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おばあちゃんに魔法を教えてもらってから早二週間。
いや、早くもない。時が遅い。夢の中にしては時は随分ゆっくりで、汗の感覚も、舌の感覚も、全てが鮮明だった。夢、ではないそう思ってしまうが、夢で無ければこの現象に名前が付けられない。
「おばあちゃん、あたしが死んだって話聞きたいんだけど」
「死因までは分からんぞ。あたしゃ漂流した魂を拾っただけだ」
情報が何も無い。本当に死んだのか。何も思い出せない、いや、もし死んでいるのなら思い出したくない。怖いのが本音だ。
「それと、あたし魔術コントロールできるようになったよ。土が黒くなくなった」
「流石じゃ。そこまでできたらどんな魔法でも簡単に使えるだろう。まあ難しいだろうが、上級魔法でなければ、見れば使えるくらいには魔法が使えるじゃろ。」
「へぇ……これで終わり?」
「キャパオーバーな魔法は、制御を外れて草木を枯らすだけだ。気付かれたくなければ火の魔法でも使って誤魔化すんじゃな。あ、あとは翻訳の魔法も自分で付けるようにしろ、ほら」
「なんてかければいいの?」
「翻訳〜! と叫んどけ」
「ださ……」
おばあちゃんは指を鳴らした。
「おばあちゃん?」
「縺ェ繧薙§繧」
「はいはい。翻訳〜!」
叫んでみるがぱっと見の変化はない。
「どうだ?」
「あ、できてる!」
「おお、流石じゃ。異世界人は便利そうよのぉ。叫ぶだけで魔法が使えるんだから」
「前々から思ってたけど、おばあちゃんってなんで異世界人に詳しいの?」
「何歳だと思ってるんだ」
「そうだよね〜まあ長生きしてますよね〜」
つまりは長生きしまくってるから、詳しくないわけないだろってことだろう。これ以上は黙っておこう。
「それより、聖魔術学園であんたに調べてほしいことについて今から話していく」
「はい」
「まず、学園全体の構造。どこに何があるかははっきりさせてくれ。地図でも何でもいい。それから、隠し部屋についても調べてほしい」
「隠し部屋? そんなの一介の生徒が分かるの?」
「分かる分からんではなくて、調べるんじゃ。何のために呼んだと思っとる」
「はい……」
「あの学園には黒い噂があるんじゃ。人体実験をしとる噂や、黒魔術を使った生徒を殺しとる噂もある。」
「そんな噂どこにもな──」
待てよ。確か最終章あたりに、学園の不正を暴くみたいな感じで反乱が起きていたな。誰の好感度も上げれてないとそこで死ぬし、ノーマルエンドも攻略対象が守ってくれたが、死を匂わせるような演出があった。
つまりあたし黒幕側の人間ってこと!?
「どうした」
「あたしバレたらどうなるの」
「まあ殺される可能性はあるじゃろな」
「…………」
「逃げたらわたしゃに殺されるぞ。沢山の魔力を使って呼んだんだ、苦労したが逃げられるなら殺すしかない。まあ安心せい、学園ではそう簡単には死なぬように自爆魔法を掛けておくから」
「や、やめて! それすぐに押さないでよ!?」
「度胸があるのかないのかわからんわ」
「ないに決まってるじゃん!」
「自爆魔法なんてかけないで解いてと泣き喚くのが普通じゃろ」
「そんな普通知らないよ魔法なんて知らないんだから」
どうしよう、人生ハードモードだ。
これがもし夢なら、なんて言ってる場合じゃないけど、多分あたしの身にも何かがあったんだろう。多分相当大きな事故が起きて長い夢をみてるんだと思う。多分。だって魔法とか意味わかんなくない? 夢でしかない。
とりあえず、ヒロインがハッピーエンドを迎えると、必ずあたしは殺される。原作でもそうだった。内通者は攻略対象に殺しておいたとさらっと言われて流されていた気がする。ノーマルエンドではその描写は無かった。はずだ、多分。
つまりは、ヒロインが攻略対象と結ばれるのをあたしは阻止しなきゃいけない。だからフラグを全部折りまくってノーマルエンド、目指すはバッドエンドなんだけど、それは心が痛むからノーマルエンドくらいの感覚でやろう。
「それで、やるんだよな?」
「やりますとも。あたしに任せて。天才魔術師明日香ちゃんとして、完璧に全てこなしちゃいますよ」
なんなら、あたしがヒロイン攻略しちゃおっかな〜。てかそっちのほうがヒロインも幸せだろう。あんな偽りの愛をペラペラ並べて皇族になろうとする薄情者より、あたしの方が乙女心も分かってるし、幸せのはずだ。ついでにこのおばあちゃんから守ってもらおう。
「どうしたそんな気持ちの悪い顔をして」
「いやいや、なんでもないでーす」
「じゃあ今日からこの国の歴史や地理について学んでいくか。書くものを用意するから待っとれ」
「なんで? 入試はおばあちゃんが助けてくれるんじゃなかったの?」
「入試が終わったら助けられんだろ」
「え? 普通に答え教えてよ」
「入試には数多くの生徒がいるからバレないだけで、日頃の素行を見たりしてたら、テストだけ満点を取る馬鹿が完成するだろ。実力でやれ、魔法以外は甘いんだからあの学園は」
「…………」
「なんだその不服そうな顔は」
「あたし、とんでもない馬鹿なんだよ。テストで赤点ばっかで、あ、赤点ってわかる?」
「何点中何点とるような馬鹿なのか教えろ」
「百点満点中、十五とか、二十とか〜? 副教科は頑張ってたの! 家庭科は半分超えてたよ!」
「どうしてこんなやつを呼んでしまったのか……随分と老いぼれになってしまったな」
「しッ失礼な!」
と、言われても何も言い返すことが出来ない。
だって中学入ってから問題が急に難しくなって、なんにもわかんなくて、とりあえず適当な高校に入学するような女なんだよ。てかスパイとかあたしに務まるのかな。きっと無理だよおばあちゃん。
「ま、まあええわい。なんとかせえ。友達でも作って勉強を教えてもらうんだな」
「不正しようよぉ」
「魔法はな、こっちも力を使うんじゃ! 適度にやらんと身体がもたんのじゃ!」
てか無計画すぎない? そもそも異世界人に学園のスパイ任せる時点で、かなりおばあちゃんも馬鹿だよな〜。
「分かった分かった、あたし頑張るよ」
「はあ……嫌な弟子を持ってしまった」
「……弟子?」
「ああ。弟子じゃ。嫌だったか」
「ううん。うれしい! あたし頑張るね!」
なんか、認められてる気がして、嬉しい。
そんなことおばあちゃんの前では言えないけど、頑張るぞ〜。
そう、意気込んだ私の頭は、駄目駄目だった。
もっと、頑張ろうと思いました。
***
あとがき的な
早くヒロインを出したいです。
もうすぐ出るので少々お待ち下さい。