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4.唐突なイレギュラー

 私が倒れた夕食から一晩明けて、次の日の朝。朝食前にアルヴァが部屋まで迎えにきてくれた。最近、なんだか過保護すぎる様な気がしてならない。



「ペル、昨日は大丈夫だったか?」

「大丈夫です。アル兄様こそ、クマが出来ていますよ」

「ああ……これは、ペルが心配でなかなか寝付けなかっただけだよ」



 これは重症だ。過保護どころの話ではないかもしれない、とようやくここでペルシアも異変に気づき始めたようだった。

 





 アルヴァと共にリビングまで行くと、もう既に父ともう一人の兄であるジルトアが席についていた。

 ジルトアがこちらに少し目を向けたものの、二人からは昨日目の前で倒れたペルシアを気遣う言葉はなくそのまま食事が始まった。


 程なくして、父がなんでもないことかのように物凄いことを言い出した。



「うちに養子を迎えようと思っている」



 兄はどちらも驚いて、食べる手を止めた。もちろん、それはペルシアも同じだった。いや彼女は兄ふたりよりもずっと驚いていた。


 だってガクコイのシナリオで、アルヴァ、ジルトア、ペルシアにもうひとりの兄弟がいるとは書かれていなかったから。ジルトアは怪訝そうな顔で父に言う。



「随分突然ですね」

「突然ではないよ。前から決まっていた事だ」



 アルヴァは腑に落ちないというふうに父親に疑問を投げた。



「スパージアン家には男も女もおります。跡継ぎも問題ありません。養子をとらなければならない理由は無いのでは?」

「アルヴァは次代スパージアン領主であるが、魔法が使えない。であるから、アルヴァの補佐として魔法を使える優秀な男児を用意せねばならない」

「「……」」



 この答えにアルヴァもジルトアも黙り込んでしまう。当然だろう、きっと彼らなりに複雑な気持ちであるだろうから。


 前世を思い出す前であれば、そんなことまで深くは分からなかった気がする。こんなに近くにいる人たちなのに。



「ちょうど孤児院に魔法の適性がある子が来たらしい。今日連れて帰ってくるから、夜は皆で出迎えてくれ」

「承知致しました」



 黙りこくっている二人の代わりに返事をすれば、兄二人が驚いたような顔でこちらを見た。父の目も若干であるが驚いたように開いた気がした。


 このような事務的な話でペルシアが口を挟んだことは一度もない。いつもなら自分の今までの行いを積み重ねたせいだとわかってはいながらも、一人で拗ねてしまうペルシアだが今はそんなこと気にならなかった。


(もう既にシナリオが変わり始めているの……!?)


 せっかく前世の記憶と共にガクコイのシナリオを思い出したのに、また新たな課題に直面してしまってペルシアの心は驚きと不安でいっぱいだったのだ。






 朝食が終わり自室に終わったペルシアは、前世のラジオ体操のようなものをしていた。


(シナリオが変わったからって、ここでめげてしまったら悪役令嬢の運命に近づいてしまうかもしれないわ。)


 そんな決意を胸に、ペルシアは拳を掲げた。



「今日は続・第一作戦と第二作戦の決行の日よ!」





 アルヴァの部屋を訪ねると、いつもよりも元気がないお出迎えがあった。普段ならペルシアからアルヴァの部屋に行けば、お祭りかというぐらいの出迎えがあるのに。



「ああ、ペルか。どうしたんだい?」

「なんとなく来ただけですから」


否、朝の乳の話で落ち込んでいると思って励ましに来たのだ。けれど、ペルシアにはそれを素直に口にだすことは出来なかった。


さて、どうすればアルヴァを元気づけられるだろうか。ペルシアの頭はすぐにそれでいっぱいになった。


 ガクコイのなかのアルヴァルートのシナリオでは、アルヴァは学生にして既に領主となっている。

けれど、やはり彼は魔法が使えない領主という自分の肩書きに悩んでいた。そんな時にヒロインが現れてアルヴァを勇気づける。



「気にしなくても宜しいのでは?」



 ヒロインのエールによって自信を取り戻したアルヴァは領主としての才能を開花させ、魔法による独裁のない平和な領地経営をおこない、スパージアン公爵領は王国で一番と呼ばれるほど平和で栄えた場所となった。



「養子を迎えることで、アル兄様が無能と言っているわけではありません。お父様はただ単に、お兄様をよりよい領主にしたいというだけだと思います」



 アルヴァは仲違いしていた兄弟ともお互いの誤解を解き手を取るようになった。時に兄弟の力も借りながら、この大きな領地をおさめていく。



「ありがとう、僕を心配してくれたんだね。優しいペルは僕の天使だ」

「別にそんなんじゃありませんから」



 アルヴァの笑顔を見て、ペルシアは照れくささと少しの罪悪感を覚えた。だって、ここにいるべきなのは本来ヒロインであり、そのアルヴァの笑顔はヒロインのものであったはずだから。



「……ごめんなさい、アル兄様」




 領地が繁栄してひと段落着いたあと、学園の卒業パーティでアルヴァはヒロインにプロポーズをする。



「私と共に人生を歩んでくれないか」

「ええ、もちろん!喜んで」


 そうしてヒロインはアルヴァの手を取るのだ。結婚式は盛大に、スパージアン領で暮らす全ての人から止まないほどの祝福を受けて青空の下で2人は永遠を誓うキスをする。

それからアルヴァとヒロインを幸せに暮らしました……と言ってアルファルートのハッピーエンドだ。ちなみにその時の私は投獄されている。




「ペル?」

「なんでもありません。それでは、私はこれで」



 急に黙り込んだペルシアの顔を覗き込もうとしたアルヴァをよけて、ペルシアはアルヴァの部屋を出た。扉の前でゆっくり目を閉じる。



(本来の私の役目は、悪役令嬢としてヒロインと攻略対象たちの恋の障害になること。障害があれば恋は燃え上がるというもので、彼らの恋を盛り上げるために私がいる。それなのに、今の私は悪役令嬢になりたくないという私欲のために、ヒロインの立場を奪っているようなものね。)



「続・第一作戦は成功。でも、第二作戦は保留にしましょう……」



 溜息をつきながら肩を落として、ペルシアは部屋に向かってとぼとぼと歩いた。






ここまで読んでくださりありがとうございます!


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ブックマークや感想なども頂けると本当に嬉しいです!是非これからも作品をお楽しみ頂ければ幸いですஐ⋆*


今後ともよろしくお願い致します❁¨̮

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