第7話 彼女が犯した罪
ボワンという音と煙と共に出てきた重厚な鏡には、何故か優花が映っていた。
「コノ鏡、浄玻璃の鏡ネ」
「じょうはりのかがみ……?なぜ私が映っているの……?」
しばらく優花の姿だけを映していた鏡だが、次第に場面は学校の教室らしきものになっていた。
クラスの輪の中心にいる優花。女子グループの中で一人だけ机の上に足を組んで座っていて、何だかそのグループをしきっているようにも見える。剛が思っていた優花とは少し雰囲気が違う。
やがて優花は、ポケットの中から丸めた紙を取り出し、一人の女子生徒の後ろ姿に投げつけた。
「!?」
その鏡を見ていた剛たちの中にも動揺が走る。
「どういうことだ……?あんな可愛い女の子がなぜ紙を投げつけているんだ?」
周りの人間たちは口々にざわめく。
そしてその鏡の場面はいつの間にか学校の女子トイレとなっていた。
五、六人の女子生徒が、一人の女子生徒に迫っていた。先ほど紙を投げつけられていた女子生徒だと思われる。
「……あんた、何無視してんのよ?」
優花の声が鏡から聞こえる。
「ちょっと勉強ができるからって、調子こかないでよね!」
優花の声を合図に、女子生徒が一斉に攻撃を仕掛ける。髪をつかみ、トイレの床に押し付け、顔を上履きで踏んづけた。
「これは酷い……」
鏡を見ている周りの人間から思わず声が漏れる。
そして次に鏡は、優花がコンビニに居る場面に切り替わった。
キョロキョロとあたりを窺いながらパーカーのフードを被り店内を歩く優花。そして、おもむろにレトルトカレーを手にとると、ポケットに突っ込んだ。
「こらっ!何やってんだ!」
店長らしき人が優花に迫る。優花は慌てて店外に逃げた。
それでも追ってくる店長、走って逃げる優花。
住宅街の曲がり道を勢いよく曲がる優花、そしてその目の前には車が――。
そこで、優花は轢かれて死んだ。
「病死っていうのもウソか……」
そう呟いて剛は遠目からだが優花の顔を見た。彼女の顔から血の気を引いている。
「コレデモ、悪いコトシテナイト?」
俱生神が優花に尋ねた。優花は下を向いたままだ。辺りは静まり返っている。
しばらくの沈黙の後、優花は手にぐっと力を入れて、言葉を発した。
「仕方がなかったのよ……」
「何ガデスカ?」
「仕方がなかったんだよ!」
「ダカラ何ガ?」
「あの女は勉強もできて親も医者で、私たちには見向きもしないし!」
「フムフムソレデ?」
「コンビニは、親が帰って来なくて!食べるものが無くて!どうしてもお腹が空いたのよ!」
「フムフムソレデ?」
「それでって……。私の話、聞いてた??こんな可哀そうなのに、地獄へ行けっていうの??」
「ゼンゼン、可哀ソウジャ、ナイデス」
「どうして……」
「貴方ニハ、分カリマセンネ。ハイ、アウトデス」
「そんな!」
そして一連のやりとりを見ていた閻魔大王は締めくくるように大きな声で言った。
「はい地獄行き決定」
「やめて、いや!助けて!」
暴れる優花を赤鬼達が引きずる。
やめて――……!
赤鬼に連れ去られ、優花の声は次第に遠くなっていった。
そして一瞬の静寂のあと、何事もなかったように次の裁判が始まっていった。
まさかあの優花が――。
剛は愕然とした。初めて出会った時の優花は笑顔が可愛い女の子で。
病院で死んだと言っていたが、それも嘘だったとは。
騙されたように感じて、剛は呆然とした。