表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

復讐


アリス先生は、プーちゃんを広場に連れて行き、村人達に謝罪させた。

プーちゃんは泣きながら額を地面に擦り付けて謝った。

アリス先生も「どうかこの子を許して欲しいです」と頭を下げた。

私も一緒にお願いした。

それでも家族を誘拐された人達が許す事はなかった。

アリス先生は村人達に「ププルは私が厳しく罰します」と言って、村を後にした。


空が夕陽で真っ赤に染まる頃。

アリス先生と私はプーちゃんを連れて村を出た。


先生の教え子のコゼットくんが、馬車の停留所まで送ってくれた。

馬車に乗り込む直前、コゼットくんがアリス先生に頭を下げた。


「先生は僕らの村を守ってくれたのに、村人たちは先生に感謝を述べませんでした。ごめんなさい」


アリス先生は笑った。


「仕方ないですよ。本当はこの子を罰すべきは村人達なのに、僕が勝手をするので」

「先生…今回は本当に助かりました。やっと村に平和がやって来ます」

「それは良かったです」

「ありがとうございました」


コゼットくんは再度頭を下げた。

アリス先生はその頭をポンポンと撫でた。


「では、新学期からまたよろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「それと、助手のモミジちゃんも今度から君の同級生になるから、仲良くしてあげて下さいね」

「……え?」


え?

どう言うこと?

先生に尋ねる。


「あの、同級生とは…」

「新学期から助手ちゃんも魔法学園に入るんだよ」 

「……」


聞いてない。

だけど……。

アリス先生が首をかしげた。


「やだ?」

「…いえ、楽しみです!」


ふふふ、とアリス先生は笑った。

元いた世界では学校は面倒くさい所だった。

それは多分同級生達と無理に関わろうとしたから。

でも今度は魔法の勉強というしっかりとした目標がある。

無理友達を作ろうとしなくて良い。

――アリス先生だっているし。

面倒な気持ちよりも、楽しみの気持ちの方が強かった。

コゼットくんが私に手を差し出した。


「よろしくね。モミジちゃん」

「…!よろしくお願いします」


コゼットくんと握手を交わした。

アリス先生はその様子を微笑ましそうに見ていた。


***


馬車の中。

アリス先生は本を開き、仕事をしていた。

私は疲れてウトウトしながらも、『魔術譜入門I』を開いた。

横に座っていたプーちゃんが突然、泣き出した。

びっくりするアリス先生と私。

アリス先生がプーちゃんに尋ねた。


「どうしたんだい?」


プーちゃんが涙を拭いながら言った。


「……せ、先生…モミジ…ごめんなさい」

「…何で謝るの?」

「私のワガママのせいで、先生とモミジに迷惑かけた…村の人達は私を許さなかった…」


罪悪感を感じていたみたい。

アリス先生はプーちゃんの頭を優しく撫でた。


「さっきも言った通り、君がした事は許されることではない。だから、これからは償いの気持ちを持って、よく勉強することだよ。そして、この世界のために貢献するの。いいね?」

「うん」


プーちゃんは目に涙を浮かべながら、素直に頷いた。

一件落着。


・・・と思っていた。

が、この後一波乱が・・・。


***


アリス先生は、プーちゃんの頭を撫でた後、ふと前の席の乗客に目を向けた。

その乗客は、ちょび髭を生やし、スーツを着ていて、ちょっとダンディーな紳士という感じ。

年齢は50〜60歳くらいだろうか。

アリス先生はその人をジーと見ていたが、やがてニヤリと小さく笑みを溢した。

あ、と思った。

…これ、悪い顔だ。

瞬時に分かった。

でもこの人と先生の関係が分からない。 

だだとてつもなく嫌な予感がする。

うーん、うーん。

事が起こってからでは遅い。

杞憂である事を祈りつつ、思い切って聞いてみることにした。


「…先生、あの紳士がどうかしたんですか」

「紳士なもんか」


あー、まずい。

杞憂ではなかった。

多分昔に何かあったな。

良いことではなさそう。

アリス先生は私の耳元に手を当てて、話しかけてきた。


「助手ちゃんに教えてあげる。あの人はね、僕を追放した研究所に勤めている人だよ。…あ、僕はね、研究所にいる時、色々な嫌がらせを受けていたからね、全員の顔と名前と住所と家族構成は把握しているんだ」


最悪。

よりによって何でこんな馬車で出会うの?

この人、何かしでかしかねない。

目の前のおじさんは本を読んでいて、アリス先生に気付いていない様子。


私は先生に違う話題を振った。


「…そ、それにしても今日の夕陽は綺麗でしたね」

「うん、そうだね。さてあのジジイに何をしてやろうか」


やめてください。

何もしないで。


「せ、先生、『魔術譜入門I』のここが分からないんですけど…」


質問で気を逸らす作戦。


「あ〜、これはねえ……」


先生は解説をしてくれた。

が、その目は確実におじさんの方へチラチラと向けられている。


まずい。

本当にまずい。


先生は解説を終えると、


「ちょっと待ってて」


と言い、席を立った。

ちょっ…何をする気ですか?!

アリス先生はおじさんの真横にドサリと座った。

あー。

心の中で頭を抱える私。

おじさんがアリス先生に気付いた。


「…あ、きみは…アリスくんかい?」

「はい!ご無沙汰しております。先生ッ」

「…ああ……そうだね」


おじさんはタラタラと汗を流した。

何か後ろめたいことでもあるのかもしれない。

いやこの反応…絶対にあるな。


「アリスくんが元気そうで何よりだよ……はは…」

「ええ、お陰様で!」


うわー。

アリス先生、すっごく楽しそうに返事する。

何をするの?

やめて。

止めに入りたいけど、私は彼女達のやり取りを眺めていることしか出来ない。

どうか穏便に済んで!

心の中でそう強く祈った。

…が、祈りは届くことがなかった。

アリス先生は、おじさんの顔にその美しい顔を近づけた。

じっとおじさんの目を見据える。

おじさんは顔を真っ赤にして、汗をどっとかいた。

恐らく、アリス先生の持て余す程の美貌にやられたのだろう。


「……ア…アリスくん…? どどどどうしたんだね?」

「先生。先生が僕にした事、ちゃあんと覚えてますよ?」

「…な、何のことだね」


アリス先生はおじさんの膝に手を置いたあと、その耳元に、チェリーのような愛らしい唇を付けて、何かを囁いた。

おじさんの顔が真っ青になった。


「…しょ、しょ、証拠はあるのかね?」


アリス先生が満遍の笑みで言った。


「ありますよ!今度先生の奥様に送って差し上げましょう!」

「……なっ…そ、それは…」

「どうしたんですか? センセ?」

「…分かった!何でもするから!何でもするから…それだけは辞めてくれ!」


アリス先生の唇の端がひそかに上がった。


「何でも? 言いましたね」

「ああ!だから辞めてくれ!」


正直これ以上は見てられない。

せめてプーちゃんだけでも…。

私はプーちゃんの目を両手で塞いだ。


「モミジ? どうした?」

「プーちゃん!あの…何か楽しいこと考えましょう!」

「……モミジ……」


プーちゃんは「はあ」と溜息をついた。


「モミジ、あたし、悪魔。モミジよりも、“ワルイコト”たくさん知ってる」


・・・ですよねー。

というか目の前で起こっている事が「ワルイコト」と認識しているのか。

私はプーちゃんの目から手を離した。



広告下の☆☆☆☆☆から、評価して頂けると嬉しいです!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直なご意見を頂けると有難いです。

感想も頂けたら喜びます!


ブックマークもして頂けましたら、大変励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ