非日常と不穏と罪と詰み
こんばんは!咲ヶ丘ゆづきですっ!
それでも君は僕を憶えていてくれますか?好きでいてくれますか?四部目です!遅くなってごめんなさい!
それではお楽しみください!
「つ、着いた……」
僕は膝に手を当て、肩で息をする。もしかしたら人生で一番走ったかも知れない。僕は元々体力がない。運動とか苦手だし、どちらかと言うとインドア派だ。
そんな僕は家での妹からのお説教とコンビニでの罵倒女のおかげで学校の登校がギリギリになってしまった。三十秒前……。マジで危なかった……。
僕の高校初風高校は全国で初、中学の単位、成績、内申点などが全て引き継がれる。さらにサバイバル校であり、単位が落ちると、初回のみは見逃されることが多いが、二回目からは退学である。その代わり、設備は完璧で学費はもちろん、購買、さらには自動販売機も無料である。そして卒業後もバックアップされており、就職の倍率が高い職業も実績を積んでおけば入れる可能性も高くなる。夢も叶えやすい高校である。
もちろん、鋭い目をした鬼のような形相の面接官と冷たい空気が漂った面接を受け、合格し、筆記試験では訳が分からないよ、と思いながら、なんとか合格し、無事入学したのだ。
中学からぼっちだった僕は勉強していたから入れたのだろう。でなきゃ絶対無理。アニメの魅力を三行で簡潔に答えろとか無理だろ。でもここの校長、分かってるね。話長いけど。アニメ最高。
……。背後から視線を感じ悪寒が走った。僕は悪くない……僕は悪くない……。
勉強をしないと単位が落ちる……。じゃあ勉強ばっかで恋愛とか部活とか青春できない、と思っているかも知れないが、そんなことはない。この学校は、勉強だけで単位が取れる訳ではないのだ。勉強ができる人は勉強。恋愛ができる人は恋愛、運動が得意な人は運動など。生徒達に合わせて単位が取れる。
だから、一つ苦手な人でも他で補えられれば学校にとどまることはできる。他にもコミュニケーションや、先生への言葉遣いなど
多種多様だ。僕はコミュ障なのでそこは皆無なので興味ない。勉強もあまりできないし、運動も苦手だし、恋愛なんて妹や罵倒女の態度を見ての通り。だから一度でも落とすとかなりやばい。
どうしてこの学校はこんな制度なのかと言うと
校長曰く、学校説明会で
「勉強だけでは社会はやってはいけない。恋愛、部活などでの仲間という存在、達成感、時の大切さ、疾走感など色々、まだ学校で学べる時に学んで社会に旅立ってほしい」と言っていたそうだ。
そんな学校に遅刻ギリギリだ。悪印象しかない。かなりやばいのだ。
校門をくぐり、玄関へ。少し古びていて伝統のある学校のように感じた。
廊下を歩き、自分のクラスを目指した。クラス開票は学校の公式ホームページで行われていたから、どんな人がクラスを共にするのかは分からない。ドキドキであり不安であり、期待もしてしまう。よく高校デビューとも言うから、僕にもできれば……と思っているのは内に秘めておこう。
ある教室で歩みを止めた。一のC、ここがこれから僕の通う教室。
高鳴る気持ちを抑え、僕は教室の扉を開けた。
「おはようございます、遅れてすみま、せ……ん?」
ダウンライトが設置されている教室に明かりは灯されておらず、クラス内を見ても誰もいなかった。やっぱり、少し遅かったのだろうか……。
その時突然体が揺れた。じ、地震?揺れてる……。建物自体が揺れてる!カレンダーが大きく横揺れしていた。
僕は咄嗟に近くにあった教卓に隠れた。人がギリギリ入れるくらいの隙間に体を縮こませる。揺れは少し大きい。慌てて隠れるほどでもないと思うが、念のためだ。
しばらくすると、揺れは収まった。スマホで情報を確認してみるが、どこにも載っていない。―――おかしいな……こういうのってすぐ出るはずなんだけど……。それに、今気づいたけど緊急地震速報も来ていない。
状況が読み込めず、混乱していた。色々とおかしい気がする。まぁ、先生とかにでも聞いてみよう。
古びた扉が開く音がした。誰かが会話しながら教室に入ってきたようだ。会話してると言うことは多分二人以上だろう。
よかった。初めてこの学校で人に会えた。状況を聞こうと腰を上げ立ち上がろうとしたのだが、教卓の下にいることをすっかり忘れていて、頭を盛大に打った。
「ってぇ……」
「ひぃ……!?だ、誰かいるの?もしかして男子? そんなわけないじゃんここ女子更衣室」
だし」
物音に驚いたのか、怯えた声が聞こえた。声的に女子だ。それにその女子一人で会話してるように聞こえる……。
「そうよね、今時、そんな奴いないわよね で、さっきの続きなんだけど――――」
さっき、女子更衣室って言ってなかったか?もしかして僕、今とってもまずい場所でタイミングにいるんじゃないのか……?
焦りと不安で押しつぶされそうな気持ちを抑え、今度は頭をぶつけないように立ち上がり声をかけた。
「ね、ねえ。君は地震大丈夫……だ……った……?」
僕の瞳に映ったのは着替え中の美少女の姿だった。
「え?」
「……え?」
女の子は一瞬状況が整理ができなかったのかフリーズしていた。その後、すぐに理解して学校中に響く金切り声を聞くのには時間はかからなかった。
「い、い、い……」
「ご、ごめ――――」
「いやぁあああああああああああああ―――――」
次の瞬間、ハサミや、手持ち鏡、ブラシ、さらには小型ナイフが飛んできた。
「ご、ごめん!じ、地震来て隠れていたら君が来て……」
「殺す!」
「へ?!」
女の子は下着姿のまま近付いてきた。もうエビ十字固めはやめてくれよ!
「安心しなさい、エビ固めはもうしないから」
え、なんで考えてること知ってんの!?
「フィニッシュ・ホールドしてあげるよ」
もっと酷くなった!?
いや、それダメな奴だから!人生フィニッシュしちゃうから!
女の子は近付いてくる。一歩一歩確実に……。死へのカウントダウンは始まって――――。
「なんてね?びっくりした?」
急に笑顔になる女の子。
同時にドアが開き教師が入ってきた。どうやら先程の声で駆けつけてきたようだ。
あ、終わった。絶対終わった。
今の状況を整理してみよう。
学校に遅刻ギリギリに到着→教室に入る女子更衣室→地震発生→隠れる→人が来て声かけようと思ったら→頭をぶつける→痛み治まり見てみたら下着姿の美少女と目が合っちゃった。恋に落ちた。――――な訳あるかぁあああああああ!!!
そして悲鳴の→抗議虚しく→先生到着。
「問題です。この場合悪いのは誰でしょう?一番、教室に入った僕。二番頭を打って出遅れた僕。三番美少女の下着姿を見た僕」
頭の中の天使が囁いてくる。
「おめえは悪くねぇさ、運が悪かっただけだ」
悪魔が優しくフォローしてくれる。でも状況的に現実的に、常識的に考えてどう考えても悪いのは―――――
僕じゃねええかあああああああ!!!
状況を把握しただろう先生はさらに増援を呼び、残った筋肉質でいかにも生徒指導のような先生は僕を羽交い締めにした。
「ちょ、ちょっと待って、待ってください!不可抗力なんです!わざとじゃないんです!」
「話は職員室特別監獄部屋で聞くから。カツ丼、食うか?」
それ、場所違ううううう!!
しかも監獄ってこの学校どうなってんだよ!
「ちなみに有料だ。この社会、タダで飯食っていけると思うな」
聞いてねえよ!それはそうなんだけど!
解こうと暴れると逆効果だと悟った僕は、大人しくすることにした。
「先生、一つ、彼にお話ししたいことがあります。いいですか?」
制服に着替えた女の子は、可愛かった。違う、そうじゃない。
僕を睨みつけ、今にも飛びかかりそうだった。
「どうぞ」
女の子は近付いてくる。一歩……一歩……確実に……。
女の子がすごく近い距離まで近づく。首でも絞められるのだろうか……あぁ……女の子とデートしたかったな……。ただ、僕は、幸せになりたかった、だけ、なんだ――――。
覚悟を決め、目を閉じる。
近づいた女の子のシャンプーの甘い香りと耳に不思議な違和感があった。
「ねえ、優くん。――――――」
耳に残った微かな感触と胸の鼓動は戦慄と恐怖に一瞬で変わった。
教室から出され、クラスの看板を見る。そこには先程の【一のC】の文字はなく女子更衣室と表記されていた。
絶望と希望を失った。
そして僕は職員室に連行された。
※※※※※
先生からの冷ややかな目と怒号、軽蔑を受けながら説教を受けたのは言うまでもない。
僕は、わざとではないこと、地震が起きたことを伝えると、
計画的な犯行だとか嘘をつくならもっとましな嘘をつけ、学校の恥だと言われた。
こうして、僕の人生で一度しかない高校生活初日は最悪のスタートとなった。
ここまで
【それでも君は僕を憶えていてくれますか?
好きでいてくれますか?】を
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