役に立つから
小型の異星生物が、次々と撃ち抜かれ転がっていく。いくつものレーザー砲が飛び交い、確実にイグニへ道を作る。
(なるほど、腕は良い)
戦場を駆けながら、イグニは思う。確かにここまでのサポート力を発揮するバディなら、そうそう組めないというヤツはいないのだろう。
(これなら、すぐに引く手あまただ)
今回自分と組めなかったとしても、恐らく向こうにデメリットはない。
とにもかくにも、これで目標に近付ける。
全速力で駆け抜け、牙を剥き唸る獣へ向かう。電撃が周囲を抉り、瓦礫の雨を降らせた。
「待たせたな。今引導を渡してやる」
瓦礫を潜り抜け、死角に出る。獣の眼球がギョロリとこちらに向く。が、遅い。
次の瞬間、ゴウと炎が燃え、獣の片前足が吹き飛んだ。
ギャァァァァア!!
獣の咆哮が響く。吹き飛んだ前足は近くの建物を押し崩しながら落ちていった。
反撃に備え、イグニが飛び退くと、バチバチ!と空気が震え、獣が白く帯電する。
辺りがスパークし、衝撃で周囲の辛うじて残っていた建物が瓦礫に変わった。
三本になった足で、獣が駆ける。残った前肢を振り上げ、雷を纏った爪が迫る。イグニはそれを得物で受け止めた。金属と爪がギリリと音を立て、雷と炎がぶつかり爆ぜた。
獣が怯む。それが隙になる。
「これで終わりだ!」
大太刀を低く構え、足に力を込める。獣の喉元を見据え、穿つようにして首を断ち切った。
ドン、と音がし、首が落ちる。ザァと吹き出した血が辺りを濡らした。
獣の身体がゆっくりと倒れ、地鳴りのような音を響かせて地に伏した。
武器を仕舞い、通信を繋げる。キースに大型撃破の報告をし、残った小型異星生物の殲滅を依頼する。
予想通り、大型個体の撃破を関知したやつらは撤退する様子を見せているとの事だ。自分の任務はここまでだろう。
はぁーっと、長く息を吐く。決して強い個体ではなかった。これくらいで疲れたなどと言ってはいられない。
本部にも連絡を、としたその時、背後から人の気配を感じ振り返る。
「お疲れ様でした。お見事です」
そこにいたのは、今回派遣されたバディ候補だ。声の印象の通り、それは子供と言って差し支えない見目をしていた。
「初めまして。ネルビオ・ヴェントといいます」
にこりと、愛想よく少年は笑った。若草色の落ち着いた色合いの髪と、深い金の、蜂蜜のような目。柔らかい雰囲気は、あまりにも戦場の空気に似つかわしくない。
「…イグニ・レーヴェだ。今回の協力に感謝する。任務は以上だ。報告はこちらでしておく」
話はこれで終わりだ、と言わんばかりに、イグニはネルビオに背を向けた。それに、ネルビオは慌てたように着いてくる。
「待ってください、イグニさん。バディになるんですから、報告は一緒に」
「バディは組まない。誰とも組むつもりもない」
イグニは足を止めて振り返り、ネルビオの言葉を遮るようにして口を挟んだ。
「お前なら、俺じゃなくてもやっていけるだろう」
戦闘中の技量は大したものだった。恐らくマナの保有量も多いのだろう。遠隔操作をするにも、異星生物の外皮を一撃で撃ち抜くだけの火力を出すにも、それなりのマナ量が必要なはずだ。
「っ!いいえ!」
ネルビオがどこか焦ったように大声をあげる。何かを言おうとして、彼は視線を落とした。結局、何も言葉になることはなく、ただ一言。小さく呟くように、イグニさんがいいんです、とだけ話した。
「何故俺に拘る。そう多いわけではないが、バディを組める相手は他にもいるはずだ」
何か事情があるのだろうその様子に、疑念が過る。厄介事は御免だ。
「…今は、話せません。ですが」
ネルビオが顔を上げる。蜂蜜色の瞳が、イグニを映す。
「自分と組めなければ、前線を下げられると聞きました。あなたも、今前線から下がるのは本意ではないでしょう。必ず役に立ちます。だから!」
縋るような言葉に、大きくため息を吐く。余計なことを言ったのは誰だと、胸中で悪態をついた。
バディを組まないのは、バディ候補たちに問題があったからではない。イグニが特定のバディを組むつもりがないからである。ネルビオの努力云々の話ではない。
「さっきも言ったが、俺は誰ともバディを組むつもりはない。例え前線を下げられたとしても、この人手不足の中でそうそう戦力を遊ばせておくことはないだろう。力さえ示せば、上だって俺を前線に戻すさ。それに、俺に何を期待しているのかは知らないが、面倒事を持ち込まれるのは御免だ。お前の事情とやらを話せないのなら、尚更この話はナシだ」
バディは規則上、必ず組まなくてはならない。
理由は飛び抜けて単純で、このサルバシオンという組織のトップが
『一人では無理なことも、二人でならやり遂げられる』
と言って制定したから。らしい。
それとはもう一つ、現実的な理由を挙げるなら、彼ら特殊部隊の討伐対象である大型の個体は、『巣』を形成する場合がある。
これが出現した場合、その地域一帯の生命全てが巣に取り込まれることになる。
バディという最小単位での戦闘を行うことで、巣に取り込まれる可能性のある人数を極限まで絞るのだ。
異星生物との戦いは、常に未知と隣り合わせにある。
『巣』に取り込まれることでどうなるのか。予測は出ているものの、未だ不明な点は多い。
何より、異星生物たちとの意志疎通は成功の例がなく、ヤツらの目的は現在まで不明のままだ。
リスクを減らさなくてはならない。人類が生き延びるために。