12.従者と対策会議
夕食の後、オティーリエは人払いをしてヨハンと二人になると、まず、この日にあったことを話した。
棺の話をした時にオティーリエが少年の裸を思い出して、突然、顔を赤くして黙り込んだのをヨハンとアーサーが慌てて心配したりなんてこともあったけれど、それはさておき。
「と、言うわけで、犬も怪しい家も大当たりでした、ヨハン。
さすがですね。」
「それは情報を持ってきたチビ達に言ってやってくれ。
って、無理か。
お嬢が礼を言っていたと伝えておくよ。」
「よろしくお願いしますね。」
チビ、というのはヨハンが領都内の情報を集めるのに使っている浮浪児グループの子供達のことだ。
領都は概ね平和で、暮らしに困るということはあまりないとはいえ、それでもやっぱり貧富の差はあるし、家庭環境や事情によって、一定数、浮浪児となってしまう子供達もいる。
そういった子供達が自然に集まって相互扶助的に作ったグループが領都内にいくつかあって、ヨハンはそれらのグループの面倒を見る代わりに、様々な情報を仕入れている。
子供達はどこにでも入り込んで様々な有象無象の情報を仕入れてくるので注意は必要だけれど、上手く取捨選択すれば、大人達からの情報よりも役立つことも多い。
「とはいえ、犬の方は怪しいってだけだし、そもそも分かったところで、どうしようもないからな。
氷漬けの棺の方も魔獣との繋がりはまだ全く見えていないんだ。
怪しいからと言って、それに凝り固まりすぎないようにしないとな。」
「そうですね、気を付けます。
あの日記が決め手になればいいのですけれど。」
ヨハンの言葉に、オティーリエが表情を引き締める。
油断をしているつもりはなくても、注意はいくらしてもしたりないということはない。
「ああ。
早く見せてもらえるといいな。」
「見せていただく前に、報告を聞くことになりそうな気がしています。」
領内で起こった大きな事件は、執務の時間に報告を聞くことになっている。
魔獣の件は最優先事項なので、明日の執務の時間にでも報告が上がってくることだろう。
「さて、それじゃあ、魔獣の件はこれまでにして、新聞を見て行こう。
ただ、パッと見ただけでも白騎士の記事が増えているのが分かるぞ。」
それからは二人でヨハンが持ってきた今日の国内各領および周辺諸国の新聞を見ていく。
すると、ヨハンの想定していた通り、白騎士についての記事が増えていた。
国内の新聞社から購入したり、提携新聞社から入手したりしたのだろう、白騎士の写真が複数の新聞で出ていた。
また、写真が載っていなくても、記事にしている新聞もいくつかあった。
国内他領の新聞に関しては、白騎士が何物かという推測記事や、いわゆる有識者と呼ばれる人々の意見を載せている記事などもあった。
とはいえ、白騎士に誰かが乗っているとは思わないようでそういった記事はないし、白騎士が出現したり姿を消したりした時の前後に行われていたことを載せているような記事もなかった。
「ヨハンの言っていた通り、アーサーについての記事が増えていますね。
情報は特に増えていないようですけれど。」
「だな。
城への問い合わせも増えてるらしいぞ。
全部、調査中で返したらしいが。
第二騎士団にも問い合わせが大量に来てるんだろうな。」
「そういえば、記者会見開きませんね。」
ちょっと疑問顔でオティーリエが言った。
大きな事件が発生した場合、第二騎士団は記者会見を開いて状況の説明や質疑応答を行うことが通例になっている。
しかし、今回はまだその記者会見が行われていない。
「発表出来るだけの情報がないということだろう。
被害の規模や被害者の数はすでに報道に出回っているからな。
そういう意味では、明日には開くかもしれないな。」
「そうなるといいですね。
ところで、被害者への救済処置がどうなったか、ご存じですか?」
質問されて、ヨハンがちょっと嫌な顔をした。
「まだ揉めてる。
第二騎士団からも情報を仕入れているんだろう。
犯人がいるのなら、その犯人が賠償すべきだと言っている者がいるようだ。
被害者はすぐにでも暮らしを立て直したいだろうに。」
「そうなのですね。
分かりました。
明日の執務の時間に決めさせるようにします。」
「ああ、頼む。
お嬢が言ってくれれば、話が進むだろう。」
これで一区切りとばかりにヨハンが一つ頷いた。
「さて、他に聞いておきたいことはあるか?」
「いえ、これだけ話せれば大丈夫です。」
「そうか。」
ヨハンは立ち上がって、オティーリエの横に持ってきていた椅子を元の場所に戻した。
それから、机の上を片付けて新聞紙の束を抱える。
「じゃあ、今日はここまでだな。
おやすみ、お嬢。」
「おやすみなさい、ヨハン。」
再び、令嬢と従者の会話でした。
令嬢は領主代理でもあるので、必然的にその従者もお城の中の状況について把握するようにしています。




