セロが読書に耽ってる最中、オレは窓から外の景色を眺めていた。
そう言えば窓から景色をじっくり眺めた事はなかったように思う。
ベランダにはキノコンが居て警備をしてくれている。
窓から見えるのは、貴族達が暮らしている別荘の屋根と緑々と生い茂る深そうな森と碧々と水面が輝いて見える海だ。
そう言えば「 海で泳げる 」ってセロが言ってたな。
海か──。
今日の試合は17時からだったから、海に行ってみるのも良いかも知れない。
肝心の海へ続く道は此処からは見えないけど……。
マオ
「 セロ──、カジノが閉鎖してるならさ、朝食が済んだら海に行ってみないか? 」
セロフィート
「 構いませんよ。
ピクニックでもします? 」
マオ
「 ピクニックか。
うん!
それ良いな!
お弁当持って海に行こう! 」
セロフィート
「 ふふふ…。
ピクニックデートですね♪ 」
マオ
「 デートかぁ……エヘヘ(////)
綺麗な貝殻とかあるかな?
双子貝とかさ 」
セロフィート
「 あると良いですね 」
マオ
「 うん♪
──ところでさ、セロは何の本を読んでるんだ? 」
セロフィート
「 マーメイドプリンセス──人魚姫の物語です 」
マオ
「 人魚姫ぇ?
何だそれ?? 」
セロフィート
「 海底に住まうセイレーンの仲間です。
“ 海の神 ” と呼ばれるポセイドン王には13人の娘が居ます。
その中の末姫を主人公にした物語です 」
マオ
「 へぇ?
13人も娘が居るなんて凄いな。
でもさ、セイレーンって悪い怪物じゃなかったけ? 」
セロフィート
「 物語によって、セイレーンに対するイメージや容姿は異なります。
この物語のセイレーンは歌が上手なだけで特に人間に危害を加えたりはしない種族のようです 」
マオ
「 へぇ?
悪戯したり、歌を歌って船を難破させたり沈没させたり、漁師を海に引き摺り込んで食べたりしないんだな… 」
セロフィート
「 人魚姫達の母親がセイレーンの女王です。
人魚姫達は誰もが歌が上手く、特に末姫マリエルの歌声は別格で、人魚の世界では1番の歌い手です。
好奇心も人魚の誰よりも強く、人間の世界への憧れは誰よりも強いキャラクターです 」
マオ
「 へぇ?
それで人魚姫のマリエルはどうなるんだ? 」
セロフィート
「 お供の亀と海中散歩をしている最中、大勢の人間が乗る豪華客船が嵐で沈没した際、1人の人間を助けました。
マリエルは助けた男に一目惚れし、人間となり助けた男と共に生きたいと強く想うようになりました。
恋をしたマリエルは盲目となり、家族の反対を押し切ると “ 魔女 ” と呼ばれるアキンナズの元を訪れ、美しい声を対価としてアキンナズへ渡し、人間になれる薬を手に入れます 」
マオ
「 声を失っても人間になりたいなんて…………イカれてたのか? 」
セロフィート
「 恋に恋しているマリエルには周りが見えない程に盲目だったのですから、仕方無いでしょう。
そうでもしないと物語は進みませんし 」
マオ
「 …………それもそうだな。
薬を手に入れたマリエルは人間になったのか? 」
セロフィート
「 なれましたね。
3日3晩の激痛に耐え抜いたマリエルは人間の足を手に入れ、一目惚れした男の元を訪ねました 」
マオ
「 3日3晩の激痛って……。
考えただけでもゾッとするよ… 」
セロフィート
「 嵐の夜、命を助けた男と再会したマリエルは男が王子で婚約者候補が何人も居る事を知りました 」
マオ
「 一国を担う王様になる予定の王子なら婚約者候補が大勢居ても仕方無いよな?
マリエルはどうするんだ? 」
セロフィート
「 お城で侍女として働きながら、王子の婚約者候補の令嬢達を次々に殺害します 」
マオ
「 は??
婚約者候補達を殺害??
何でだ?? 」
セロフィート
「 邪魔な障害物を排除する為ですね。
マリエルは魔法を駆使して次々に完全犯罪を成功させて── 」
マオ
「 人魚姫が完全犯罪って…… 」
セロフィート
「 マリエルは殺害を繰り返しながら──、婚約者候補の令嬢達を次々と失う事に心を痛め,落ち込み,鬱ぎ込んでいく王子の傍らに寄り添い、労り献身的に支える事で、心身共に弱っていく王子と誰よりも親密な関係を築いていきます 」
マオ
「 マリエル……怖い…… 」
セロフィート
「 後にマリエルは王子と深く愛し合う仲となり、マリエルが子供を身籠った頃には王子の周囲に婚約者候補の令嬢は居なくなっていました。
マリエルは王子と結婚し、妻となり、実に多くの子供を出産し、夢に見た幸せな暮らし始めました 」
マオ
「 ………………それで終わり? 」
セロフィート
「 此処迄が物語の第1章です 」
マオ
「 第1章……って事は未だ続くって事か? 」
セロフィート
「 第21章迄あります 」
マオ
「 ──に…21章?!
えらい長編なんだな…。
第1章だけで、お腹一杯だよ… 」
セロフィート
「 そうです?
最終章では敵対していた魔女のアキンナズと和解したマリエルが、アキンナズと共闘してポセイドン王が率いる軍勢と戦う展開となります 」
マオ
「 はぁ?!
どゆこと~~~~??
ポセイドン王ってマリエルの実父なんだよな?
何で敵対してんの?? 」
セロフィート
「 それは第2章 ~ 第20章迄を読めば分かります 」
マオ
「 オレが読めないの分かってて言ってるだろ!
マリエルは最後、どうなるんだ? 」
セロフィート
「 魔女の呪いと洗脳を受け操られていた──という事で許されます。
魔女が処刑された事により、アキンナズに対価として渡した美しい声を取り戻したマリエルは、愛しい夫と子供が待つ王城へ帰りました 」
マオ
「 マリエルには何のお咎めは無いのか? 」
セロフィート
「 王城へ戻ったマリエルを迎え入れたのは、愛しい子供達を惨殺し、死体を串刺しにして晒した夫でした 」
マオ
「 え??
子供達を惨殺?? 」
セロフィート
「 王子──いえ、現国王は嘗て自分の婚約者候補だった令嬢達を殺害した犯人がマリエルだったと知ってしまったのです。
故にマリエルは人間の敵として拷問を浮けた後に処刑されました 」
マオ
「 意外な終わり方だな……。
だけどさ、最後の最後にマリエルは自分の犯した数々の罪の報いを受けたんだよな… 」
セロフィート
「 どの様な事情があろうともポセイドン王とセイレーン女王の愛娘を殺す事は大罪です。
魔女の呪いと洗脳からから解放され正気に戻った──と信じて疑わない親馬鹿なポセイドン王とセイレーン女王は、マリエル娘むすめとマリエルの子こ供ども達たちを殺ころされたと知しり、人にん魚ぎょ達たちの怒いかりも買かう事ことになりました。
弱じゃく者しゃは強きょう者しゃから無む慈じ悲ひに虐しいたげられるものです。
ポセイドン王おうとセイレーン女おう王じょの末すえ娘むすめマリエルは強きょう者しゃであり、人にん間げんの貴き族ぞく令れい嬢じょうは虐しいたげられる弱じゃく者しゃです。
弱じゃく者しゃが強きょう者しゃを殺ころしたのですから、王おう国こくは理り不ふ尽じんな制せい裁さいと報むくいを受うける事ことになります。
王おう国こくは70mメートルを超こえる巨きょ大だいな大おお津つ波なみに襲おそわれて滅ほろんで終おわりを迎むかえます 」
マオ
「 え……??
滅ほろんじゃうのか?
マジで?? 」
セロフィート
「 人じん類るいは大だい自し然ぜんの脅きょう威いには敵かなわない──という教きょう訓くんで締しめ括くくられて終おわります 」
マオ
「 自し然ぜんの脅きょう威いってもポセイドン王おうが故こ意いに起おこした津つな波みじゃないかよ……。
後あと味あじの悪わるいバッドエンドだなぁ… 」
セロフィート
「 読よみ応ごたえのある物もの語がたりです 」
マオ
「 …………そうかよ 」
朝あさっぱらから嫌いやな話はなしを聞きいちゃったな……。
海うみを見みる度たびに思おもい出だしそうだよ…。
ははは…………。