快感
強姦罪で捕まった男は、裁判で涙ながらに話した。
「あんなことするつもりは無かった。好きだったんだ。だが彼女はあっけなく俺を振るだけでなく、ゴミを見るような目で俺を睨んで、それから嘲笑った。俺はかっとなって彼女の腕をつかんだ。彼女が悲鳴をあげたので、俺は慌てて口を塞いだ。その後は、夢中で何も覚えていない。気がついたら……彼女は裸で、ぐったりと倒れてた」
男の告白に対して、裁判長は冷淡に告げた。
「君がレイプした彼女は、精神的苦痛から植物状態になったよ」
男は地に崩れ落ち、わんわん泣いた。
「うそだ、そんな、そんな。ああっ、俺は取り返しのつかないことをしてしまった。もうだめだ、なにもかも終わりだ。裁判長、頼む、俺を死刑にしてくれ。殺してくれ。殺してくれぇ」
裁判長は眉ひとつ動かさずに答えた。
「もちろん、然るべき罰を受けてもらう」
処刑場は、真っ白な部屋だった。ロープもギロチンも、何も無い。執行人とともに部屋に入った男は、これから自分はどのように殺されるのだろうと考えた。いきなり背後から刀で斬られるのだろうか。それとも部屋いっぱいに水が流れ込んできて溺れ死ぬのだろうか。あるいはこの部屋自体が巨大な電子レンジになっていて………。考えるほどに不安と恐怖が脳を埋め尽くした。全身の毛穴から汗が噴き出て、ひざが震える。
「それでは、処刑を始める」
執行人はそう言うと、部屋を出ていった。
ああ、ついに俺は死ぬのか。あんな女に手を出そうとしたばっかりに。短い人生だった。ちくしょう、生き残る方法は無いのか。ちくしょう、ちくしょう………。
だが、扉は再び開いた。さっき出ていった執行人が、担架を引きずって戻ってきた。誰かを乗せているようだが、執行人の背中に隠れて見えない。執行人は担架を回転させ、男に見えるようにした。その上に寝ている人間を見て、男は目を見開いた。俺を振った、あの女じゃないか。
女は半目を開いたまま、ぴくりとも動かない。まるで死んでいるようだった。
「この女を犯し、殺せ」
執行人が唐突に言った。
「は?」
男は思わず聞き返した。
「この女を犯し、殺せ。それがお前に科せられた刑だ」
執行人は無表情で繰り返した。
「何を言ってる……そんなこと、できるわけがないだろう」
「できない、と言うのか」
「当たり前だ!彼女は被害者なんだぞ。なぜ殺されなければならないんだ!」
男は語気を強めた。
「できないならば、お前を死刑とする」
「ああ……ああ、もちろん、最初からそのつもりだ。彼女には何の罪もないんだ。彼女に手出しは、させない」
「お前だけでなく、お前の妹も死刑とする」
「なに、妹だと」
「そうだ。お前の妹は今、ある罪を犯して捕まっている。本来なら軽い罰で済む程度の犯罪だが、お前がこちらに従わないのなら、妹も死刑とする」
「待ってくれ。それだけはやめてくれ。俺の大切な家族まで巻き込むなんて。頼む、頼むよ。家族は関係ないんだ…………」
「ならば、刑を受け入れろ」
泣き崩れる男に、執行人は淡々と言った。
「くそっ。なぜだ、なぜだ………。なぜ何の罪も無い女が犯され、殺されなければならないんだ……。ああ、頭のおかしい執行人のせいで、かわいそうに、かわいそうに……。家族を人質にとりやがって、卑怯者、卑怯者。やい、執行人。お前には人間の血が流れていないのか。人を処刑し過ぎた挙句、人の心を忘れたか。お前のせいで、哀れなこの女は死ぬのだ……」
男は激しく担架を軋ませながら、女の首を絞めた。女の表情は氷のように固まったまま変化しないが、男を睨んでいるようにも、嘲っているようにも見えた。
「ああっ、哀れな女。俺を振ったばっかりに。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな女。哀れな……ああああっ!」
絶頂した男の目の前に、鏡台が置かれた。男は鏡の中に、恍惚とした表情の自分を見た。
執行人はため息をついて、男に告げた。
「それは精巧に作られた人形だ。それから、お前に妹はいない。お前は死刑だ」
男の顔はみるみるうちに醜く歪んでいき、髪の毛が全て抜け落ちた。
男は鏡の前で奇声をあげながら息絶えた。






