第8話 主人公、なぜか閻魔大王から地獄の制圧を命令される
「おいっ!お前!」
「は……、はい?僕ですか?」
「そうだよお前、次お前の番だから早く来い!」
赤鬼に急かされ、剛は急いで閻魔大王の前へ移動した。
いつの間にか順番が回ってきていたようだ。
閻魔大王を前にして剛は、緊張で体が固まってしまった。
赤い顔をし、豊かな髭をたくわえた、筋骨隆々の堂々とした威圧感。
まさに、地獄行きへの裁判官だ。剛は一言も話せない。
見かねた閻魔大王から言葉を発した。
「いいのか?地獄で」
「じ、地獄?僕、地獄なんですか?」
剛は慌てて返事をする。
「このままだと、そうだな」
「なぜ……、僕が……?」
「そう思うなら弁明でも何でもするが良い」
剛は自分の手をぐっと握り、閻魔大王に向け意を決して話し出した。
「ぼ、僕は、いじめられていたんです。けれど決して人をいじめたりしていません!また、人の物を盗んだりしたこともないんです!それなのに何故、地獄行きなんでしょうか??」
「どうだ?俱生神?」
「……セーフティアウト、デス!」
「……、なんだそれは?」
閻魔大王は苦々しい顔で俱生神に聞いた。
「ジブンノ手ハ、汚シテナイ、ダカラセーフティ。ケレド、ホント二何二モシテナイ、ダカラ、アウト!」
「そ、そんなっ」剛は焦った。
「少しお待ちくださいませ俱生神」
閻魔大王の左側に居る同生天が切り込んだ。
「ナゼデスカ?同生天」
「この者は、賽の河原にて初めて自ら行動を起こし、自分だけではなく他の子供達をも助けました。これから成長の余地ありかと」
「セイチョウ??シンデカラ成長シテモ遅イノデス!」
「それなら何故、死後の世界があるのですか?罪を悔い、成長することが必要でなければ、死後の世界も地獄も必要ありませぬ」
「クッ……、キレイゴトデス!」
「そこまでだ、俱生神、同生天」
閻魔大王の野太い声で二人はさっと畏まる。そして閻魔大王は改めて剛をじっくりと観察する。そして剛から視線をそらさず言った。
「おぬし達の主張、良く分かった。よってこの者は特別使役を与えた上で、地獄行きにする」
「特別使役……?ソレハ何デショウカ……?」
俱生神は聞いたことがない風に首を傾げる。
「お前への特別使役とは、地獄制圧だ」
「地獄の制圧……?そんな!そんな事が僕にできるはずが……!」
「できなければ、それまでだ」
「……」
「また……、お前がまだ知らないだけで、強い加護も受けている」
「加護……?」
「それは、いずれ分かるだろう。お前は今までもできるはずがない、と何もしなかった。そ
の罪から解放されるには、特別使役を受けるしかないのだ。どうだ、やるか?」
――こんな日が来るとは。
平穏に暮らしたかっただけなのに。学校ではイジメられ、母親には理解されず、ましてや地獄に行って、地獄の制圧とは――。
剛は頭がいっぱいで返事ができない。だが、時間がないことも分かっていた。
「過去がどうあれ、現在がどうあれ、変わろうとする君は、カッコよかった」
優花の言葉が、なぜか心に響く。
「や……、やります。やります!僕は何をしたらいいですか?」
剛は閻魔大王に向き合った。