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目を開くと、真っ白な天井が目の前に広がっていた。
いつも自然豊かな場所(木製の家)で寝泊まりしているからなんと珍しい。布団もふかふかだし、寝心地が良すぎる。
よし、もう一眠りしよう。
「起きましたか?」
目を瞑ろうとした瞬間だったのに、一体どこの不届き者──
「……シルビア・ローレライっ!?」
それは紛うことなき皇女様だ。何故私の横にいるんだ。
「もう寒くはありませんか」
「寒く? なんで」
「眠りにつく前、寒いと仰っていたので」
「ああ……」
確かに、言ったな。あれはだって一面を氷漬けにしたから。
「もう寒くないけど、なんで皇女様がこんなところに?」
「心配で見ていたんです。魔力不足で倒れたようでしたから、魔力を分け与えながら目覚めるのを待っていました」
「あ、ありがとう……ございます」
「国民の傷を治すのは、当然ですよ。傷ではないですが」
なんと慈悲深いお方だ。尚更あいつらには渡さないぞ。普段の視点は皇女様だったからこんな事実知らなかった。こんなにいい人だったとは。
「皇女、様か……。あたしも、敬語使ったほうがいい感じです、よね?」
「好きにして構いませんよ。同級生になるでしょうし」
「同級生……なれるといいですけどね〜。あたし魔力不足で倒れちゃったんでしょ? ですよね?」
「ええ。でも火の上級魔法を使える生徒なんていませんでしたから、特例で受かると思いますよ。ただ、」
皇女様は私に覆い被さる形で、顔を真正面にし、目を合わせてくる。ベッドが軋む。これが好意的な行動なら、この不穏な心臓の音も変わったのだろうか。
皇女様の目は、誰かを殺せるくらいには鋭かった。
「どのようにして、魔法を使ったのかは定かでは無いですが」
「あたしのこと疑ってるの?」
「精霊が何体か消失しました。それに、貴方に魔力を注ぐ時、精霊が嫌悪感を示したんです」
「あたし何も悪いことしてないけど。聖魔術学園には、黒魔術が使えないように結界的なものがあるんじゃなくて?」
「よく知ってますね、不思議。その通りです。しかし、その魔術を作っていた精霊が、全員消えた。跡形も無く……。まるで、何かと取引したかのように。先に言っておきます。精霊が消える理由は、黒魔術の効果で死ぬ場合と、寿命の二種類が大半を占めています」
「……じゃあその、大半を占めてない理由なんじゃない? あたしの魔法が精霊さんを巻き込んじゃった的な」
「聖魔術で精霊が死ぬなんて、悪意がない限り不可能です。それに、特定の精霊だけ消えるのはおかしいんです」
「…………」
そんなの知らないし! けど、おばあちゃんも精霊の命を奪ったか〜的なこと言ってたから、犯人は確実にあたしだ。入学前にバレた。イコール死? もう終わりなんですけど〜あたしの魔法生活〜。
「私は、聖女でもあり、剣聖でもあり、皇女でもある、千年に一度と呼ばれる女です。隠し事は、やめたほうがいいですよ」
「……ま、まじ、ですか……」
なんだそのチート。
これ、あたし、死なない?
スパイバレたら、死なない?
首、飛ぶんですけど。なんならもう飛んでるようなものじゃん。
「あの、言ったらあたしが死にます。体に自爆魔法が埋め込まれているんで。今言ったら、皇女様ごと、どかーんってね。あたしにこれ以上近付かないほうがいいんじゃない?」
「……見ましたよ。身体中の至る所に、呪いが付与されていました。私が解けないくらいの。まさか爆弾だったとは。何が目的で脅されているんですか?」
「身体中の至る所?」
「ええ。どんな境遇を受けたらそうなるのか」
「か、身体中の至る所?」
ちょっと待て、あの野郎何してるんだ。てか爆弾ってガチだったの。おばあちゃんマジであたしのこと殺す気だったの、聞かれたら殺されるじゃん。もう何も信じられない。
「てか、待って、身体中の至る所って、見た?」
「え、何を? 何か知られたくないことが──」
顔が険しくなる。そんなんじゃない。
「あたしの身体のことだよ! 見たのかって! 脱がせてないよね!?」
「…………そんなことを気にしてるんですか」
「見たか見てないか、脱がせたか脱がせてないかで答えてよ!」
「み、見たし、脱がせましたけど」
「……嘘でしょ」
事実を認識したのか、顔を赤らめながら、あたしを覆い被さるのをやめた皇女様。なんだよ、恥じらいあるんじゃん。ならやめてよ。
「なんで、そんなことしたの。どうせ呪いなんて解けないのに。一個見たら分かんない? どういう風に脱がせたの。」
「下着の下は余り見てませんよ。呪いが付与されているかどうかだけ、ちょっとですよ。ちょっと。ちょっと触って確かめたくらいで、別にそんな、やましいことは何も」
「そんなとこにあるわけないじゃん! てか分かるじゃん、至る所に呪いがあったなら、確かめたって解けないんでしょ? あたしの身体触りたい痴女じゃん!」
「わ、私だって何かできたかもしれないじゃないですか。呪いがどこにあるのか確かめるのは大切です」
「そ、そーやってあたしの身体見て、何する気だったの?」
「何もですよ! ばか!」
「あたしのどこが良かったの? 顔? 顔くらいしか無いよね。出会って間もないんだし」
「違いますって! そんな意図はなくて、本当に善意で、助けられないかなって」
段々と涙目になってきたので、この辺でやめておこう。さて、と。
良い感じに話は逸らすことができた。皇女との今後の関係は身体を弄られたと言って、脅して、何とかしよう。幸い皇女が何もしなければ入学はできるみたいだし。
「あたし、入学さえさせてもらえれば、この呪いの人に何もされないから、余計なこととか何も言わないでよ?」
「は、はい……」
「なんかしたら痴女ってバラすから」
「そ、そんなあ」
「あたし、家が裕福じゃないの。だから金稼げって奴隷みたいに扱われてて、この学園に入れば就職先もいいでしょ?」
「まあ……」
「そういうこと。わかった?」
「……はい。でも困ったことがあれば助けますから」
「あたしのこと好きなの?」
「好きじゃないです!」
ありゃ、だいぶ否定されてしまった。いや、あたしが弄りすぎた。
とりあえず誤魔化せたし、多分皇女から入学取り消せとは言われないし、大丈夫だろう。多分。
そうして二週間が経ち、あたしはこの聖魔術学園の入学が決まった。