28 イリアの深層心理
ここは・・・イリア様の邸宅?
火事になる前のイリア様の邸宅にあるイリア様の寝室じゃないか!?そのベランダに出ると、昼の陽射しと風が吹いていた。穏やかな昼下がりと言った所か。・・・だが、誰かに見られている!?様な気がしたが、気のせいか?
コレがキール様の術の力か。今はイリア様の心の中に居るのだろうが、ハジメ様はソレを知らないのか・・・。
だが、イリア様は自殺をされたのに、随分と心が穏やかなのだな。
私が、望んで来たが・・・お亡くなりになったイリア様に・・・いや、イリア様はハジメ様の中で生きている!
「イリア様!レイです!」
「ここだよ、レイ」
振り向く私は、そこにイリア様がロッキングチェアに座っていたのに気付いた。いや、認識出来なかったと言うべきなのか?初めての事なのでよく分からないな。勝手が分からない。
「イリア様、また御会いましたね。レーネ村で」
「あの村は助かって良かったね。ハジメも喜んでいたよ、お兄ちゃん」
「キール様が居ないからでも、その呼び名はダメですよ」
私の口元が緩んでいた。が、その部屋の奥に、もう一人のイリア様がいた。
何か悩んでいるのか、座って俯いている。心の中はこんな感じなのか?
「イリア様がハジメ様の邪魔をしているのですか?」
「ハジメは女性を恐れているだけだよ」
私は知っている。本当は恐れるには理由があるからだと。
「ハジメ様にはトラウマは別の所にあるんだろ?ラムダなんかではないんだろ?一体何があったんだい?」
私の口調は何時ものハジメ様に対して使うものではなく、少し男同士の口調が混じっていた。
ハジメ様はゆっくりと肯いた。
「キール様を恐れる理由は何なのか教えてくれないか?協力するよ」
「皆、ボクをイジメるんだ」
「んー?どの様な感じでだい?」
「レイお兄ちゃん、ハジメは前世と今がここにあるの。だから言うけど、ハジメは権力者の女にイジメられていたから、権力者のキールが怖いの。また、怒らせてイジメられるんじゃないかってね。そうでしょう?」
イリア様の言葉は優しかったが、真を突いたのか、身体を震わせた。
「ハジメ様、キール様は怒ったかい?そんな事はしないよ。生きていくんだろ?ハジメ様はその約束をしたはずだろ?」
「レイ、ボクは強くなりたい。レイみたいに強く成りたい」
「今、現実の世界に居るのはどんなハジメ様なんですか?」
「ハジメは今この中では見せない姿でいるよ。明るいね。でもセリカが好きなんだって。何時もハジメを守ってくれたお姉ちゃんみたいな女の人に似ているんだよね?」
ハジメ様は肯いたが暗いな。だがセリカがハジメ様のタイプなのか・・・キール様とは似ていないな。
「つまり、キール様がタイプではないのですか?それともセリカが良いのですか?」
「キール好き・・・でも、怒らせたら殺されちゃう」
イジメの根が深いな。
「元は余りにもモテなくて、更にチヤホヤされなかったから、逆に怖くなって無理しているんだって」
イリア様にはハジメ様の心が繋がっている状態だから分かるのか。つまり、それが本音だが、今は無理しているのか。
「お兄ちゃんが言いたい意味は分かるよ。ハジメを生かそうとしていることも。だから、イリアに説得させて?」
ここは、イリア様に任せるべきか?いや、イリア様に任せようじゃないか。
「宜しいのですか?」
「うん、キールに媚びてでもハジメは生きていたいと思うのなら、ハジメに自分で戦って貰わないとね」
分かったぞ。コレは二人の深層心理が混じって居る場所なんだな。なら、私がここに居るのも確認作業以上は出来ないのだな。
だから、私はイリア様に言わなければいけない事があるんだ。
「イリア様、私は勘違いしていました。いえ、皆が勘違いしていました。きっと例の使用人が原因でキール様からハジメ様を遠ざけていると、我々はどこかで思っていました。申し訳ございませんでした!」
膝をつく私は何かを差し出され、イリア様を見ると、小指を向けられていたではないか。・・・私はその小指に自分の小指を絡めた。
「皆は知らなくても、キールなら気づけるから困って居るんでしょ。キールにはイリアからも後で言っておくから、今は戦いに専念して上げて。数が増えているから」
やはり敵はタダでは転ばんか。だが、ハジメ様がキール様に靡けばきっと最強のキール様が帰ってくる。
「御任せしますイリア様。なんとしてでもハジメ様に奮い立って頂けます様に」
「ハジメはレイの為に、そして信頼を得る為に動いていたから、ハジメには幸せに成って欲しいし、レイお兄ちゃんの役にイリアの代わりになってもらいたいの。だから、見捨てないで」
「分かりました。ですが、何でこんな事になったのか教えて下さい」
「この中でイリアの心と接触して過去が今と重なっただけだよ。ハジメは本当に強い子だから、きっと立ち向かってくれるし、レイお兄ちゃんの役に立つよ」
「誰にでも起こりうる事ですよ」
「レイ、御免なさい。必ずキールの為に成るようにするし、レイの為に成るようにするから、見捨てないで」
泣いているハジメ様を私は抱きしめた。
「大丈夫ですよ。絶対にハジメ様もイリア様も守ります。軍人としてではなく、レイ・フレイザーとして」
「うん、レイ。きっと頑張る!」
笑ったハジメ様はやはり美しかった。
「では私は戻りますね。きっとハジメ様が大人に成られるのを信じています」
そして・・・私は目を閉じた。