第5話 閻魔宮殿での裁判
――人は、簡単には変われない。
――強い奴は、強い。弱い奴は、弱い。
――そして、弱い奴は、死んでもやっぱり弱い。
あの河原で、一度は、強くなれたと思ったのに。
優花が去った後、そんな事が頭から離れない。
果てしなく続く霧がかった大きな橋の上を、他の人々に混じって剛は進んだ。
橋を越えしばらく歩くと、遠くに真っ赤な宮殿が見えてきた。
近づくにつれ、その迫力に息をのんだ。とても大きく、立派だ。
至るところで炎が焚かれ、煙が上がっている。
そして宮殿自体の壁も赤なので、遠くから見ても真っ赤な宮殿に見えたのだ。
そしてその宮殿周りには屈強な赤鬼達が数多く配置されている。
しかもその赤い宮殿を取り囲んでいる塀は、上が見えないくらい高くて厚く、どっしりとした塀だ。
一度入ると絶対に出ることができない事が容易に想像できる。
「ほらお前ら、急げ―っ!」
赤鬼達が剛たち元人間をその宮殿に入るように急かす。
数えきれないくらい多くの人達がその宮殿に続く道で溢れかえっている。
――この宮殿は一体?
剛は考えた。今までの建物に比べて段違いに立派だ。
その時、剛は獄卒の言葉を思い出した。
「賽の河原、三途の川、閻魔宮殿……」
そして剛は既に、賽の河原と三途の川はクリアしている。
ということは……、
「ここは、閻魔宮殿なのか……?」
剛は全身がぞわっとするのを感じた。
高い天井、赤くて重厚な絨毯、燃え盛る炎。まるでゲームにでもでてきそうな、重々しい空気が漂った長い廊下を、剛たちは赤鬼に急かされながら順番に進む。
そして部屋に入って気がついたが、どこからともなく「ウー……」という低い呻き声が建物全体から聞こえる。
その声が耳にこびりついて、とにかく落ち着かない。
しばらくすると、大広間に出た。
とても太くて重そうな赤い円柱が随所にあり、この部屋の大きさを物語っている。
そして広さのため、部屋の端があまり見えないくらいだが、遠くには大階段があり、その上から声が聞こえる。
その大階段を目指すように、人々が何列にも連なって並んでいる。
――その時だった、その列の中に剛が彼女の姿を見つけたのは。
「優花……さん、だっけ。彼女は地獄とは無縁だろうな。病気で死んだと言っていたし」
剛は一人でそう呟いた。
「ボヤっとするな!早く進め!閻魔大王様が階段の上でお待ちだ!」
赤鬼のその言葉で、大階段の上に居るのはやはり閻魔大王という事が分かった。
そしてゆっくりではあるが、確実に閻魔大王への道は近づいている。
剛は優花の後ろ姿を追いながら、列に並んだ。
進むにつれて、階段の上の様子が徐々にではあるが分かってきた。
「た、たすけてください。私は何も悪いことはしていないのです」
剛と同じ元人間と思われし声が聞こえる。
「どうだ、俱生神?」
野太くて、低い声がする。これが閻魔大王の声だろうか。
「閻魔大王サマ、セーフティー、デス」
機械音のような、甲高く感情が無い声が聞こえた。
「よし、行ってよい」
「……、ありがとうございます!」
どうやらこの人は地獄行きを免れたようだ。
このようなやりとりが、さっきから永遠に繰り返されている。
あの俱生神と呼ばれるものが、人間の嘘を見破るシステムになっているようだ。