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 ──い、起きなさい。起きなさい! 全く、異世界人は脆いねえ。呼び寄せただけで気絶するとは、本当にこんな奴が上手くいくとは思えないけどねぇ」


 枯れた、女性にしては低い声。身内にそんな年老いた人はいない。両親どちらのおばあちゃんも他界してるし、その親戚だとしてもこのような言われをするような人はいないだろう。


「…………ん、あ、誰ですか?」

「ああ、起きてるんじゃないかい。あんた名前は」

「だ、誰ですか、それにここはどこ……?」


 濃い紫の焼き芋みたいなローブを被ったおばあちゃんと、かびたような薄暗い木の家。周りには水晶が、それから本棚に囲まれ、ネズミも猫もいるし、ネズミはよく見たら死んでいるような。

 こんな人も場所も知らない。誘拐? このおばあちゃんが? あたしこんな人に負けたの? って言ったら失礼か。ボスかもしれないし。


「あんた濃い顔をしてるね。で、名前は」

「その、誘拐ですか? それにしては拘束されてないし、なにが目的ですか?」

「誘拐といえば誘拐だね。じゃあ名前を名乗りなさい。わたしゃ答えたよ」

「ええ……誘拐なら個人情報を言うなんてことしませんよ。お金が目的ですか? うちはそこまで裕福じゃなくて、それとも……身体?」

「バカなこと言ってないで、名前を名乗りなさい。いいよじゃあ、あんたは今日からポチだ」

「あたし、橘明日香って言います〜おばあちゃんは?」

「おばあちゃん? お姉さんだろう」


 そう言われてまじまじと顔を見てみるが、顔に刻まれたしわの数からそうは思えなかった。ただ逆らうと殺されるかもしれないし、お姉さんって呼んでおこう。


「……お姉さんは、なんであたしを誘拐なんてしたんですか?」

「誘拐っていうより召喚だね。ここはあんたらの言う、異世界だよ。下の魔法陣が見えるかい? どっから来た? アメリカ? ドイツ? イギリス? そこには無いだろうこの魔法陣は。」

「あたし日本。なんでお姉さん日本語わかるの?」

「ニホン? ハズレだねぇ。チンケな国だろ、戦争に負けた弱小国って聞くけどねえ。そんな国の言葉なんか知らないさ。魔法で翻訳してるんだよ。だから言葉を介して話せるだけで、魔法を解くとあら不思議」


 おばあちゃんは指を鳴らすと、口を開いた。


「縺サ繧峨?←縺?□縺?シ」

「な、何……?」

「縺ゅs縺溘↑繧薙※縺?▲縺ヲ繧九s縺?縺」

「わ、わかったから直して!」

「諤・縺ォ蜿ォ縺ー縺ェ縺?〒縺翫¥繧後h」


 途端に分からなくなる言葉。まるでこの世のものではないみたいに聞き取ることができない。聞いたこともないがアラビア語を聞いているみたいだ。

 そうしてもう一度指を鳴らした。


「どうだい?」

「なんて言ってたのか分かんなかった」

「凄いだろう、魔法は」

「これは夢? 夢なの?」

「はあ、何いってんだい。現実さ。あんたは知らないと思うが、向こうの世界では死んでるんだよ」

「…………はあ?」

「死んだから、わたしゃが魂を見つけることができた。そういうもんなのさ」


 理に適ってるけど、全く理解ができないし、多分夢だ。これはあたしが作り出した幻影。だからこんなにわけの分からないことを言われている。

 それにしては、やけに感覚が本物っぽい気がするけど……。いや、現実で魔法〜とかいうおばあちゃんいないし、変な言葉を話す人いないし、誘拐された記憶もないし、きっと夢だろう。あたし昨日何してたっけ、普通に学校だっけ。まあいいや。


「死んだって馬鹿じゃないの? てか、なんであたしのこと呼んだの?」

「あんたには、聖魔術学園のスパイを頼もうと思ってね。身寄りもない異世界人なら、裏切るということを簡単に出来ないから」

「おばーちゃん、それ言っちゃっていいの〜? それ聞いてあたし裏切るかもだし」

「もう魔法は付けてるよ、口封じとその呪いを解いたら死ぬ魔法。なんなら、聖魔術学園のスパイをやらんと今殺す」

「こわっ! まあ従いますよ」

「おお、こんなに物わかりがいいの初めてだぞ! 召喚したのも初めてだがな!」

「ま、まあ、聖魔術学園とか、楽しそうだし?」


 それに、それは恋愛大戦争というゲームの中の学校と全く名前が一致している。あたしの夢ん中ゲームの影響強く受けすぎっしょ。なんかワクワクしてきたかも。


「で、何をすればいいの? おばあちゃん!」

「その学園に入るために、まずは魔法を覚えてもらって、入学試験を突破してもらう。筆記はあたしゃの魔法で何とかするが、魔法はそうともいかない。入学してもいい成績を取れなければ除籍だ。」

「除籍……除籍ぃ!? あたしってば厳しすぎでしょ〜」

「なんで、あんたになるんだ? ああ、条件がってことかい?」

「いや、まあいいよ。続けよう」

「はあ……。だから、これから今直ぐに魔法の特訓をしてもらう。で、一つ注意事項がある」

「なに?」

「わたしゃな、黒魔術しか使えんのよう。」

「それの何が駄目なの?」

「きっと、苦労することになるが、頑張っておくれ。“聖”魔術学園、だからな」


 あたしそれ入学できるのかな。できるか夢の中だし。


「で、入学試験はいつなの?」

「一ヶ月後じゃ。とりあえず、今から魔法の簡単なことから教えるから、付いてこい」

「え、今? 一ヶ月後? 早いなあ」


 確かに早く入学したい気持ちは早いし、魔法は使いたかったけど、展開が早すぎ。ふふ、夢の中って面白い、楽しみかも。

 おばあちゃんは背を向け、歩き出した。それについて行くあたし。ここは地下だったらしく、薄暗い階段を登って、普通のちょっと明るい部屋に出て、それからようやく外に出た。

 新鮮な空気と、森。ここが現実なら、こんな場所もありそうだけど、今更考えるのは面倒くさい。おいしい新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。


「空気が美味しい」

「味なんてないじゃろ」

「あの地下室は空気も籠もってて最悪だったの。それで、どうやって魔法を使うの?」

「黒魔術は、負の感情を使って、魔法を使う。それは、大地のエネルギーや、生命を対価に、魔法を使う。聖魔術は違う、精霊の力を使い、微力な力で魔法を使う。」

「なるほど」

「黒魔術の最大の強みは、どんな初級魔法でも聖魔術の中級魔法に匹敵することだ。ただ、先ほども言ったがその対価に何かしらの命を頂くからだ。」

「…………」


 こんな設定、あったっけ。あたしにしては、賢い。考えたこともない言葉を話しているが、きっと小説とかゲームで出てきてそれをあたしが覚えていたんだろう。


「聖魔術学園に入学するには、当たり前だが聖魔術が必要だ。だが、あたしゃは聖魔術が使えない」

「待っておばあちゃん。本とかに聖魔術ないの? あたし入学できないよ」

「バレずに入学した者もおる。まあ、死ぬか除籍になったが」

「待って待って、バレるでしょ普通」

「聖魔術と黒魔術は、二つに分けられているようで魔法の中身が同じなんじゃ。上級魔法になってくると変わってはくるが、どうせ青臭いガキ達は精々中級までしか使えん。お前は初級魔法にして中級魔法が使えるコスパがいい娘なんじゃ」

「待っておばあちゃん。じゃあ中級魔法は聖魔術の中でどれに値するの?」

「そんなんもう命も無くなるわ、魔法が黒くなるわでバレるわい。使うな」

「…………」


 あたしの魔法生活、初級魔法で終わり?


「精霊の力、あたしも使いたい」

「精霊はな、この世界に生まれた人間にしか使えん。諦めろ。元々あんたは精霊達から歓迎されておらんから無理じゃ。皇帝に使える魔術師に呼ばれたなら別だったかもな」

「な、なな、っ……はあ……まあいいよ、じゃあおばあちゃん、教えてよ」

「じゃあ手を前に翳して」

「はい」

「ファイヤ、と言葉にし、イメージするんじゃ。手が燃えるような、そんな感じで、手に熱を集中させろ」


 言われた通りに、手に熱を集中させるイメージで、熱いイメージで、手から火が出るイメージを持つ。


「ファイヤ」


 言葉にすると、手から火が恐ろしい速度で出ていく。チャッカマンとか比ではない、まるでドラゴンが火を吐いたような、そんな勢いで火が出ていく。


「ウォーター!!!」


 同時に、そんな声が響いた。

 水が上からドバッと注ぎ、私の視界に燃えて炭になった木々があった。


「やりすぎじゃ!」

「ご、ごめんなさい!」

「と、いうように黒魔術は簡単に使え──るわけでもない。これが異世界人の特権だ。無際限に近い、イメージ力。それから精霊に頼ることが一切できない為、黒魔術の適性が恐ろしい程高く、自然と使えてしまう」

「すごい」

「足元を見ろ」


 下に目を向けると、黒くなった土があった。灰になったとは言い難い、ただ黒い土だ。それが私を中心にして1メートル程。


「燃えた?」

「いや、それが黒魔術の証拠さ。それをできるだけ無くせるような魔力調節をするのが目標じゃ。もしできるのなら蚊の命やハエ、虫の命を器用に奪えれば、誰にも気が付かれずに黒魔術を使えるだろう」

「なるほど……」

「お腹が空いたら家に入れ。あと火はもう使うな、やるのなら水にでもするんじゃな」

「……はい!」

「あたしゃあんたの出身の偽造から色々やるので忙しいからな。じゃあの」


 そう言っておばあちゃんは家の中へ戻っていった。

 黒魔術、命を奪いその対価に魔法を使う。

 なんか、面白そうじゃん。やっぱり、こういう設定ってワクワクするよね。なーんて。まあどうせ夢の中だから、完璧にこなせちゃいますよ。

 私はほくそ笑みながら魔法を唱えた。

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