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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スイート・メモリー

作者: 天野桂花

一部残酷な描写があります。


 僕はデブだ。

「好き嫌いなく、出されたものをきれいに食べるのは食事のマナーの基本よ」

 ママはそう言って、たくさんのごちそうを「僕のために」用意してくれる。

「かわいい私の太っちょさん」

 美味しいとか、不味いとか、考える間もなく、ただひたすら目の前のごちそうを詰め込むように食べる僕を見て、ママは満足そうに微笑む。

 食事のあとはデザートだ。

 ママは料理が好きで、お菓子作りも上手だ。

 毎回クリームのたっぷり乗ったケーキや、チョコレートがたっぷりかかったケーキを用意してある。

 もちろん「僕のために」。


 だけど、正直あれだけ大量の食事(ハンバーグやら、グラタンやら、シチューやら、その他もろもろ)のあとに、そんなデザートは食べたくないし、食べられそうにない。

「ママ、僕、もうお腹いっぱいで…」

 するとママは、さっきまでの満足そうな微笑から、一転して恐ろしい形相になると、僕をにらみつけ、フォークを手に取るとケーキに突き刺し、ひとかけらすくい取ると、僕の口元にケーキを差し出し、

「さあ、お食べ」

 と言うのだ。

 いつものような、甘く優しい声ではなく、低く脅すような声で。

 僕が口を開けないでいると、ママは無理やりケーキを口に押し付けて言う。

「お食べったら!この豚!」

 僕がますます意地になって口を閉じたままでいると、ママは僕の前髪をつかみ、フォークで口をこじ開け、無理やりケーキをねじ込んだ。

 こうなったらもう僕の負けだ。

 僕は泣きながらケーキを食べる。吐きそうになりながら、無理やり飲み込む。顔は涙とクリームでぐしゃぐしゃだ。

 するとママはまた、満足そうに微笑んで、優しい声でこう言うのだ。

「おいしい?私のかわいい太っちょさん」


 ママは「僕のために」毎日いつもこんな食事を用意してくれる。僕がたくさん食べれば、ママは喜んでくれる。

 食べ物を残すのは悪いことだから、僕が食べるのをやめると、ママはあんなに怒るのだ。

 ママは人前でいつも言う。

「この子は本当に食べるのが好きで、私の作ったものは何でも喜んで残さず食べるし、足りないみたいだから、つい多く作り過ぎちゃうんだけど、おいしそうに食べるこの子を見るのは私にとっては何よりも幸せなの」

 そんなときのママは、本当にうっとりと幸せそうで、僕は嬉しい気持ちになる。

「ただ、ちょっと太り過ぎなのが問題なのよね」

 そう最後に付け加えなければ。


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