6 閑話休題
「か、可愛すぎッ!?」
そのような声が聞こえてきた時は、聞き間違いかと驚いた。まさか私ではないだろうと思ったし、神聖な試験の場で声を大にして私語を話すことは普通の生徒ではあり得ないからだ。
私の方を向いて、口を押さえ、目を見開く薄い赤髪の髪を巻いた、女の子。顔が濃い、と言えば悪口に聞こえてしまうだろうか。そうではなく、明るそうな、いつか見た本ではギャルと呼ぶんだったか。
そんな場違いの女の子。少しだけ興味が湧いたので、彼女の魔法を見てから帰ろうと、珍しいことをしてしまった。
試験会場が見下ろせる、特別な部屋に案内してもらった。入学が決まっていない生徒がこのような扱いをされるのは、不平等だろうが、皇女としての特権を使うことにした。
めぼしい魔術を使う人は中々いなかった。こんなものか、そう思っていると彼女の出番が来た。
手を前に突き出し、苦しい表情をする彼女。すると、精霊の気配が消えた。途端に魔法陣が現れ、聖魔術なら上級相当のフェニックスが現れた。
的だけではなく、校舎にも進んでいくそれは、意志とは関係なく出た魔術に見えた。
「皇女様!?」
私はその部屋から飛び降り、精霊に命じた。
「凍らせて」
幼少期から、天才だと言われてきた。私が魔術を使えるわけではない、私は精霊に愛されていて、精霊が何でもしてくれるのだ。
私の意志はない。精霊は必要以上の力を使って、辺り一面を凍らせた。
そして、ふらふらとした彼女の肩を抱く。
「大丈夫ですか?」
「さ、さむ……」
返事は、想像以上に呆気なかった。
私は彼女のことを抱き締め、兵士に毛布を持ってこさせ、お姫様抱っこをし、保健室へと向かった。
きっと、彼女は黒魔術を使っている。
それでも彼女は合格してしまうだろう。魔術を使えたことが正義であり、それ以外の要素は今の学園は求めていなかった。
戦争が近いのだ。そのために、一発だけでも大きな魔法が使えてしまう彼女を育成するメリットは大きいのだ。
最高峰の魔術が学べる聖魔術学園とはよく言ったものだ。他の魔術学園に行こうとする生徒を引き抜いて、体裁を保っているだけの、時代錯誤の場所なのに。
彼女を保健室のベッドに寝かせる。そっと頬を撫でると違和感があった。
──彼女じゃない魔術の感覚がする。
精霊の力を借り、顔を撫でると赤黒い文字が書かれたものが浮かび上がった。それも一部分。
話には聞いたことがある。呪いと呼ばれるその魔術は、術者より高い知識と魔力が必要だ。
全体を見なければ分からない。幸い、魔力不足に陥った人間は目を覚ますのに時間がかかる。私は服を脱がせ、下着姿だけにした。
身体を確かめるように、魔力を込めながらゆっくりと撫でていく。浮かび上がる文様。掛けられた魔術は一つではなく、二つ、三つ、いや五つはあるだろう。それが複雑に絡まり合い、相当手慣れではないとこんな魔術はかけられないだろうことが予想された。ただ……
「……いいですよね」
同性同士だから、下着を少し脱がしてもいいだろう。この魔術の全貌が見えないと、こちらも解くことが出来ない。
「んっ……ぅ……」
心做しか、くぐもったような声を漏らした彼女に、少しの罪悪感を持って、その魔術について考えてみる。
赤黒く、ヘビが這うように呪いが巻き付いている。どれがどの術式か、考えるだけでも面倒くさい。というよりかは、知らない。
「黒魔術……調べてこなかった弊害が出ていますね」
ただ、これを解いていいものなのかは定かではない。まるで人間を継ぎ接ぎにしたみたいに巻き付く呪いには、違和感しかない。
解かれないように分かりにくくした、と言われたらそれまでだが、呪いはこんな風に付けるものではない。気が付かれないように目立ちにくくするのが普通なのだ。
「今から本を借りれば、解けないこともないでしょうが……」
嫌な予感がする。一旦は元通りにして、起きたら尋問することにしよう。
嫌がる精霊達を説得して、私は手を繋ぎ、魔力を注入した。