第10話 犬猿の仲
続きまして、ラムゥの海の水抜きのニュースです。
こちらの異世界では毎年、世界の浄化を目的とした海の水抜きが行われるとのことで、一ヶ月前にも関わらず、現世界の人のみならず各異世界の人達がその儀式を一目見ようと、ゲートを開き続々と足を運んでいます。
このラムゥの海の水抜きの経済効果は高く……、
…………?
え? ちょっと待って下さい?
……はい、はい……。
えー、申し訳ありません。ただ今『ラムゥの海の水抜き』をお伝えしている途中ですが、ここで緊急速報が入った模様です。
かねてより破局寸前と目されていた某異世界、某国の犬『犬山犬子』さん(24)と、同じく某異世界、某国の猿『猿富士猿尾』さん(21)が一転、実は結婚されていたことが判明いたしました。
只今、結婚会見の準備中との事で……
準備が整った?
中継の……? はい。
では、中継の方を読んでみましょう。
中継、中継? 聞こえますか?
……………………………………………………
…………………………中継? 聞こえますか?
………………「はい! こちら中継です! えー、こちらではかねてより破局確実と言われていたふたり『犬山犬子』さんと『猿富士猿尾』さんが一転、まさかの電撃結婚との事で、こちらの異世界では衝撃が走り、会場では現在も慌ただしく会見の準備をされている模様です」
えー、破局寸前だった『犬山犬子』さんと『猿富士猿尾』さんが結婚にいたった理由は何でしょう?
「えー、それはですねー。全て会見でお話しするそうです!」
そうですか、ありがとうございます。
えーでは、予定を変更して短時間ではありますが『犬山犬子』さんと『猿富士猿尾』さんの結婚会見の様子をお伝えしたいと思います。
『犬山犬子』
「皆様、今日は私達の結婚会見にお立ち会い頂き、誠に有り難うございます。既に皆様もご存知の事と思いますが、私達『犬山犬子』と『猿富士猿尾』は、犬猿世界時間、しとしと月、半頃日を持って結婚致しました事をここにご報告します」
『もふもふ世界 兎国記者』
「あのー、すみません。少しいいですか?」
『猿富士猿尾』
「申し訳ございません。時間に限りがありますので、質問は一異世界ひとつとさせて下さい」
『もふもふ世界 兎国記者』
「……分かりました。えー、破局秒読みとまで言われていたおふたりが結婚に踏み切った理由は何だったんでしょうか?」
『犬山犬子』
「……その事ですが、私達はお付き合い当初からとても仲が良く、猿富士猿尾さんと喧嘩をしたこと等、一度もありません。理由は分かりませんが、おそらく何かの噂が一人歩きして大きくなったのではないでしょうか?」
『龍虎世界 緑龍国記者』
「……すみません。龍虎世界、緑龍国の記者ですが、おふたりがお付き合いされる時、周囲の反対は無かったのでしょうか?」
『猿富士猿尾』
「それは無かったですね。皆さん、とても暖かく応援してくれました。なので今回、なぜ破局寸前などという噂が出回ったのか、僕達もよく判りません」
『団栗世界 ころころ国記者』
「子供には、なんという名前をつけてあげる予定ですか?」
『犬山犬子』
『猿富士猿尾』
「そ、それは……もう既に……」
「そ、それは……もう既に……」
『団栗世界 ころころ国記者』
「そ、それはもしかして!?」
……………………………………………………
………………
…………あっと……、残念ですが、お時間が来てしまったようです。
『犬山犬子』さんと『猿富士猿尾』さん、とても幸せそうでしたね。
ご結婚、心より祝福いたします。
今回は急遽予定を変更し、大変短時間ではありましたが『犬山犬子』さんと『猿富士猿尾』さんの結婚会見の様子をお伝えしました。
異世界ニュースのお時間でした。
『ラムゥの海の水抜き』は、後日お伝えいたします……




