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イケメン嫌いの悪役令嬢は、逆ハーエンドを目指すヒロインと手を組んで王太子と婚約破棄したい

作者: 群青みどり


「貴女も転生者でしょう?」


 好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いて早十年。

 ゲームの本編が始まる学園入学が目前に迫る中、私──ガーネット・アルレーヌは、ヒロインの家に招待という名の呼び出しを受けていた。

 今の私は公爵令嬢という立場であるため、子爵令嬢であるヒロイン、アクアマリン・エルヴィナの誘いを断っても良かったのだが、相手が相手。

 今後のためにやって来たのだが、アクアマリンは開口一番そう言ったのだ。


「怪しいと思ったのよね。わがままで自分勝手な悪女という噂はよく聞くのに、それを示す具体的な悪事は出てこない。それどころか、貴女は王都の外れにある古びたカフェで身分を隠して働いているだなんて」


 アクアマリンの言葉にギクリとする。

 ここまでバレバレだったとは思わなかった。

 そう……悪役令嬢に転生したと気づいてから、私は着々と断罪に向けて準備を進めていた。

 ゲームの悪役令嬢のように本気で悪事を働くのは気が引けるため、屋敷の使用人に『ガーネット様はわがままで自分勝手な悪女だ』という噂を広めてもらい、周囲からの印象を落とす。

 さらに断罪後は身分を剥奪されるため、平民として暮らしていけるよう、王都の外れにある古びたカフェで身分を隠して働かせてもらっていた。

 噂に関してはとりあえず悪女だと広めて欲しいという伝え方をしたため、『とにかく悪女らしい』と具体性のない噂になってしまったが、それでも評判を落とすのに十分だった。

 これも全てある目的のためである。


「変なことして攻略対象者の気を引こうとしても無駄だからね? 私はどんな手を使ってでも逆ハーエンドにするんだから」


 逆ハーエンド……それは攻略対象者たち全員に愛され、全員と結ばれるゲームだから許される展開である。

 それを目指していると聞いた私は思わず、アクアマリンの両手を握った。


「ほ、本当⁉︎ 本当の本当に逆ハーエンドを目指してくれるの⁉︎」

「な、なによ急に……! 当たり前じゃない。私は全員に愛されて幸せになるんだから。わかったら貴女は悪役令嬢としての役割を全うし……って、どうして泣いてるの?」

「ありがとう、本当にありがとう……! もうめちゃめちゃ応援する! 私にできることがあれば何でも言ってね!」

「何言って……普通そこは嫌じゃないの? 貴女の婚約者である王太子も奪おうとしているのよ?」

「喜んであげるよ! 幼少期に婚約してからほどんど会ってない形だけの関係だし!」


 私の目的、それは……王太子と婚約破棄してイケメンたちとは無縁の生活をするためである!


「はあ? 貴女、このゲームのプレイヤーじゃなかったの?」

「そりゃもちろんプレイヤーだったよ。本当にこのゲームが大好きで大好きで……」

「だったらどうして攻略対象者を喜んで差し出そうとしてるの⁉︎」

「だって私、イケメンが嫌いなの! 前世でイケメンに弄ばれた挙句、捨てられた過去があってから受け付けなくなって……とにかく顔が良い男性が無理なの!」


 そんな私が出会ったのが、絶対に裏切りのないイケメンと恋愛が楽しめる乙女ゲーム。

 信じられるのは二次元だけ……と思っていたのに、まさかの転生。

 しかも攻略対象者の一人である王太子の婚約者という立場……王太子はその立場通り王子様系の爽やかイケメンで、もう本当に無理だった。

 即座に婚約破棄したいところだったけれど、正当な理由がない限り断れないのだ。

 そのため私はゲーム通りの悪女を演じ、王太子に捨てられようという作戦を考えていた。

 王太子の誘いを断り続け、噂が絶えない悪女……現在では私が婚約者でいいのかも疑問視する貴族も出てきている。

 この勢いのままヒロインを虐めて……と思ったが、さすがに直接虐めるのは心が痛む。

 それにヒロインがどのルートを選ぶかわからず、何とかして王太子のルートに持っていけないかと考えていたところ、ヒロインも転生者で逆ハーエンドを目指していると知ったらそれはもう全力で協力するし応援したい。


「つまり前世でイケメンに弄ばれてイケメンが嫌いだから断罪されて平民に堕ち、カフェで働きながら生涯を過ごしたいってこと?」

「そう! だからヒロインが逆ハーエンドを目指しているのはむしろありがたいの」

「貴女、すごくもったいないことしてない? いくら悪役とはいえ、せっかく公爵令嬢に転生したんだから、今度は自分がイケメンを弄んでやろうとは思わないの?」

「いいや全然。むしろ関わりたくないの。だけどこの世界って攻略対象者だけでなく、全体的に顔面偏差値が高いでしょう?」

「そりゃ乙女ゲームだからね」

「だからもうひっそり生きると決めたんだ。アクアマリン、どうか私の分までイケメンを弄んでやってね!」

「ちょっと、私に恨みを晴らさせる気?」

「そこを何とか! もう本当に顔が良いだけで勝ち組の男たちがたくさん振り回されて欲しい……」

「総じてイケメンへの恨みが強いのね……」


 アクアマリンに引かれていたが、そこはまあ構わない。


「じゃあ本当に王太子を奪っていいのね?」

「もちろん! それに……実は、私にも気になる相手がいるの」

「え、なになに。この世界の人間は顔面偏差値が高くて嫌じゃなかったの?」


 何やら興味津々のアクアマリンにら私は彼との出会いを説明する。

 それはカフェで働き、ようやく慣れてきた頃に訪れた。

 客として来店したパールという男性。

 私と二歳しか違うというのに大人びていて、優しい人だった。

 ちなみに髪色がカラフルなこの世界で、パールは黒髪黒目。その上メガネをかけ、髪もモッサリとしていて、地味な印象だ。

 しかし私は彼の内面に惚れたのである。

 私の前世の話や今世の愚痴に対して、何だこいつと引くどころか嫌な顔一つせず聞いてくれるし、優しい言葉もかけてくれる。

 何とも素敵な男性である。


「貴女それ、パールはイケメンじゃないから大丈夫って言っているようなものじゃない。失礼じゃない?」

「わ、私はただ見た目に惚れたわけじゃないって言いたいの! 向こうは私のことどう思っているのかわからないけれど……断罪までに、いい感じになれたらいいなって」

「ふーん、まあ私は逆ハーエンドに協力してくれるなら何でもいいけれど」


 そして私とアクアマリンは、今後についてゲームの知識をフル活用しながら細かくすり合わせをする。

 全ての始まりが、明日の入学記念パーティーでの事件である。

 入学記念パーティーでは学園代表として三年生の王太子も参加していた。

 そこで悪役令嬢のガーネットがアクアマリンに目をつけ、飲み物をドレスにかけて汚し、虐めるのだ。

 そんなアクアマリンを助けるのが王太子である。


「王太子かあ……久しぶりに会うけれど、私のこと忘れてそう」

「会うのを断りまくってるんでしょ? 気まずくないの?」

「最初の方は断っていたけれど、最近では向こうも忙しいようで連絡も全く。本当に婚約者なの? って思うぐらい」


 だからきっと大丈夫だと思っていたのだが、翌日の入学記念パーティーで予想外のことが起きた。


「よくって? 貴女は庶子なのだから、身の程を弁えなさい。決して己が貴族だと思わないことね。この学園に平民の血が混ざる者がいるなんて、本当に最悪だわ。さっさと辞めるのはどうかしら?」


 わざとアクアマリンのドレスに飲み物をかけ、限りなくゲームに近い言葉を投げかける。


「そんな……ひどい」


 アクアマリンも泣き真似をし、それを見ていた友人たちが彼女を庇う。


「お言葉ですが、アクアマリンはれっきとした子爵令嬢です」

「この仕打ちはあまりにもひどすぎます」


 早速注目の的で、まずまずのスタートを切れた気がする。

 周りの冷たい視線が痛いが、断罪のために仕方のないこと。

 きっと王太子も婚約者のせいで恥をかいていることだろうと思った時。


「騒がしいけれど、何があったの?」


 穏やかな声音が耳に届いた。

 周囲の視線が一気に私からその声の主である王太子のルベライト殿下へと向く。

 金髪碧眼の、それはもう眩しいほど麗しい姿は一瞬で周りを魅了させる。

 一方で私は嫌悪感がマックスになり、一刻も早くその場を去りたくなった。


「うう……私は、ただ……」


 ここでゲームの展開通りアクアマリンが静かに泣き、その友人たちが私の悪事をバラす。

 あとは私が焦ったように否定し、ルベライト殿下に冷たく突き放されるだけ……だったのに。


「心優しいガーネットのことだ、何か意図があったのだろう。私の婚約者は不器用なんだ、どうかわかってほしい」

「……はい?」


 まさかの私を擁護する発言に目を丸くする。

 思わず声も出てしまったが、ルベライト殿下は私のそばに来て腰に手を回してきた。

 それだけで全身鳥肌が立つ。


「周りに勘違いされて怖かっただろう? ガーネット、もう大丈夫だよ」

「……いいえ、私は決して意図など」

「少しあちらで休憩しようか」

「ちょ……殿下!」


 慌ててアクアマリンに目を向けたが、彼女も状況を理解できておらず困惑していた。

 どうしてか、ゲームとは違う最悪のスタートになってしまった。



◇◇◇



「こんなはずじゃなかったのに……!」


 数日後、私はカフェで働いていた。

 この日も気になっている相手、パールが店に来てくれたことで、早速愚痴を聞いてもらっていた。

 いつもわざわざ私の話を聞くため、広いテーブル席ではなくカウンターの席を選んでくれるのもパールの優しさだ。


「その婚約者が、本来想定していたものと違う行動を起こしたんだ?」

「そうなの……! 本当は冷たく突き放されて、婚約破棄の好スタートを切るつもりだったの!」


 パールに私の身分や婚約者が王太子とは伝えていないが、『良家の出身で婚約者がいるが婚約破棄を目指している』ことにしている。


「何がいけなかったんだろう……事前打ち合わせも完璧だったし、周りも私を冷たい目で見ていたのに婚約者だけが……! 私の! 味方を! しかも最後に会ってから何年ぶりかっていうぐらいの相手だよ?」

「もしそれが本当なら、相手は見る目があるね。君の良さを見抜いたってことだから」

「私の良さって……」

「本当の君は優しくて、とても温かい人だ。明るい笑顔に私はいつも元気をもらっているし、悪になり切れない君が可愛くて仕方がない」


 思わず胸が高鳴ってしまう。

 こんな風に褒められると、嬉しいけれどそれ以上に恥ずかしい……!

 相変わらず髪はもっさりしていて、目にかかるぐらいの前髪にメガネのせいで表情があまりわからないけれど、時折隙間から見える真っ直ぐな瞳が私をドキドキさせる。

 外見に囚われない、これぞ本来求めていた恋って感じがしてすごくいい。


「ずっと気になっていたけれど、君は婚約破棄してどうしたいの?」

「家を出て、このカフェで働きながら自由な暮らしを満喫するんです!」


 このゲームの大ファンだった私は、ゲームの場面と照らし合わせながら聖地巡礼でもしようかなと考えていた。

 リアルなイケメンは無理だが、自分が関わることなくもはや壁としてイケメンとヒロインの恋を眺めるのはまた別物だ。


「そっか、応援してるよ。いつでも力になるからね」

「ありがとうパール……! 話を聞いてくれるだけでも嬉しい」


 パールの応援もあり、その後も私は必死に悪事を働いた。

 過激なものはさすがにアクアマリンにお願いしてやめてもらったけれど、悪役令嬢としての役割はそれなりに全うしたつもりだ。

 最初はどうなることかと思ったけれど、何とか無事に攻略対象者のヒロインへの好感度は高まっていった。


「ルベライト殿下の好感度がイマイチ上がらないのよね」


 そんな私たちの最後の問題は、ルベライト殿下についてだ。

 あれから何度か私を庇う発言を繰り返していたルベライト殿下だったが、さすがに守り切れないと判断したのか、最近はあまり関わってこない。

 あとはアクアマリンへの好感度を上げて逆ハーエンドを……と思ったけれど、想像以上にルベライト殿下の好感度上げが難しいようだ。


「逆ハーエンドいけそう……? いけるよね? じゃないと私、婚約破棄できないし身分剥奪もされない……?」

「最近はルベライト殿下も貴女を庇わなくなったし、そこは大丈夫じゃない?」


 そうだと信じたい。

 きっと大丈夫。婚約破棄は目前だ。


「ふふっ」

「あら、随分嬉しそうね」

「実はパールにもうすぐ婚約破棄できるって話したら、その時は迎えに行くって言ってくれたの」

「熱烈なアプローチね」


 あれからパールとの関係も進展していき、今では両想いになっている……はず。

 直接確かめたわけではないが、迎えに行くってことはもうプロポーズみたいなものでは? と勝手に自惚れている。


「私のイメージでは地味で根暗な気弱男だったけれど、随分積極的で行動力があるのね。本当にただの平民なの?」

「私にはそう言っていたよ……? 確かに頻繁にカフェに来る余裕があって裕福そうではあるけれど……」


 なぜか怪しそうな顔をしていたアクアマリンだったが、誰よりそばで見てきた私がパールについて一番わかっているつもりだ。


「それより断罪は目前だよアクアマリン! 逆ハーエンドが決まったら、あとは楽しむだけだね」

「ここまで長かったわ……これからたくさん遊びまくってやるから覚悟しなさないって感じよ」


 アクアマリンの前世は中々軽い女性だったようで、複数人の男性と関係を持つことに抵抗がないらしい。

 むしろたくさんのイケメンたちと……と喜んでいる。

 そんなアクアマリンと最後の断罪シーンに挑む。


「ガーネット・ジェランダ嬢! お前とルベライト殿下との婚約を破棄する!」


 しかし私の断罪シーンは、ゲームと少し違っていた。

 婚約破棄は言い渡されたけれど、ゲームではルベライト殿下に直接言われるはずなのに、今は殿下が不在で代わりに他の攻略対象者が私の断罪を行なっていたのだ。


「お前の愚行は目に余る! アクアマリンを虐げてきた罪は決して軽いものではない。よってお前は殿下と婚約破棄、および身分剥奪とする!」

「殿下も最近の君には困っている様子だった。今回の婚約破棄と身分剥奪についてはこの後殿下に進言し、速やかに処理されるだろう」


 これで無事に終わったかと思いきや、攻略対象者の話を聞く限り、まだルベライト殿下には話を通していない様子だった。

 けれどまあ、大丈夫だろう。

 最後にはゲームの強制力とやらが勝つのだから!


 こうして私は無事に婚約破棄と身分剥奪され、平民となった。

 いつもより大きめの荷物を持ってカフェに向かう。

 オーナーに話を通し、しばらくは住み込みで働かせてもらえることになっていた。

 もしパールが本気なら、私を迎えにきてくれるはずだ。


「うーん、今日はいい天気! まるで私の背中を押してくれているみたい!」


 翌朝。

 あまりに天気が良かったため、私はカフェ周りの掃除でもしようと外に出る。


「きっとそうだよ。これでようやく、私たちの関係を進められるね」


 背後から聞こえてきたのはパールの声でドキッと胸が高鳴る。

 まさかこれほど早く迎えにきてくれるとは思っておらず、心の準備が必要だった。


「ガーネット?」

「……っ、パール……」


 意を決して振り向いた瞬間、私は手に持っていた箒を地面に落とした。

 その音が虚しく響き渡る。


「ど、うして……どうして、ルベライト殿下が……!」


 私の目の前には、なぜかパールではなくルベライト殿下の姿があった。


「約束通り迎えにきたよ」

「ち、がいます……! 私は先日、婚約破棄されて身分が剥奪に」

「ああ、あれは私の友人が勝手に暴走しただけだよ。私は一切許可していないし、進言があったけれど拒否したし、第一君の悪事は全て作り上げられたものだということを証明してきたから安心して戻っておいで?」

「何を……」


 おかしい、と心臓が嫌な音を立てる。

 先ほどから嫌な汗が止まらない。


「彼らは私の側近候補だったのに、恋にうつつをぬかして真相を見抜けないなんて本当に残念だなあ。それだけじゃない。彼らは新たな法案として『一妻多夫制を取り入れて欲しい』と言い始めたんだ」


 一妻多夫制、と聞いて思い出すのは逆ハーである。

 この世界も一夫一妻制のため、本来であれば逆ハーエンドなどあり得ない。


「それも、あの子爵令嬢を『独占するのではなくみんなで分け合いたい』という馬鹿げた理由で、私から国王陛下に進言してくれなんて耳を疑ったよ」


 ゲームでの逆ハーエンドにはもちろんルベライト殿下も含まれている。

 つまり、ゲームの殿下は他の攻略対象者と同じ考えを持ち、国王に進言して新たに一妻多夫制が成立されたのだとしたら……全員と結ばれてハッピーエンド展開も頷ける。

 しかしこの世界でルベライト殿下はアクアマリンに堕ちなかった。

 それにより一妻多夫制が成立されず、逆ハーエンドが不可能になってしまったのだ。


「君も彼らの行いに深く傷ついただろう?」


 殿下は私を心配してくれていたが、今はそれどころではない。


「あの、なぜ……どうしてルベライト殿下がここにいらっしゃるのですか……?」


 一番の疑問はこれだ。

 なぜ、私がここにいるのを知っているのかと。


「ああ、まだ気づいていないの? さっき、君が私の声を聞いて違う男の名前で呼んだだろう? さすがに見た目は変えられても声までは変えられなかったからね」

「……っ、まさか」

「学園でも君は何度か私の声を聞いて『パール』を思い出した様子だったのに、同一人物である可能性は考えなかったんだね」


 そんなの、嘘だと信じたかった。

 パールの正体が変装したルベライト殿下だったなんて。


「い、いつからですか……⁉︎ いつから私のことを」

「最初からだよ。君は婚約後も私に会いたがるどころか、避けていただろう? その上出処が不明な悪女の噂が流れて気になったから、君について探っていたんだ。そしたらカフェで働いている情報が耳に入ってね。興味本位で通っているうちに、本来の君の姿を知って惹かれたんだ」

「じゃあ最初からルベライト殿下は……」

「君が私の顔を嫌いだと言った時は驚いたなあ。というより、私の存在自体が無理だって拒絶していたっけ?」

「それは……現実に存在されると無理なだけであって」

「まあ、どれだけ拒絶していても最終的には君が私を選んだから文句はないよね」


 それはパールに対してだと言いたかったけれど、その正体がルベライト殿下である以上言い訳はできない。


「あの、本当に無理なんです! ルベライト殿下のような……とにかく顔が良い男性は全員無理なんです!」

「うん、とりあえず行こうか。話は宮殿で好きなだけ聞くから」

「宮殿ってどういうことですか」

「家を出た君を迎えに行くって約束したんだ。必然的に宮殿に行くことになるだろう?」

「そ、そんなの聞いてません!」

「大丈夫、すぐに慣れるよ」

「あの、殿下……!」


 半ば強引に馬車へ乗せられそうになり、なんとか抵抗しようとしたが、殿下が私の耳元に顔を近づけた。


「あの子爵令嬢は君を悪女と仕立て上げ、周囲を味方につけるだけではなく、複数の男性と関係を持った。そんな彼女に、どんな罰を与えるべきだと思う?」

「なっ……」

「私の大切な婚約者を傷つけた罪は重いからね」

「違います! アクアマリンはただ私に協力してくれていただけです!」

「いいや、合っているよ。今後は君が被害者で彼女が加害者だ。必ず私が()()()()()


 たとえ私が同意の上だとしても、ルベライト殿下はその事実を隠蔽してアクアマリンに全ての責任を負わせるつもりだった。


「そんなのダメです、殿下……! どうかお考え直しください!」


 逆ハーエンドの道を私が塞いでしまった挙句、アクアマリンが断罪させられるだなんて絶対にダメだ。

 なんとしてでも阻止しないと。

 なんだかんだ私のわがままに付き合ってくれたアクアマリンに、いつの間にか情が湧いていたようだ。


「じゃあ考え直す代わりに、君は私の条件を呑んでくれる?」

「条件、ですか……?」

「簡単だよ。私と婚約破棄はしないって」


 それでは全ての努力が水の泡になってしまう……けれど、それでアクアマリンを助けられるのなら受け入れるしかない。


「わかりました、殿下と婚約破棄はいたしません」


 ひとまず条件を呑み、今後についてはこれから考えていけばいい。


「ただ、その……本当に、顔が良い男性が苦手で……殿下も、その対象に入っていると言いますか」


 すでに殿下と目を見て話すことができず、これからも避けるような態度ばかりとってしまいそうだ。

 早々に諦めてもらうためにも、事前に伝えることにした。


「君の話をよく聞いていたからわかっているよ。けれど君が言ったんだろう? 見た目や身分が全てではないって。私と君は見た目や身分にとらわれず、互いに惹かれ合ったんだ。何も恐れることはない」


 ルベライト殿下の手が頬に添えられる。

 これは非常にピンチな気が……前世のトラウマが再発しそうだ。


「それに、君の不安を取り除けるくらいたくさん愛してあげるから安心して?」


 婚約破棄は失敗に終わってしまったが、ここから殿下との新たな攻防戦が始まろうとしていた。



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