第3話 地獄での最初のイベントである賽の河原。元いじめられっ子はどうクリアする!?
「ハッ!笑わせてくれるな」
その赤鬼はバカにしたような目つきで剛を見る。
「たまに居るんだよな、死んでから頑張るヤツ」
舐めるような視線で剛を上から見下す。けれど剛は怯まない。
「どうせすぐ諦めるだろ。大体この河原に居るヤツは、現世でイジメられて自殺したヤツが多いんだよ。みんなどうせ自分はってヤツばっかりだから、どうしようもないよな」
「……ゴールを教えてくれ」剛は言った。
「ああ?」
「どうやったらこの賽の河原をクリアできるんだ?ゴールを教えてくれ!」
剛は赤鬼に詰め寄る。
赤鬼は剛の変わりように少し驚きながら答えた。
「ゴールって……。まぁ一応、石を積み上げて供養するための塔ができたら終わりだ。だがな、そんな事は俺たち赤鬼がさせないけどな!」
剛はその言葉を聞くや否や、河原の中心に駆け出した。
「お、お前なにをッ……?」
「みんな!聞いてくれ!」
剛は河原の中心で声を上げた。
だが、みんな一心不乱に石を積み上げていて誰も振り向かない。
「ダメダメ、そんなんじゃ。ココじゃ基本他人にはノータッチなんだよ」
赤鬼はニヤニヤしながら剛に言う。
だが剛はあきらめない。
「みんな――っ!現世でイジメられていた僕は、変わりたいんだ!!」
イジメという言葉に反応したのだろうか。河原の子供たちは虚ろな目で剛に注目し始めた。
「僕は死んで分かった。死んでも、イジメは続く。みんなもそう思っているんじゃないか??」
更に剛は声を張り上げて続ける。
「だから僕は、最後この地獄で変わりたい。だから、僕を助けてほしい。みんなの力を貸してくれ!!」
そう言うと剛の周りに子供たちがゆっくりとだがゾロゾロと集まってきた。
「お、お前ら…!こらっ!」
赤鬼が止めようとするが、人数が多く圧倒されている。
「それで、どうするのお兄ちゃん?」
剛に数人の小さな子供たちが聞いてきた。
「みんなで塔をつくろう。みんなで力を合わせるんだ」
そう言うと剛は場所を決め、そこに石を積み重ねるように言った。
たくさんの小さな手が、河原の小石をどんどん積み上げていく。
それはまるで、クリスマスツリーのように、優しいシルエットに積みあがっていった。
そして気が付くと、剛の身長ほど大きい石の塔が出来上がっていた。
「わぁ大きい!」
周りの子供達もその石の塔を見て嬉しそうに声をあげた。
「これでどうだ?一人で塔をつくるなんてルールも無いだろ?」
剛は赤鬼に言うと、赤鬼は観念するように手を広げた。
「仕方がねえな、そんな事できるなら死ぬ前にやっとけ!」
吐き捨てるように赤鬼はそう言った。
すると突然、賽の河原に光が差してきた。
まるでステージクリアといわんばかりの光だ。
だがその光を見ると、たくさんの大人の姿がぼんやりと映っている。
そして、どの大人も泣き疲れているのだ。
「ママ!パパ!」
どこかの子供が叫んだ。
するとその声を皮切りに、一斉に自分の親を呼ぶ声であふれかえった。
剛も美沙子の姿を探したが、どこにも無く少し落胆した。
ここに居る子供達はそれぞれの事情で死んでしまったのだろう。
その数だけ悲しんでいる親達が居るという事を剛は実感した。
だがここで後悔しても、もう遅いのだ。
赤鬼達はそんな子供達の姿を見つめていた。そして大きな声を出して言った。
「親より先に死ぬ罪ほど悲しいものはない。覚えとけよ!」
赤鬼たちは立ち去っていった。意外に優しい鬼だったのかもしれない、剛はそう思った。
河原には剛と子供達が残った。
さて、ここからどうしたものか。そう思っていた時だった。
「次は、三途の川ってところを渡るらしいよ」
周りの小さな子供達が教えてくれた。
遠くを見てみると大きな橋があり、老若男女が集っている。
「あれが三大イベントの二つめ、三途の川か」
剛はそう言うと歩きだした。
しばらく歩くといつの間にかまた道いっぱいに人が溢れており、先ほどの子供達とはバラバラになってしまった。
剛はまた一人で進みだした。
大勢の人がいるとは思えないくらいの無音の中に、橋を渡る人々の足音だけがする。
三途の川に着いた剛の印象はそうだった。
霧がかった空間に、先が見えないほどの大きな橋が河原の上にかかっている。
その橋の上には大勢の人々がみっしりと居るが、不思議に静かだ。
橋の前には赤鬼がウロウロしていて、何かをチェックしているようだ。
だが、賽の河原もクリアして強気になっている剛は構わず橋を渡ろうとする。
「ちょっと待て」
赤鬼が剛を睨んだ。
「……なんですか?」
「お前、橋、使えない」
「どういう意味……」
剛がそう言った瞬間、赤鬼はすごい力で剛を突き飛ばした。
地面にたたきつけられた剛。
「お前、悪いことした。だから、コッチ行け」
赤鬼が指さす先は、橋の下にある荒れ狂う川だった。
「あんな川を泳げっていうのか……?な、なぜなんだ?僕が何をしたっていうんだ?」
「それは、後でわかる。早く、行け」
無表情で圧をかける赤鬼。剛は観念して橋を離れ川のほうに行った。
近くで見ると、川とは思えないほど波が立っており、その中で人々が正に溺れていた。
「嘘だろ……、みんな溺れてるじゃないか。僕なんて泳げないのに」
呆然とする剛。だがふっと横を見ると浅瀬があり、そこを人々が渡っていた。
「なんだ、この浅瀬だったら僕でも渡れる」
剛はそこへ駆け寄る。
すると首根っこを誰かに掴まれた。バタバタする剛は後ろを振り返った。
そこには先ほどとは別の赤鬼が居た。そしてものすごい形相で剛に言い放つ。
「お前、金は?」
「へっ?お金……?」
「六文銭も持ってないのか?」
「ろくもんせん?」
剛は目をパチクリとする。
「あ?知らねえのか?棺の中に入れる金だ」
よく分からないが、無いものは無い。
すると赤鬼はあきれたように言った。
「六文銭も入れてもらえないなんて、お前、家族に好かれてねぇな」
剛の胸がチクっと痛んだ。
母親の美沙子は、今、どうしてるんだろうか。
僕が死んで、悲しんでないのだろうか。棺の中に六文銭とやらも入れてくれないなんて、やっぱり僕は愛されていなかったのだろうか。
ネガティブな感情が剛を包み始めた。
「ほらほら、早く行けよ。あの荒れ狂った川へ」
「僕、泳げない……」
「ああ?知っちゃこっちゃないよ!早く行け!」
地獄で変わりたいとまで言った先ほどの剛の姿はもう無く、すっかり意気消沈してしまった。
その時だった。
「あの……、六文銭、二枚あります」
赤鬼と剛が同時に振り返る。
そこには、ロングヘア―が可愛らしい女の子が立っていた。
「私、六文銭が二枚あるので、二人とも橋を通っていいですか?」