12.予想通りの出会い
予想通り、セレスフィアとノシェの襲撃でした。
セレスフィアの様子については、、、どうぞ、お察し下さい。
オティーリエは使用人用の通用口からお城を出ると、とりあえず中央広場に向かって歩き出した。
今日は事件の捜査を行いたい気持ちはあるものの、まず間違いなくノシェが声をかけて来るだろうから、何の予定も考えていない。
一人で歩きながら、お城の正門も通り過ぎて、南地区の通りに入ると。
果たして、オティーリエに声をかけてくる人がいた。
ノシェだ。
今日のノシェはオストライア家のお仕着せではなくて、明るい水色のワンピースの上に茶色のカーディガンを羽織っている。
「すみません、リーエさんですか?」
質問をしているものの、それはあくまで確認であって、リーエだと確信している様子。
セリアといい、自分の変装を疑いたくなるオティーリエだったけれど、ルカにはバレなかったので、ノシェやセリアが特殊なだけで問題ない。
ハズ。
「はい、そうです。
貴女は?」
と、オティーリエがノシェの方に向いて答えると。
「茶番はいいよ。
こっち来て。」
ノシェはさっさとオティーリエに近づいて来て、その手を引っ張って歩き出した。
引いて、ではないところがポイント。
オティーリエは半ば引きずられるように速足で手を引っ張られながら、ノシェに抗議した。
「今の私はリーエです。」
「もちろん知ってるよ。
リーエ・さ・ま。」
ノシェがリーエを『様』を強調して呼んだのは、オティーリエだと分かっているよ、と伝えるため。
そうしてオティーリエの抗議の声を軽くいなすと、ノシェはそのままオティーリエを引っ張って通りを歩いた。
一見、強引なように見えるけれど、ノシェはオティーリエのペースを把握しているので、決して無理矢理なペースではない。
オティーリエが走らず、でもギリギリの速さの速足で歩けるペース。
「分かっているのでしたら、初めましてのご挨拶をしませんと。」
「リーエが思ったより出て来るの遅かったから、フィアが席取ってから時間経っちゃったんだよ。
フィアは居たたまれないだろうし、お店にも申し訳ないから急がないと。」
「あ、はい、分かりました。」
ノシェのざっくりした説明に、オティーリエは素直に頷いた。
かなり言葉が足りないけれど、言いたいことはだいたい分かった。
おそらく、セレスフィアが喫茶店で待っているのだろう。
今日はルカに会いに行ったおかげでお城を出るのが遅れたし。
という訳で、オティーリエは素直に手を引かれて、ノシェの後を付いて行った。
◇ ◇ ◇
オティーリエがノシェに連れて行かれたのは、そこからほどなく歩いたところにある喫茶店。
どちらかと言うと奥まった、小さな通り沿いにある小ぢんまりとしたお店で、南地区という高級住宅街の中にあっては、周囲のお家の方がよほど大きい。
ノシェが喫茶店に入ると、隅の席を確保していたらしいセレスフィアが軽く手を上げた。
接客に来た店員さんに、ノシェがセレスフィアの連れであることを伝えると、二人はフィアの席に案内された。
セレスフィアの前には、半分ほど食べたケーキとお茶が置かれている。
オティーリエとノシェはそれぞれ席に座って、ノシェは昼食がまだだったらしく、クロックムッシュとお茶を。
オティーリエは本日のお勧めケーキとお茶を注文すると、店員さんはお店の奥に下がって行った。
ところで、お店に入ってから、ここまで。
オティーリエはずっと視線を感じていた。
セレスフィアからの、熱い視線を。
なんだかセレスフィアの目がハートマークになっているようにすら見える。
『アーサー、フィアの様子、おかしくないですか?』
『ノーコメント、とさせていただく。』
セレスフィアの様子に内心、小首を傾げつつ、なんとなく居心地の悪さを感じていたオティーリエだったけれど。
「リーエさん、ですね。
セレスフィア・ノレット・オストライアと申します。
どうぞ、お見知りおき下さい。
本日は突然のお呼び立てに応じていただきまして感謝申し上げます。」
自己紹介した時にはそれまでの熱視線はなくなっていて、いつもの落ち着いたセレスフィアだった。
オティーリエは、さっきのあれは何だったんだろう?と思いながら、ご挨拶を返す。
「私はお城にお仕えしております、リーエと申します。
オストライア家のお嬢様にこのようにお声かけいただきまして、大変嬉しゅうございます。
こちらこそ、よろしくお願いします。」
二人が挨拶を交わすのを、ノシェは頭の後ろに手を回して、しらーっと見ていた。
そして、それが終わると、腕を組んで、軽く横目にオティーリエを睨んだ。
その視線に、オティーリエは睨まれていることは全く気にしないで見返す。
だって、ノシェが睨んでいるのは、フリだけだから。
「さてと。
リーエはさ、本当はあたし達に会うつもりなかったでしょ。
どんなに小さな可能性でも、リーエに関わるのは危険だからって。
でもさ、それって水臭いよね?」
そう言って、ニカッと笑って。
「だから、こうして会っちゃった以上は、これからは普通に会えるんだよね?」
笑いながら、でも、目に少し不安そうな色を浮かべているノシェに、オティーリエは微笑を浮かべて頷いた。
「はい、そのつもりでございます。」
途端、ノシェが輝くような笑顔になった。
セレスフィアも嬉しそうに微笑む。
「ただ、あまり頻繁にお会いするつもりはございませんので、その点はご了承下さいませ。
皆様とお会いしたために、この姿でも目を付けられることは避けたいと思います。」
オティーリエが付け加えた言葉に、セレスフィアとノシェは顔を見合わせた。
それから、二人同時にオティーリエの方を見る。
「大丈夫ですよ、リーエさん。
リーエさんのご意向は、もちろん尊重させていただきます。」
「だいたい、もともとそんなしょっちゅうは会えなかったでしょ。
前と一緒だよ。」
オティーリエはセレスフィアの言葉にほっとした顔をした次の瞬間、ノシェの言葉に虚を突かれた表情になった後、申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ございません。
仰られる通りですね。」
セレスフィアがちょっと窘めるようにノシェを見ると、ノシェが申し訳なさそうにオティーリエを見た。
「ああ、ごめんごめん、責めてるわけじゃないよ。
前と一緒だから、こっちも気にしないよ、と言いたかっただけ。」
「はい、ありがとうございます。
ノシェ様の意図は理解しております。
ですが、申し訳なく思いましたので、謝罪をさせていただきました。」
言われて、ノシェがうーん、と頭をかいた。
「分かった。
それより、その話し方、やっぱりリーエだから?
なんかよそよそしいよね。」
セレスフィアもそう思ってるようで、同意するようにオティーリエを見る。
「はい、お城の家女中ですので、それに相応しい態度にさせていただいております。
この話し方につきましては、ご容赦下さい。」
再び、セレスフィアとノシェは顔を見合わせた後、揃って、ふう、と息を吐いた。
答えたのはセレスフィア。
「分かりました。」
それから、セレスフィアは胸の前で小さくパチンと両手を合わせて、二人を見た。
「ともあれ、今日はせっかくこうしてお会い出来たのです。
楽しくおしゃべりしましょう。」
「そうだね。」
「賛成です。」
◇ ◇ ◇
三人はこの日の午後、ずっとおしゃべりして過ごした。
お店に長時間いるのも申し訳ないので、途中、いくつかの喫茶店をはしごして。
中央広場は人目につくので避けた結果だったけれど。
でも、このおかげでお腹一杯になってしまったオティーリエは、こっそりヨハンにお城へ夕飯はいらないことを伝えてもらった。
ちなみに、本当はセリアも呼びたかったところなのだけれど、セリアは学校から全校生に外出禁止令が出ているので、残念ながらそれは止めておいた。
そして、最後に別れ際。
セレスフィアは、なぜかオティーリエの全身写真を撮って、ほくほく顔で帰って行った。
走り去っていくオストライア家の車を見送りながら、オティーリエはアーサーに尋ねた。
『やはり、今日のフィア、なんだかおかしくなかったですか?』
『ノーコメント、だ。』




