届かぬ思い
祖母である郎皇太后より、冬の叙任を言い渡される。これまで無位無官をかこってきた長恭にとっては、世に出る格好の機会だった。
★ 長恭の理想 ★
楽毅は、戦国時代の末期、幻のように建てられては滅んだ中山国の武将であった。
宰相の子息として生まれたが、父の死と中山国の滅亡の危機という悲劇に遭った。しかし、楽毅は城も民も失った中で、運命に逆らうように中山国のために孤軍奮闘した。
祖国の滅亡の後、生き延びた楽毅は、燕の昭王に臣従することになった。昭王の気概に崇敬した楽毅は、敵討ちに協力して、趙・楚などの連合軍を率いて斉を滅亡寸前まで追い込んだのである。
しかし、昭王の死後、後を継いだ恵王は楽毅を妬み謀殺しようとした。
『聖賢の君は、禄をもって親しきに私せず、その功多き者を賞し、位に相応する者をそこに処らせる』
聖賢の君主は、寵愛する者に多くの禄を与えず、功を多く立てた者に報償を与え、相応しい者には位を与える。これは、恵王が楽毅をおびき出すために出した手簡への返書であった。
結局、楽毅は趙の家臣となり戦乱の戦国時代を生涯気骨を持って生き抜くのである。
盛夏になり、百日紅の赤い花が、蒼い空に映える。文叔と長恭は、講堂で『史記』楽毅列伝の講義を受けていた。
楽毅の人格の高潔さや清廉さは、長恭の理想とするところであった。策略入り乱れる戦国の時代に、見事に信義を守った楽毅を思い、長恭は目を潤ませた。
『私は、楽毅のようには見事に生きられぬ。胆力も、武勇も、兵法の理解も及ばない』
六世紀の南北朝時代は、淮水をはさんで北朝と南朝に別れて王朝が興亡していた。
北朝では黄河の上流と下流に別れ、北斉と北周が覇権を争っていた。そして、南朝では陳と梁の武将たちと、北周の傀儡政権である後梁とが、北斉の勢力を巻き込みながらせめぎ合っていた。
『楽毅は、中山国を盛り立てようと気概を持って学問に励んでいた。しかし、自分はどうだ』
この国を支える人材になってほしいと祖母は言っていた。しかし、自分には楽毅のような能力と気概があるのだろうか。長恭は学堂の机の上で頭を抑えた。
気が付くと、すでに何之元の講義は終わっていた。
「師兄、大丈夫か?体の具合でも悪いの?」
隣に座っていた文叔が心配そうに顔を覗き込んできた。長恭の額に文叔が何気なく手を当てようとしとき、長恭は、手で払った。
それは、自分を男として見ていない友情の仕草だ。君は、敬徳にも同じような親しさを示すのか。長恭の胸に昏い情念が横切った。
「だ、大丈夫だ、盛夏の暑さにぐらっときたたけだ。心配ない」
長恭は、滲んだ汗を手で拭うと筆硯を片付け始めた。以前は好意の表れだと思っていた文叔の親しげな仕草が、無力な男としての査証に思える。
その時、文叔の後ろから兄弟弟子の崔紹義が声を掛けた。崔氏は候景の乱に前後して北朝に臣従した漢人の家柄である。
「王文叔、明日、我が屋敷で兄の任官祝いの宴が開かれるのだ。・・・ぜひ来てくれ。一緒に飲もう。そうだ、子叡殿も一緒にどうだ」
紹義は、隣にいる長恭も儀礼的に誘った。長恭は皇族としての身分を隠して、他の弟子たちには高子叡という名で通していた。
青蘭は、他の弟子達との関わりを持たないようにしていた。しかし、長恭はいつかは学堂を離れるのだ。他の弟子達と好を通じることも大切だ。
「崔殿の兄上が任官したのか。それはめでたい」
文叔は磊落に笑うと、手を打ち合わせた。亡命漢人にとって長兄の仕官は、一族の命運が掛かっている。
「兄上は、優秀だと聞いている。・・・祝に駆けつけなければ・・・」
長恭は慌てた。文叔、お前は本当に酒宴に行くつもりなのか?
長恭は、文叔の袖を引いた。
「おお、そうか。南朝出身同士助け合わねば。はっ、はっ、はっ」
崔紹義は文叔に親し気な笑いを見せながら、満足したように席を立った。
民の役に立つように学問をしていると言っていた。文叔は女子でありながら、無謀にも官吏としての道を望んでいるのか。交友の幅を広げようとしているが、それはあまりにも危険だ。
長恭は、不機嫌な顔で『史記』を囊にしまった。
文叔が、崔家の酒宴に出て、泥酔したら途端に女子であることが知れてしまう。いやちがう、ただ単に文叔が男子と親しげに酒を酌み交わすのが嫌なのだ。
「文叔、崔家の祝宴に出掛けて、本気で酒を飲む気なのか?」
長恭は青蘭を睨んだ。
「もちろん行く。師兄はだめだと言うのか?同門の者が任官したら、祝うのが当たり前だろう?」
文叔は、当然のことだと、ことさら明るく笑った。士大夫が本音で付き合うためには、酒を酌み交わすのが大切である。
「文叔、わざわざ、祝宴に行くのか?」
長恭は、文叔の腕を掴んだ。
「文叔、この前、泥酔したときのことを忘れたのか?あの時、どれほど・・・」
上巳節の時に泥酔したことを言われると、青蘭は弱い。酔ったときの記憶が無いのだ。
「あの時のことは反省している。飲み過ぎないと約束するから、暴力で問題は起こさない。いいでしょう?義兄上?」
文叔は笑顔で長恭の肩に頭を寄せた。文叔は自説を通そうとするとき、無意識に女子のような甘え方をする。
「だめだ。義兄として許せない」
文叔は乱暴に嚢を担ぐと、立ち上がった。
「ま、待てよ・・文叔」
長恭は急いで青蘭の後を追った。内院を過ぎ、四阿の近くで文叔の腕を捉えた。
皇族の自分は、仕官を祝う立場にはない。むしろ皇族の身分が広く知られれば、困った立場になる。
「君はそんなに宴に出たいのか?」
男ばかりの祝宴に、酒に弱い文叔を行かせるのは、野獣ばかりの森に兎を放つようなものだ。
「出たい。師兄、私は、いつまでも師兄に頼ってばかりではだめだと思う。人脈を広げねば。だから、祝宴に顔を出したいのだ」
文叔は、唇を固く結んだ。
『文叔は、本当にこのまま男として生きていくつもりなのか?』
長恭は、決意の堅さに叱責の言葉を飲み込んだ。
「ならば、私も行く」
「でも、皇族の義兄上が漢人の宴に出ると・・・」
今度は、青蘭が心配になって口ごもった。
「大丈夫だ。皇族だとは、君と師父以外は知らない。目立たないように気を付けるさ」
長恭は学堂内での付き合いは少ないが、長恭が宴に出ればその美貌ゆえに、人々の目を集めるは必定だ。
「目立たないと言っても・・・」
青蘭は、翻意を促そうとしたが、長恭は頑強に行くと言い張った。
「顔を出すだけだ。文叔、酒に酔う前に帰るのだぞ」
「じゃ師兄、一緒に行こう。少し顔を出すだけだから」
青蘭は長恭と一緒に行ける嬉しさに、相好を崩した。
★ 崔家の宴 ★
次の日の申の刻(午後六時~八時頃)、長恭と青蘭は、連れだって崔家を訪れた。
崔紹義の家は、清河崔氏の流れをくむ名門で大きな構えの屋敷であった。
崔家は侯景の乱のおり、梁より帰順した漢人の家である。父崔完侑は七品の尚方令として任官し、兄の崔紹浩が郎中として仕官することになったのだ。
長恭と青蘭は、垂花門をくぐると家令に贈物を渡した。
贈物は、青蘭が鄭家の白家宰に頼み込んで芳墨を準備した。漆塗りの箱の中身を見た家令は、喜色を見せて従者に案内を命じた。
回廊には灯籠が掲げられ、真昼の様な明るさである。内院の露台には多くの卓が置かれ、来客が座を占めていた。
長恭と青蘭は、内院の四阿の近くの卓に案内された。垂花門から入ってくる客が見渡せる席に着いた。
「盛況だな。崔氏の任官でこれだけの人が集まるとは」
長恭が内院を見回す。客の大半は漢人だが、鮮卑族や胡人と思われる服装の客も見える。
「陛下は、徒党を組むことを嫌忌される。ゆえに、鮮卑族や漢族に拘わらず、うかつに集うことはできない。祝宴は貴重な機会なのだ」
ほどなく、家人により料理と酒が運ばれてきた。酒杯に手を伸ばそうとする青蘭を、長恭が目で制する。青蘭は不満げに口を尖らせた。
紅い灯籠が捧げられた内院を、崔紹義が涼しげな紗の袖を翻しながらやってきた。
「やあ、文叔、来てくれたか。子叡殿も・・一緒とはありがたい」
崔紹義は、子叡を興味深げに見た。
子叡は学堂では身分を隠し、文叔以外とはほとんど交流がない謎の人物なのだ。
方や青蘭を見ると、愛想良く拱手して礼を示した。
長恭は挨拶をするでもなく、崔紹義を無視するように不機嫌に垂花門の方を眺めた。そんな不遜な行動も美貌の貴公子がやると、咎められない雰囲気を醸すのだ。
「兄上は、顔師父の推薦で任官したのか?」
青蘭が、紹義の気を引くように質問した。
「兄は、僕と違って優秀なんだ」
紹義は顔をしかめると、青蘭の杯に注いだ。
「文叔は、今日は体調が悪いのだ。私がもらおう」
青蘭が手を伸ばそうとすると、長恭は素早く酒杯を奪い口に運んだ。
王文叔と高子叡の二人は、書庫や四阿で講義の内容を復習をしたり、親しく学問を論じる姿がよく見られた。
子叡はもちろん、文叔の身分も門弟の間では謎に包まれてた。ある者は豪商の御曹司だと言い、ある者は権門の庶子と言うなど、様々な憶測を呼んだ。
「崔家の前途は、洋々だな」
長恭は、唇を歪めて皮肉交じりに言った。
その時、従人と思われる男が、近付いて崔紹義に耳打ちした。
「楊令公が?」
紹義は、そうつぶやくと慌ただしく垂花門の方に向った。
『楊令公とはだれだ?』
青蘭は、知らない名前に目で長恭に問うた。
「楊令公は、斉の尚書令、つまり宰相だ」
長恭は、青蘭の方に身を乗り出すようにして耳元で囁いた。
「あちらの方に移動するぞ」
皇宮にほとんど参内しない長恭であるが、その美貌は広く知れ渡っている。楊氏と顔を合わせれば、いらぬ疑いを招く。
長恭は顎で示すと、酒杯を手に四阿の方に向った。青蘭も酒瓶と杯を手に後に続いた。
長恭は内院を背に座ると、酒を一口含んだ。
「師兄、席を替わるなんて、何があったのだ」
「楊令公は、高官だ。私の顔も見知っている。ここにいることがバレるとまずい」
青蘭が内院を見回すと、垂花門から崔家の人々に囲まれて、太った壮年の男が入ってきた。
「それでは、酒を頂こう」
酒を制限されている青蘭が勢いよく杯を差し出す。ここで言い合いもできない。長恭はしぶしぶ酒を注いだ。
青蘭はつがれた酒杯を、笑顔で男らしく一気に飲み干した。
「文叔、酒はほどほどと言っただろう?」
文叔はいい気になっている。長恭は、怒りを抑えて上目遣いに青蘭を睨んだ。
「まだ、一杯目ですよ。師兄」
文叔が長恭の肩越しに内院を見回すと、楊令公の回りに漢人達が鈴なりに集まっている。
「ふん、楊令公、たいしたものだな」
頭を傾けて内院を視界に捉えた長恭は、秀麗な眉を歪めてつぶやいた。
「主上の上に、楊令公ありだ」
長恭は、苦々しげに酒を口に含んだ。
「文叔も挨拶に行ったらどうだ。直ぐに郎中ぐらいなら・・・」
朝廷を牛耳っている楊令公に、斉の皇族として、長恭は含むところがあるにちがいない。
「師兄、冗談を言わないで」
長恭は酒が入ると癖のある性格になるのだろうか、今夜はいやに、絡んでくる。
楊令公が、崔家の人々を引き連れて、正房の方に入っていくのが見えた。
「師兄、楊令公は、内院から出た」
青蘭がそう告げると、長恭はゆっくり息をはき、初めて料理を口にした。
楊令公の威勢は大変なものだ。楊令公は、朝堂で隠然たる力を持っている。
『御祖母様の話は、本当なのだな』
漢人は学問を武器に、次々と北斉の朝廷の中枢に入り込んでいる。鮮卑族の王朝であるはずの斉国を牛耳っているのは、実は漢人なのだと長恭は暗然たる気持ちになった。
いつもは温厚な長恭が、漢人の宰相である楊令公には敵愾心を露わにしている。鮮卑族と漢人は、相容れない関係なのだ。鮮卑族の皇子と漢人将軍の娘の間には、越えられない厚い壁があるのだ。
青蘭は、ひっそりと溜息をついた。
★ 宴の麗人 ★
「さあ、師兄飲んでくれ」
青蘭が無理に笑顔を作り、酒瓶から長恭の杯に酒を注いでいると、少しはなれた所から数人の男の声が聞こえた。
「あの、若様風の二人は男装の女じゃないか?」
最近の鄴都には、男装をした女人が多く出没している。
「左の妖麗な桂人が、俺の好みだ」
「まったく、いい女だな」
「女にしては、ちょっと大柄じゃないか」
赤ら顔の柄の悪い三人の男が、千鳥足でこちらの卓に近付いてくる。長恭の最も嫌悪する酔っ払いだ。しかも、自分を女子だと勘違いしている。
長恭は、頬杖を突き不機嫌に酒杯を口に持っていった。自分に向けられる醜悪な欲望は、皇宮で戦陣で酒宴で長恭を怒りの淵に追い詰める。
「お嬢さんたち、我らと共に飲まないか」
三十がらみの小太りの男が、顔をてらてらさせながら長恭に酒杯を突き出した。その目は欲望に赤く血走っている。
自分を女子と勘違いしている。長恭は眉目を歪ませ、怒りに堪えて手にした酒杯をじっと見つめた。
『女人の様だ』『女人にしてみたい』
今まで散々浴びせかけられた言葉は、武勇を尊ぶ鮮卑族では、最低の嘲りの言葉である。
師兄が怒っている。青蘭は青ざめた。女子だと思われるのが、師兄は一番嫌う言葉だ。とんだことになる。
青蘭は立ち上がると、精一杯足を踏ん張って男を睨んだ。
「女子だと?何という無礼だ」
酒で濁った目が、長恭をなめるように見た。
「男だって?・・・誤魔化すなよ。俺たちがお相手をするよ。なあ、お嬢さん」
その時、卓をバンと叩く音が響いて、長恭が立上がった。
「我らを侮辱するのは、何処のどいつだ」
長恭の怒りに満ちた声が低く響いた。
長恭は、立上がると三人よりもはるかに長身だ。羅の袖から透けて見える広い肩と逞しい腕が、男である事を証明していた。
「受けた恥辱は、我が拳で晴らさせてもらうぞ」
翡翠を鏤めた冠は、権門の子息であることを物語っていた。妖麗な瞳は、睨み付けると凄みが増す。長恭が酒杯を卓に叩きつけ、大きな音を立てた。
「ひえぇぇ・・・」
長恭の迫力に、三人の男達は悲鳴とともに後ずさりした。祝客の視線が、五人に集中する。
「あわっ、逃げろ」
すっかり酔いの覚めた三人の男は、這々の体で逃げていった。
案の定、美貌の貴公子はすっかり客の注目の的になってしまう。
「師兄、目立ちすぎだ」
青蘭は小声で長恭を制止すると、周りの視線に堪えきれず下を向いた。
「何という事だ。怒りにまかせて・・・」
長恭は、椅に座り込むと自分の頬をなでながら溜息をついた。
「師兄、申し訳ない・・・」
文叔はおろおろと、長恭の袖に取り付いた。
こんな騒動になるなんて・・・。
元はと言えば、自分の我儘に長恭が付き合ってくれたのである。漢人の集まりに、皇族の長恭を引っ張り出したのは自分である。
「もう帰りましょう」
申し訳ない気持ちで青蘭は長恭の腕を引っ張った。
★ 長恭の任官 ★
崔邸を出ると長恭の馬車は長明溝の川沿いに走った。長明溝は、漳水から引かれた皇宮の前に広がる運河である。
夏の夕日は未だ暮れずに、西の空は銀朱色に染まっている。
長恭と青蘭は、長明溝沿いで馬車を降りた。川の涼風が、二人の酔った頬には心地よい。前を歩いていた青蘭が振り向いた。
「師兄、申し訳ない」
長恭は、銀朱色の夕日を浴びて川面を見ている。
「師兄は反対したのに、私が我儘を言って師兄に嫌な思いをさせてしまった」
酔っ払いに女子と間違われるなんて、長恭にとってひどい屈辱だ。
「いいや、・・・お前のせいではない」
加冠の儀の前には、皇宮や城内で女子と間違えられ男子に迫られることは時々あったのだ。しかし、そんな屈辱的なことを文叔に話せない。
長恭は、茜色に染まる西の空をしばらく眺めていたが、意を決したように青蘭を見た。任官について打ち明けなければ・・・。
「実は、御祖母様から、冬に任官させるとの話があったのだ」
「えっ、任官?」
師兄が、学堂を離れて仕官するのか?いつかはと覚悟はしていたものの、長恭の言葉を聞くと心が乱れる。本当は喜ぶべき事なのに・・・。
「師兄、それは良かった。おめでとう」
青蘭は、無理して顔をほころばせ、長恭の手を握った。長恭は、握られた手の柔らかさにどきまぎしながら青蘭の顔を見た。
「任官すれば、・・・もう一緒に学問ができないな」
寂しさが、胸を覆う。青蘭は川面を見た。
「何を言っているのだ。任官しても、同門であることには変わりはない。それに、学堂でなくとも学問はできるぞ」
長恭は、青蘭の肩に手をやると笑顔を作った。
「仕官は、早くとも十月ごろだ。まだまだ先だ」
『冬に任官したら、師兄と離ればなれになるのか』
日常でも長恭に頼ってばかりの青蘭であった。長恭のいない学堂で、果たして自分は学問を続けていけるのか。今まではどこへ出掛けるのも長恭と一緒だったから、身の危険を感じることもなかった。しかし、これからは自分の安全は自分で守れなければならない。
青蘭は、意を決して長恭を真っ直ぐに見た。
「師兄、一つ願いがある」
「ねがいとは、何だ。文叔」
長恭は、自分を女子ではないかと疑っている。長恭に男らしさを見せねばならない。
「師兄、私に射術を教えてほしい」
「射術?・・・剣術の次は射術?」
剣術の鍛錬で懲りたはずなのに・・・。
「師兄が仕官をするのなから、強くならなければ。士大夫は、射術こそ第一に学ぶべき事だと気が付いたのだ」
文叔は、あくまでも男子で通すつもりなのか。やっぱり、文叔は女子に間違われる男には、興味はないのだ。
「分かった。射術を指南しよう」
長恭は、投げやりな感じで承諾した。
「師兄、ありがとう」
青蘭は、笑顔で長恭の肩を叩いた。
冬になれば、長恭が叙任して学堂を離れると告げられた青蘭は、長恭のために喜びながらも、寂しさを隠せない。強くなりたい青藍は、女子である事を知られないように射術の稽古を所望する。