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第1話 死にたいと思っていたら、本当に死ぬことになってしまった中学生。そして、地獄へ堕ちて鬼と出会う!

毎日イジメられ、死にたいと思っていた剛。ひょんなきっかけで本当に死ぬことになってしまい地獄へ通じる道へ堕ちます。そしてそこで初めて鬼に出会う第1話です。ご意見、感想お待ちしております♪


 


 この現実を生きるのに、意味は無い。


 そう思ってきた。


 明日目が覚めたら、僕は全くの別人になっていて、


 本当の僕は、そこから始まる。


 そう思ってきた。


 そこでは僕は強くて、人気者で。

 


 ……でも、いつまで経っても本当の僕は現れてくれなかった。


 だから、本当の僕になるには死ぬしかない。


 そう思っていた。



 ――――僕が、地獄に堕ちるまでは。




 休み時間を告げる学校のチャイムが鳴った。


 このチャイムが遊馬 剛にとっては何より怖い悪魔のチャイムだ。


 「つーよーしーくーん」


 そう言いながら男子生徒がわらわらと剛の机を取り囲んでくる。


 中学校も二年に上がったころ、剛はイジメを受けるようになった。


 きっかけは特にない。ただ、剛は大人しく、可愛らしい顔で。ただそれだけだった。


 「ねえねえ剛くん、今日は何か無いの?この間の漫画、面白かったんだけど」


 俯きながら机に座っている剛に、取り囲んでいるうちの一人が話しかけてくる。


 実際、漫画を貸して返ってきた事はない。いわゆるカツアゲだ。


 「ない……」


 「あーっ?聞こえないよ、つーよーしーくんーっ?」


 剛は反射的に自分の手首にあるパワーストーンを制服の上からぐっと触った。そして勇気を出す。


 「ないよ……」


 剛は声を絞り出して答えた。


 その瞬間、相手の態度が急変した。


 「っっっざけんなよ、ツヨシ!おめぇ俺らの事舐めてんのかてめぇ!!」


 中学校二年とは思えないほどのドスの効いた声。クラス中が静まり返った。


 「まぁまぁ、落ち着いて。僕が話を聞くヨ」


 そう言ってゆっくりと近づいてきたのは、このクラスの実質的リーダーである渡辺だ。


 学級委員長も務め、担任からの信頼も厚い。

 

 すらっとした高身長に眼鏡が十四歳とは思えないほど大人っぽい。

 

 髪の毛はいつもオールバッグに整えられていて、皆に委員長と呼ばれている。


 「剛クン。僕らは君と仲良くしたいと思ってるんだヨ」


 「……」


 「仲良くするために、君からできる事はないのかナ?」


 剛は顔を真っ赤にして更に俯く。この委員長が出てきたら、もうお手上げだ。


 「漫画は、もう、無い。これしか……」


 そう言って剛は、震える手で千円札を差し出した。


 「そうそう、それでいいんだヨ、弱虫剛クン」


 委員長はにやけた顔でその千円札を抜き取る。


 「千円でも、毎日もらえばそこそこの額になるからネ」


 そう言いながら彼はポケットにお金を入れると、自分の席に戻った。


 それを合図に、剛の周りを取り囲んでいた生徒達も解散し、始業を知らせるチャイムが鳴った。


 そんな毎日が、剛の現実だった。



 

 剛も、イジメられた当初は少し抵抗していた。


 初めは効力があった。あの委員長が出てくるまでは――。


 剛がイジメられている事を一番に担任に訴えたのはクラスメイトだった。


 イジメられているという事実を受け止めることは辛く恥ずかしかったが、そんなクラスメイトの気持ちは嬉しかった。


 初めは真剣に聞いていた担任だが、委員長の度重なる策略により全てもみ消されたのである。


 父親が病院を経営し学校に多額の寄付をしていることもあり、委員長への扱いは特別だった。


 結果、大人は動いてくれなかった。


 剛の心は折れた。






 今日もトボトボと一人で帰宅する。学校からほど近いマンションの三階に剛の家はある。


 家へ帰ってまずやることは、リビングにあるテレビゲームの電源を入れること。


 何かに熱中している時だけは、現実を考えずに済んだ。


 でも、トイレに入っている時。お風呂に入っている時、少しでも時間があると考えてしまう。


 本当の僕は、今生きている僕ではなく、この今、この瞬間も、もう一人の僕が僕を見ていて、僕というスーツをペリぺリと脱いで脱皮したら、本当の僕が出てくるんじゃないか、と。


 本当の僕はもっと強くて、カッコよくて、イジメになんか遭ってなくて――。


 死んだら、本当の僕になれるのかな?


 剛はいつしか、自分の手首を見つめる時間が増えた。






 夜十時を過ぎた頃、母親が帰宅してきた。


 「剛、ごめんねー。今からご飯つくるからー」


 剛は後ろも振り返らずリビングのソファーに座ってゲームに熱中しているフリをしている。


 いつも夜遅い帰宅だ。


 他の家も母親はこんなに帰宅が遅いものなの?


 子供のためだったら早く帰ってくるものじゃないの?


 剛はそう思いつつも、夜遅いご飯にも慣れた。


 剛は約一年前に父親と死別し、母親である美沙子は現在シングルマザーだ。


 確かに、一人で子供を育てるのは大変とはよく聞くが。だが父親の保険もあり、また美沙子も正社員で大手企業に勤めているため、お金にはそこまで困っていないはずだ。


 ただ、土日祝日関係なく仕事に行っている。


 自分と居る時間より、仕事している時間の方が楽しいんじゃないの?


 剛は密かにそう思っていた。




 美沙子が手早く料理を作り、テーブルに置いた。剛はのそのそと食卓へ移動し、椅子に座る。そしていつもの夜ご飯が始まった。


 「今日はどうだった?学校」


 「どうって……、普通だよ、普通」


 母親の言葉に剛は素っ気なく答える。


 いつもの会話で終わると思ったその時、美沙子が箸をゆっくりと下ろした。


 「剛、お母さんの財布からお金抜いてる?」


 「……」


 「正直に答えなさい」


 「……」


 やはりバレたか――。剛はそう思った。


 初めは一週間に一度くらいの頻度だったが、奴らの要求はエスカレートしていき、最近はほぼ毎日お金を抜いていた。


 「ねえ、何に使ってるの?欲しいものがあればお母さんに――」


 「欲しいものなんて、ないよ!」


 「じゃあ、どうしてそんな事したの、剛!!」


 剛は下を向いたままだ。


 まさか、イジメられているなんて、恥ずかしくて言えない。


 「もしかして剛……イジメられてるの……?」


 「……!」


 「ねぇ、そうなの?イジメに遭ってるの?どうしてお母さんに言わないの?どうして相談してくれないの?剛が最近何も話してくれないから、お母さん――」


 「じゃあなんで毎日遅いんだよ!」


 美沙子の話を遮るように、剛は叫んだ。


 「僕の話を聞くつもりがあるなら、親だったら、早く帰ってくるだろ?母さんに話せる時間なんてこれっぽっちも無かったんだよ!」


 そう言ってテーブルを手で叩くと、剛は自分の部屋に駆け込み鍵を閉めた。


 リビングには呆然とした美沙子だけが取り残された。


 




 翌日、剛は重い瞼のままベッドから体を起こした。


 自分の目が、この世界の何も見たくないと言っていた。


 リビングに行くと朝食が用意されていた。美沙子は既に会社へ向かったようだ。


 剛は朝食にも手をつけずに学校に向かう準備をする。


 学校には吐き気がするほど行きたくなかったが、自分が行かないことで、負けたと思われる事が嫌だった。


 剛はお守りとなっているパワーストーンを手首に着けた。父親からもらった珍しい石が連なっていた。




 そしてようやく剛はいつも通り学校に行き、自分の席に座った。


 「つーよーしーくん」


 早速、剛をイジメようと男子生徒が席を取り囲むようにやって来る。


 そして剛へ向かって手のひらを差し出した。


 「今日の、お土産は?千円札でもいいよ?」


 剛は一瞬口ごもったが、昨日の美沙子との一件もあり、もうどうにでもなれと思っていた。


 「もう、できない」剛は言った。


 「え?ナニ?」


 相手は耳に手を当てるようにして聞いてくる。


 「だから、もう、お金は出せない」


 男子生徒は少し驚きの表情をしてから、クラス全体に聞こえるように大声を出した。


 「剛くんが、もうお金は出せないって~。なにそれ、初めてなんだけどぉ、そんな断りかたされたの。傷ついちゃうなぁ~」


 その言葉で五人くらいの男子生徒が更に剛を取り囲む。



 「どうしたのぉ?急にぃ?その反抗的なカンジ?」


 「……」


 「何も言えないって感じかなぁ?」


 「……」



 黙り込む剛に、とある男子生徒が剛の髪をぐわっと掴んだ。


 すごい力に剛は体ごと椅子から浮いた。


 「ふざけんじゃねぇよ剛、テメェ昼休み屋上へ来い、絶対にな」


 低い声でそう言った後、


 「じゃあねぇ、お昼食べずに頑張るから、後でねぇ~」


 取り巻き達は剛に向かって高笑いしながら手を振った。






 昼休みがきた。


 行かないという選択もあるのかもしれない。


 けれど行かない場合、僕はどこへ行けるのだろう?


 剛はそう思った。


 ここで逃げても、結局追いかけられて、自分はどこにも行けないんじゃないか。


 その時の剛はそう思った。だから屋上へ向かった。




 屋上へ行くと、先ほどは居なかった委員長もちゃっかり居て、全部で六、七人が剛を待ち構えていた。


 雲一つない穏やかな青空と、これから起こる事への恐怖心とのギャップを、剛は俯瞰するように見ていた。


 「やあ、剛クン。先ほどはみんなに失礼な態度をとってくれたようだネ」


 委員長がニヤニヤした顔で話し出した。そしてパチンと指を鳴らす。


 「さ、みんな。剛クンにお仕置きを、ネ」


 その言葉を合図に、取り巻きが一斉に剛を羽交い絞めにする。


 「あそこからの景色は絶景だヨ、剛クン」



 そう言って委員長が指さした先は、フェンスが無く、剥き出しになった屋上部分だった。


 「君のためにフェンスを壊しといたからネ」


 ずるずると引っ張られ、屋上の端に連れていかれる。


 眼下には校庭が直に広がり、眩暈がしそうな高さだ。校庭にいる生徒達も小さく見える。


 「んー、そこから宙づりがいいかナ?お漏らししちゃうもネ」


 剛は必死に抵抗するが、何人もに抑えられ身動きがとれない。


 あんなところから宙づりにされたら、もしかして落ちるかもしれない。


 落ちたら、きっと死ぬだろう。


 そう思った剛の脳裏には、母親・美沙子の顔を浮かんだ。


 悲しんでくれるのだろうか。


 剛を宙づりにするために、取り巻き達は剛の足を持とうとした。


 そうはいくかと足をばたつかせる剛。


 「クッ……、往生際が悪いですネ」


 そう言って委員長も手伝おうとする。


 ――その時だった。


 委員長が手伝ったことにより、取り巻き達の手が緩み、剛はずるっと落下しそうになる。


 剛は反射的に藁をも掴む思いで何かを掴んだ。


 その何かは、委員長の手だった。


 そして委員長の眼鏡の奥の凍り付いた目が、剛が最後に見た光景となった。


 二人はグラウンドにそのまま落下し、ものすごい力で叩きつけられた。


 周りからはキャーっという叫び声が上がった。




 二人は、そこから一ミリも動くことは無かった。





 剛が目覚めた時、周りには人がいっぱい居た。


 皆一様に、白っぽい作務衣のような同じ服を着ている。


 そして剛も、同じ服を着ていた。


 まず違和感を感じたのは、誰一人として剛を見ようとしないことだ。


 薄暗いグレ―色の空間の中、一心不乱に行列を進んでいる。


 

 果てしない一本道の中、すさまじい数の人々が虚ろな目で前に進んでいる。

 

 異様な光景に目を奪われていた時だった。

 

 「新入りだすか?」

 

 そう言って振り返った先の光景は信じがたいものだった。

 



 そこには、鬼が、居た。

 

 小さいけれど、角がある。青っぽい、鬼。

 

 「お……、鬼?」

 

 剛は思わずのけぞり、なんとかその場を離れようと地面に身体が擦れた。

 

 すると鬼は、持っているこん棒を肩にのせ、楽しそうに言った。

 


「地獄へようこそダス!」



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