場中がドタバタしている中で、オティーリエは横から来る人の波に流されてしまい、中央のスペースから離れてしまった。

だいぶ流されてしまって、中央のスペースの円の1/4くらい東の街道寄りに来てしまっていた。

中央のスペースのパーテーションロープからは、前に5人くらい人がいる。

ルカの方は、なんとかオティーリエの傍という位置はキープしていて、いつの間にか後ろではなくて横に並んで立っていた。


オティーリエは一番前に陣取れなかったのを残念に思いながらも、とりあえず人波も落ち着いたところで、オティーリエはその場でやってくるゴリラ型ロボットの方を見た。

人波に流される前よりも半分くらい、広場に近づいている。

第二騎士団は的確に動けたようで、広場の中央までの道もきちんと出来ていて、その道沿いに新聞記者や見物人が並んでいた。

新聞記者のカメラのストロボがゴリラ型ロボットを彩るようにピカピカと光っている。

大声で質問をしている新聞記者もいるようだが、ゴリラ型ロボットはそれには答えず、静かに広場へと歩を進めた。


 ◇ ◇ ◇


ゴリラ型ロボットは広場の中央に来ると、両腕を振り上げ、軽く上半身をのけぞらせると、両腕で胸を叩いた。

ドラミングだ。

完全にゴリラだ。

だけれど、オティーリエはそのゴリラ型ロボットの滑らかな動きに感動していた。

アーサーも同じく。


『素晴らしいですね。』

『ああ。

 骨格に魔法を使っているとは言え、それ以外には魔法を使わずに、これだけの物を造れるとは現代の技術には本当に驚かされる。

 惜しむらくは魔石の魔力が尽きるまでの時間限定だということだな。』


アーサーにそう言われて、オティーリエはゴリラを見るのに使っていた魔法を変えた。


【私の、目に、魔力の、量を、色を、付けて、見せなさい。】


アーサーと出会った時に魔獣の核を見つける時に使った魔法の応用だったけれど、上手く行った。

目に見える景色に魔力の量が色で表現されて重なって見える。

それで見ると、ゴリラ型ロボットの魔力量はかなり心許ない感じ。


『残り少なくありませんか?』

『ああ。

 少ない。

 姿を現してから魔力の消費量を見ていたが、歩行なら数日保つかもしれないが、先ほどの胸を叩く動作を続けるなら、1日保たないな。

 私と戦おうものなら、負荷も増えて、5分と保たないと思われる。』


魔法で強度を確保しているので、負荷がかかれば、それだけ魔力の消費量も増える。


『勝負以前のお話ですね。

 ですけれど、こうして姿を現されたということは、操縦者、いえ、操縦者だけでなく製作者もそれをご存じないのではないでしょうか。』

『私もそう思う。』


ともあれ、ゴリラ型ロボットはドラミングをした後、拡声器を通しているらしい声で声を発した。


「我が雄姿を見るためによくぞお集りいただきました、皆の衆。

 これこそ、我が技術の粋にして当代最高傑作でございます。

 とくとご覧あれ!」


そう言って、ゴリラ型ロボットを腕を高く振り上げて動きを止めた。


拡声器の質が悪いのか声が割れていて、地声はよく分からない。

言葉もなんとか読み取れた感じ。

操縦者が姿を現す様子がないので、正体を隠すためにわざと通りの悪い拡声器を使っているのだろうとオティーリエは見当をつけた。


ゴリラ型ロボットはその姿勢のまま動きを止めた。

そのまま、周囲はざわざわしたまま時は経ち。


新聞広告でゴリラ型ロボットが白騎士に挑戦を指定した10時になった。

令嬢は朝、早目に挑戦状で指定された場所に行きましたが、現地はすでにお祭り状態でした。


そして、なんとゴリラ型ロボットが本当に現れました。

現れないと思っていた令嬢はもちろん、従者もびっくりです。

そして、実際に動く巨大ロボットに目を輝かせる令嬢。

その様子に、ヨハンは慣れっこですが、ルカはちょっと引き気味です。

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