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蒸気と白騎士 ~お忍び令嬢と従者とリスの事件手帖~  作者: 桐原コウ
第6話 正義と不義の交わるところ
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9.爺やからの情報

オティーリエは翌日、午後の勉強の後、夕食までの隙間時間を利用してマージナリィの工房を訪ねた。

侍女を連れて行ったので、お茶の用意は侍女にお任せ。


応接セットの準備が整い、二人が向き合って座ると、途端にオティーリエが新聞をテーブルに広げた。

マージナリィに見せるのは、当然、例の新聞広告。

新聞の横に、オティーリエの肩から降りたアーサーが丸まった。


「爺やはすでにご存じですよね?

 どう思われますか?」


オティーリエは興奮した様子もなく、落ち着いて話し出した。

マージナリィはそのオティーリエの様子に、おや?と顎に手を当てて、小さく首を傾げた。


「このような話題にしては姫様の反応が大人しいですな。」

「もう以前のように、はしゃいだりはしていないつもりなのですけれど。」


この3ヵ月、オティーリエは見た目だけでなく精神的にも成長して、ずいぶんと落ち着いた。


「ああ、いえ、そのような意味ではなくてですな。

 はしゃいだりなさらなくとも、ご興味のある話題でしたら、表情が明るかったり声が弾んでいたりと、ご様子で分かります。

 それがないということは、何やら気がかりな点があるということですな?」

「さすが、よく把握して下さっていますね。

 気がかりと言いますか、大きく引っかかる点があるのです。」

「どのような点ですかな?」


マージナリィに問われて、オティーリエはにっこり微笑んだ。


「ホルトノムル侯爵領が誇る世界一の発明家であり技師である爺やが作ったことがない物を、他の誰かが作れるとは思えません。

 ですので、このようなロボットの存在自体を疑問に思っています。」


オティーリエの言葉に、マージナリィは一瞬、目を見張った後、感無量といった表情で胸に手を当て、上を向いた。


「完全に同意いたします、姫様。

 ご信頼、大変嬉しく存じます。」


オティーリエの言葉がよっぽど嬉しかったらしい。

マージナリィはそのまま動かなくなってしまった。


・・・。


オティーリエはちょっと待ってみた。

マージナリィはまだ同じ姿勢のまま。


『毎度思うのだが、主の周辺には奇異な人物が多いな。』

『爺や以外にもどなたかいらっしゃいましたか?』

『マージナリィは認めるのだな。

 ヨハンは一見、常識人だが、あれで癖が強いのは主も認めるところであろう?』

『否定はいたしません。

 ただ、奇異、と言うのとは違う気はしますけれど。』

『まあ、そうだな。

 それから、後はアルテを始めとする主の侍女達だ。』


オティーリエにとって意外な人物が挙げられて、ほんのちょっとだけ間が空く。


『アルテ達、ですか?』

『そうだ。

 主の前では猫を被っているが、彼女達もなかなかのものだぞ。』

『どのようなことか、今度、教えて下さいませ。』

『残念だが、主の要望でもこれを話すことは出来ない。

 本人達が隠していることを暴露するなど騎士の風上にも置けぬ。』

『分かりました、残念ですが諦めます。』

『ついでに言っておくが、最たる人物は主だぞ。』

『アーサーほどではないと自負しております。』

『私は人間ではないからな。

 そもそも比較対象にすべきではない。』


・・・。


「爺や、そろそろ正気に戻って下さいませ。」


オティーリエに声をかけられて、マージナリィはハッと気づいたようにオティーリエの方に向いた。


「おお、これは大変失礼をいたしました。

 感激のあまり、我を失ってしまったようです。

 それで、この広告についてでしたな。

 姫様はロボットだけでなく、他にも気になる点がおありなのではないですかな?」

「はい、いくつか気になる点があります。

 ただ、それが何を意味するかまでは読み解けませんでしたので、もう少し情報が欲しいと思っています。

 爺やも情報収集を始めたばかりとは思いますけれど、何かご存じのことはありませんか?」


オティーリエが答えると、マージナリィはふむ、と顎に手をやった。


「坊主からは何か情報は上がっておりますかな?」

「いえ、ヨハンも昨晩知ったばかりですので。

 お城に白騎士について取材があったことは教えていただきましたけれど、それ以外はまだです。」

「ほうほう、なるほどなるほど。」


マージナリィは嬉しそうに頷いた。


「それでは、広告主について、一部ですが分かったことをお知らせいたします。

 広告の依頼は各新聞社に依頼と広告料が郵送で送られてきて、送り主は記載されていなかったそうです。

 新聞社としては怪しい依頼ではありましたが、広告の内容自体はさほど問題になるようなものではございませんでしたし、必要な広告料も添えられていましたため、掲載したとのことでした。

 郵送の消印は新聞社によってばらばらで、いずれも領都内ではございませんでしたが、ホルトノムル侯爵領内ではございました。」


マージナリィの報告に、オティーリエが少し驚いた表情で右手を口にあてた。

ちょっと芝居も入っている。


「新聞社からは守秘義務を盾に情報を得られないと考えていました。

 その情報を、しかもたった二日で突き止めるなんて、さすが爺やです。」

「このていど、お安い御用にございますよ。」


オティーリエのお褒めの言葉に、マージナリィは胸に手を添えて軽く一礼した。

だけれど、ここで一礼したということは、マージナリィもまだこれしか分かっていないということだと理解したオティーリエは、そこには触れずに次の話に移った。


「それから、先ほど読み解けなかったと申しましたけれど、一つ、ハッキリと言えることもあります。

 この新聞広告のために、白騎士のことが再び人々の話題に上ることになりました。

 まさにこのことが、この新聞広告を出した人物の狙いではないかと考えています。

 ですので、この新聞広告から、白騎士を狙う人物の尻尾が掴める可能性があるとも考えています。」


ネルガーシュテルト帝国が動いていることは知っている。

エリオットからの連絡で、カラディン領は手を引いたことは聞いた。

だけれども、他にも白騎士の情報を得ようとしている者がいるかもしれないので、少しでも情報が欲しい。


「そうですな。

 この爺も同じ考えにございます。」

「爺やも同じお考えでよかったです。

 それでは、後は情報収集の結果を待ちますね。

 爺や、よろしくお願いします。」

「はい、もちろんでございます。」


そこで、オティーリエはお茶に口を付けて、それからちょっと期待するような目でマージナリィを見た。

これこそ、いつもの姫様だとマージナリィは少し笑みを深くする。


「ところで、絶対確実にするために、本当の本当に念のためにお聞きするのですけれど、このようなロボットを作ることは出来ませんよね?」

「無理ですな。

 このように自然なラインを出せるほどの関節なら当然、多軸と思われますが、その動力と制御装置を仕込むなら必然的に大型になり、この細腕には収まらないでしょうし、それだけの重量物を支えることが出来るだけの剛性を確保するのも現代の技術と材料では不可能でしょう。」


写真のゴリラ型ロボットは、自然な感じに威嚇するように腕を振り上げている。

腕は前腕はかなり太そうに見えるが、上腕はそれとは対照的に細い。


「そうですよね。

 分かりました、ありがとうございます。」


オティーリエがちょっと残念そうに、でも納得顔で答えると、マージナリィは苦虫を噛み潰したような顔になった。


「とは申し上げましたが、白騎士のようなオーバーテクノロジーの代物が出現しました。

 万が一ということもございますので、ご留意下さい。」

「分かりました。

 あと、実はこの写真とは似ても似つかない、もっと単純な構造のロボットが来ることも想定しています。

 2足歩行は難しいと思いますけれど、腕を脚に見立てて、4足歩行でしたら、なんとかなりますよね?」

「剛性に不安は残りますが、複雑な動きはさせずに4足歩行させるだけでしたら、なんとかなります。

 なるほど確かに、この写真の通りの物が来るとは限りませんから、その可能性もありそうですな。

 この爺、そこまでは想定しておりませなんだ。

 さすが姫様ですな。」


『ほお、作れるのか。

 大したものだ。』

『乗り心地を考えなければ、4足歩行は難しくありませんよ。

 問題はそれを動かすだけの動力と、その重さを支えられる資材です。』


オティーリエは寝かせた『土』の形に組んだ棒の2本の横棒の先に棒をそれぞれ1本づつ、計4本、垂直に取り付けて、その短い棒を動かして4足歩行するイメージをアーサーに伝えた。


『なるほど、確かにこれなら簡単だ。

 とはいえ、知識がなければ、思いつくものではない。

 さすがは主だ。』

『そのように褒められるほどのことではありませんよ。』


「やはり、爺やでしたら作れるのですね?」


マージナリィの返事に、オティーリエは右目の端をキラリと光らせながら質問すると。

それにマージナリィが得意げに胸を張って答えた。


「当然です。

 4足歩行など出来て当たり前ですので作らなかっただけでございますよ。」

「さすが爺やです。

 それでは、小さな物で構いませんので、人が乗れる大きさのものをお願いします。」


オティーリエが両手を組んで目を輝かせて言うと、マージナリィはしまったという顔になった。


「あ、あー、そうですな、この話の流れですと、当然、そうなりますな。

 分かりました。

 鋭意、製作に取り掛かるといたしましょう。」


マージナリィがそう答えると、オティーリエは一層、目を輝かせた。

爺やからの情報収集でした。

ついでにいつものお気楽トーク。


この3ヶ月で、マージナリィのオティーリエへの接し方も少し変化しました。

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