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 聖魔術学園入試当日。


 筆記は、おばあちゃんの力添えのお陰で何とかなりました。

 私の目を通して、問題の答えをテレパシーで送るという超次元的なことをし、見事素晴らしいカンニングをこなした私は、午後の魔術試験にノリノリである。

 あれから、魔法も適度に練習したので、多分完璧。おばあちゃんからのゴーサインもさらりと貰い、もう合格寸前、合格と言っても差し支えないだろう。

 ただ、入試はボーダーフリーのところで気楽に受けてたから、少し緊張する。頑張ろう、本当に。


「じゃあ今から、魔術の試験を始める。今回は五大魔法の基礎、火、水、雷、風、土の初級魔法を使って、君達には実力を示してもらいたい。

 まずは、シルビア・ローレライ様から、どうぞ。あの的に向かって魔法をお願いします」


 シルビア・ローレライ。聞いたことがある。いや、知っている。それは紛うことなきヒロインの名前で、皇帝の一人娘。大切に育てられたハイスペックガールの名前だ。

 黄金に輝く艷やかな髪、青いサファイヤみたいな瞳、幼さを残しながらも麗しい顔、スタイル抜群で海外モデルにいそうだし、なんか世界一美しい人間に選ばれそうなくらい、やばい。


「か、可愛いすぎッ!?」

「おいそこ、声を出すな!」

『何をしとるんだ馬鹿者!』

「えっ!? なんで見てるんですか!?」

「お前が声を出すからだろう!? なんだ、退場したいのか」

『あたしゃに反応をするな馬鹿! 早く謝れ!』

「す、すすみません!」


 おばあちゃん、筆記が終わったら見ないものだと思ってたから完全に油断していた。


「……次から気を付けるように。皇女様に無礼のない発言だったからいいものの」


 しまった、皇女様じゃないか。やらかしにしては大きすぎる。好感度が下がるじゃないか。

 恐る恐る顔をチラ見してみると、緩やかに微笑む皇女様の姿があった。よし、セーフか。


『全く、何をしとるんだ』


 脳内のおばあちゃんが叫ぶ。堂々と話しかけるな。


(いや、まだあたしのこと見てるって知らなくて)

『何をやらかすか心配で仕方がないからな』

(はは……)


 信頼がないなあ。なんて、いや仕方ないか。信頼されるようなことは一切してこなかった。


『おい、心の声は全て聞こえているぞ。気を付けるんだな』

(最っっ悪です!)

『こっちも雑念が多くて最悪じゃわ』


 あたし達がそう話していると、皇女様は火の魔法を唱えた。そして、恐ろしい程に燃え上がる。的なんて一瞬で灰になって、なんならその二つ隣の的まで燃えてる。あたしの使える五倍くらいの炎で焼き尽くされるその光景は壮観だった。


(え、えげつないんですけど─ッ!?)

『まあ皇女だからな。妖精の祝福を最大限に受けるとああなる』

(はあ…………)


 つまりは主人公効果か。思えば彼女はあのゲームの主人公。チートでないはずがない。こっちが気持ちよくなるように全てが決められているパーフェクトヒューマンだ。


『何を言っとるんだ』

(なんでもないでーす)


 そうしてあたし達は順番をゆっくりと待った。

 皇族、貴族、庶民の順番で入試が進んでいくので、あたしはとんでもなく後なのだ。毎年五百人近くが受けるというんだから、学園側も大変だ。

 皇女以外の受験者は然程実力はなく、貴族はそこそこのスライムくらいなら倒せるかな、という魔法。平民はマジックレベルの魔法を披露して終わった。

 そうして、一時間は待っただろうか。


「次、アスカ・タチバナ。なんだ、珍しい名前だな」

「は、はい!」

「どこの国から来たんだ」

「ええと……」

『南半球のグリーン王国から来たと言っておけ。あと捨て子だと。』

「あたし捨て子で、グリーン王国から来たんですよね〜」

「……そうか、悪かったな。じゃあ火の魔法から。できるかい?」

「はい!」


 なんか、急に優しくなったんですけど。


『そこは行方不明の子供達が集められる、異世界人が作った王国だからな。あんたもそこから来たことに書類を偽造した』

(心が痛む!)

『大丈夫じゃ。あんたにゃ痛む心などないだろう』


 なんてことを言うんだこのば……おばさまは!


『おい、聞こえとるからな』


 そんな言葉は無視して、あたしは全神経を手の先に集中させる。しかし、上手く手に力が入らない。妨害されているような、そんな気がする。


『しまったな、黒魔術が使えないように精霊の祝福の力を使っているか』

(な、なにそれ)

『無理に魔法は使うな、出直すぞ』


 出直すってどうやって。

 あたしこっから一年待つの、無理なんですけど。だって一ヶ月ですらあんなに長いのに。


「ファイヤッ──!」

『おい馬鹿!』


 指先が、燃えるように熱い。魔法陣が目の前に展開され、巨大な鳥の鳴き声が聞こえた。どこに。それは、目の前に。

 炎の鳥となった火は、目の前の的目がけて飛んでいく。そしてそれは壁を壊して、真っ直ぐ進むではないか。


『お、おぬし……やってしまったな。精霊の命を奪ったせいで、大魔法が出たではないか!』

(あたしの黒魔術の存在バレた!?)

『それより、あれを止めないと』


 おばあちゃんの声が遠のく。あの魔法はぐんぐんと先に進んでいるようだった。


「待って、眠い……」


 ふらつく身体。誰かに身体を支えられ、凛とした声が響いた。目の前の景色が、氷漬けになる。


「大丈夫ですか?」

「さ、さむ……」


 ぎゅっと抱き締められて、温かな体温に包まれて、目が閉じていく。最早何が起きているのかも分からなかった。

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