♥ 対戦者達の末路 1
対戦者達は武器を手に持って襲い掛かって来たけど、セロとオレが襲われる事はなかった。
何故ならば、対戦者達は全員がリング上に這いつくばった状態で仲良く俯せの状態で倒れているからだ。
一体何が起こったんだろう??
対戦者達は心底辛そうな顔をしていて喋れないみたいだ。
マオ
「 ──っ、一体何が起きたんだよ……。
セロ…何かしたのか? 」
セロフィート
「 はい?
ワタシは何もしてませんよ? 」
マオ
「 何で疑問系なんだよ? 」
セロフィート
「 ワタシが何かをした素振りをしました? 」
マオ
「 してないけど… 」
セロフィート
「 駆け出した矢先、急に倒れたみたいです。
審判さん、リング上に段差でもあります? 」
審判実況者
「 えっ……えぇと~~~リング上に段差はない筈ですが… 」
セロフィート
「 足を滑らせた……とか?
予想外に足腰が弱かったのでしょうか?
審判さん、彼等は立ち上がれないようです。
どうなります? 」
審判実況者
「 あ、はい!
転んで立ち上がれなくても生存している限り試合は続行されます 」
マオ
「 じゃあ、対戦者達かオレ達のどっちかが死ぬ迄試合は終わらないって事かな?
セロ、どうするんだ?
もの凄い形相でセロとオレを睨んでるけど…… 」
セロフィート
「 駆け出した矢先に仲良く転倒した原因が分からないのは不気味です 」
マオ
「 バナナの皮を踏んで滑った訳でもなさそうだしな? 」
セロフィート
「 審判さん、彼等は先程から必要以上に吟遊詩人を笑い者にしてましたね 」
審判実況者
「 そう……でしたね~~。
かなり小馬鹿にされてたと思います。
セロフィート選手は見た感じ強そうには見えませんから…… 」
セロフィート
「 何時でも襲われ易いように敢えて1番戦闘力の無さそうな吟遊詩人を選んでます。
弱そうに見えるなら安心しました 」
審判実況者
「 では…セロフィート選手は本来は “ お強い ” と言う事でしょうか? 」
セロフィート
「 ふふふ…。
それは分かりません。
何せこのような大会に出たのは初めてですし 」
審判実況者
「 そうなんですね~~ 」
セロフィート
「 リング上に這いつくばっている彼等は “ 祟りに遭った ” と言う事にしましょう 」
マオ
「 はぁ?
何で祟りなんだ? 」
セロフィート
「 古今東西では “ 吟遊詩人を侮辱すると祟られる ” と言い伝えられてます。
彼等は正に祟られたのです 」
マオ
「 何処の世界の話だよ?
──っていうか前は “ 働かせたら末代迄祟られる ” じゃなかったっけ? 」
セロフィート
「 それもあります。
さて──、彼等が吟遊詩人の祟りから解放される唯一無二の方法は何でしょう? 」
マオ
「 セロ……コイツ等さぁ、無茶苦茶苦しそうに見えるんだけど? 」
セロフィート
「 気の所為です。
転んだのですから痛いのは当然です。
芝居が大袈裟過ぎます 」
マオ
「 芝居……。
見えないんだけど? 」
セロフィート
「 こうしましょう。
吟遊大詩人であるワタシを笑い者にした事を誠心誠意真心を込めて謝罪してください。
そうすれば祟りから解放されて起き上がれます 」
マオ
「 いい加減な事を言うなよ…。
この状況が誠心誠意真心を込めて謝れるような状態かよ。
今にも死にそうな顔してるじゃんか! 」
セロフィート
「 謝罪を拒否するなら、このまま肺と心臓が潰れて絶命するだけです。
ワタシは祟りから解放される方法は教えました。
親切なワタシに感謝してください 」
マオ
「 何で祟りに拘るんだよ? 」
セロフィート
「 拘ってません。
呪いにします? 」
マオ
「 何でも良いよ…。
兎に角さ、この状態だと声も出せないみたいだし、涙ぐんでるじゃんか!
鼻水と涎も垂れてるし… 」
セロフィート
「 謝罪をしてください 」
マオ
「 セロ~~~。
此方が弱い者イジメしてるみたいだぞ… 」
セロフィート
「 何を言いますか。
ワタシは世界一か弱く軟弱な吟遊大詩人です。
マオに守護ってもらえないと生きられないひ弱な吟遊大詩人です 」
マオ
「 よくもまぁ、いけしゃあしゃあと言えるもんだよ… 」
なんてセロと話しているとリング上に這いつくばっている対戦者達が苦しそうな表情で口をパクパクさせている。
唇が震えている。
オレは読唇術なんて出来ないから、対戦者達が口パクで何の単語を伝えようとしてるのか分からない。
だから、セロには「 口パクしてるよ 」って事しか言えないわけで……。
セロフィート
「 口パク…です?
こんな状況でも金魚の真似をするとは…。
未々余裕は有りそうですね 」
マオ
「 いや、金魚の真似は違うと思うけど? 」
セロフィート
「 彼等はワタシへの謝罪をする気は無いみたいですね 」
マオ
「 この状況で喋れたら異常者だろ。
せめて話せるようにしてやったら? 」
セロフィート
「 ワタシは何もしてません。
ワタシに言わないでください 」
マオ
「 セロ!
どうせ魔法を使ってるんだろ?
許してやろうよ 」
セロフィート
「 マオ……。
君は彼等が何を言ったのか忘れました? 」
マオ
「 吟遊詩人を馬鹿にして笑い者にしたんだろ? 」
セロフィート
「 違います。
彼等は君を『 食べる 』と言いました。
ワタシのマオを『 食べる 』と──。
そんな危険極まりない輩を易々と野放しに出来ますか 」
マオ
「 セロ……オレの為に? 」
セロフィート
「 マオ、このまま彼等の首と胴体を斬り離してください 」
マオ
「 へっ? 」
セロは慈愛に満ちた慈母神のような笑顔をオレに向けて微笑みながら、耳を疑うような言葉を発した。
コイツ等の首と胴体を斬り離せって?!
それは絶賛無抵抗中のコイツ等を「 容赦なく殺せ 」って事だ。
セロは……本気だ。
本気なんだな…。