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本物の聖女 3

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 悪人面ってこう言うのを言うのかしらね。

 訳がわからなくてぽかんとしている間に、わたしは城のマクシミリアンの私室に連れてこられていた。

 いつの間にかソファに座らされていて、隣にはマクシミリアンがいる。


 肩を抱かれているから距離がすごく近くて、混乱しているところにドキドキも加わるから、ちょっぴり離れてほしかったりするけど、機嫌よさそうに悪い笑みを浮かべているマクシミリアンには言っても無駄な気がした。


 メイドたちがお茶を用意して去って、部屋の中に完全に二人きりになると、マクシミリアンは順を追って説明してくれる。


 まず、聖女とは聖王シュバルツアの泉によって選ばれるけれど、少なくとも、帝国がフィサリア国との間に、聖女を嫁がせるという盟約を交わした四百年前から今日に至るまで、たった一人を除いて、聖女は誕生していなかったとのことだった。

 ちなみにそのたった一人がわたしらしいのだけど、フィサリア国側はそれがアンジェリカだと勘違いして、ジェラルドはアンジェリカの力を使って帝国の乗っ取りを測ろうとしたらしい。


 帝国との約束は「聖女を嫁がせる」というものだから、聖女が誕生していなければ誰も嫁がせる必要はなかったのだけど、そこは例の『国の意思』が関係していたのだそう。


 何でも、フィサリア国側はずっと昔――それこそ、ソヴェルト帝国との戦争に負けた日から、帝国を裏で支配するという何とも大それた望みを抱いていたという。

 まあ、王や皇帝の外戚が国を牛耳るなんてよく聞く話だから、計画としては悪くなかったのかもしれないけど、そのために偽物の聖女をし立てあげて嫁がせたりするから話がややこしくなったのだ。


 っていうか、ようやくアンジェリカの「女帝になる」とかいう意味不明な発言が理解できたわ。

 国側から国母となれば女帝になれるのだとかなんとか吹き込まれていたのである。まあ、若い王が立った場合、その母親がかわりに政を行うという例もないわけではないから、女帝というのは言い過ぎにしても、あながち嘘とも言えないのかもしれないけど、ずいぶん大きく出たものだ。


 この件に関して、マクシミリアンはフィサリア国側の追及の手を緩めるつもりは毛頭ないそうなので、徹底的にやり込めるつもりだろう。

 戦争にならなければいいなと思ったけれど、そこは大丈夫だと彼は笑った。


 ジェラルドのしたことは無謀なことだったけれど、彼は一つ、真実を言った。

 これまで帝国に嫁がされてきた偽物ではなく、本物の聖女が手中にあれば、それこそ国一つ滅ぼすのはたやすいことらしい。


 正直言ってわたしにそんなことができるとも思えないし、したいとも思わないが、脅しとしてはかなり有効な策なのだそうだ。

 早い話、本物の聖女であるわたしがソヴェルト帝国についている以上、フィサリア国側は降伏するしかないのだそう。


 ……ねえ、こういうのをさ、腹黒って言うんじゃないの?


「フィサリア国の扱いはどうなるんですか?」

「吸収してもいいが、面倒だから、属国にする」


 今でもすでに属国に近い扱いだったけど、今後は完全に支配下に置くという。

 マクシミリアンはわたしの肩から頭に手を滑らせて、なでなでしながら笑った。


「いずれ、俺の子の一人に治めさせてもいいしな」

「はあ、そうですか」


 好きにしたらいいと思う。わたしは氷の塊を出しただけだけど、なんだかどっと疲れたよ。早く古城に帰って、用水路作りの続きをして、ごろごろスローライフに突入したい。

 そんなことを思いながら適当に相槌を打っていると、マクシミリアンが形のいい眉を跳ね上げた。


「他人事みたいに言っているが、俺の子はお前が産むんだぞ」

「はあそうです…………はい⁉」


 今、とんでもない爆弾発言をしませんでしたか?


 わたしが驚愕していると、マクシミリアンの機嫌が悪くなった。


「どうして驚くんだ。お前、俺に嫁いできたんだろう?」


 いや、そうだけどもさ。この騒ぎでその話って有耶無耶になったんじゃないの? まだ有効なわけ? だいたい、わたしたちは一生別居生活で、わたしは古城でスローライフでしょ? まさかマクシミリアンまで古城で生活するつもり? それともまさか――


「近々、この城のお前の部屋を改装させるから少し待ってろ」


 そのまさかだったー!


 せっかく庭を野菜畑にして、城を改装して、鶏も牛もヤギも育てて、養蚕業までしているのに、お引越し確定ですか⁉


「どうして驚くんだ。クリスティーナ、お前も王都に行きたいと言っていたじゃないか」


 たしかに言ったけれどそれは旅行って意味で永住するって意味じゃない。

 あわあわしていると、マクシミリアンに両方の頬を挟まれて、ぐいっと顔を引っ張られた。


 近い近い近いったら近いー!


「お前は俺に嫁いできたんだろう」


 地を這うような低い声で念押ししないでください!


「そうですそのとおりです!」


 逆らっても絶対にいいことがないと判断したわたしは、両頬が挟まれた難しい体勢のままこくこくと首を振った。

 マクシミリアンは満足したようにわたしの頬から手を放して、再びわたしの肩に手を回す。


「準備が整ったら盛大に結婚式を挙げるからそのつもりで」


 機嫌よく笑うマクシミリアンに、わたしはがっくり肩を落とした。


 グッバイわたしのスローライフ……‼




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