皇国の解放者 1話
日が、少しばかりか登ったころノーランガント皇国西部に位置するここウェストステンで、一人の青年が目を覚ました。
「お兄ちゃんー、朝だよ!起きてー」
青年のいる部屋の真下から可愛らしげな声が届いてくる。
窓からは日が差し込み顔を照らしている。青年は身体を起こし、ベットの上で太陽の日にあたり頭が完全に冴えるまでじっとしている。
「いつまで寝てるのー、早く起きないと遅れちゃうよ!今日は久しぶりにお父さんが帰ってくる大事な日なんだから!」
部屋の下から声とともにコツンコツンと何かで天井を叩いている。青年がゆっくりベットから足を下ろし少し重たく感じる身体をどうにか動かし部屋を出て階段を降りる。
1階に降りたところでキッチンの方からはスープのいい香りがただよってくる。匂いにつられ青年がキッチンへと足を運ぶと、明るいブラウンの髪を後ろでくくり、学校の制服の上からエプロンをかけた、少女が鼻歌を歌いながら朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう、ミツキ」
「あ、お兄ちゃんやっと起きてきた、早く用意してご飯食べないと学校間に合わないよ」
「わるい、朝は苦手なんだ。それにしても今日はやけに楽しそうだな」
「お兄ちゃん忘れちゃったの?今日お父さんが帰ってくるんだよ、お土産なに買ってきてくれるかなぁ」
青年の妹ミツキは朝食の準備の手を休めることなく、とても楽しそうに話している。父親が帰ってくるのがとても嬉しいのだろう。
「あぁ、今日オヤジが帰ってくるんだっけ。いつぶりだっけ?」
青年は食卓に並べられたパンに手を伸ばしミツキに問いかける。
「2年ぶりだよ、前はこーんなにおっきなクッキー持って帰って来てくれたんだよ。あのクッキーおいしかったなぁ」
とミツキは両手を広げクッキーの大きさを体で表して、その時のクッキーの味を思い出したのか、よだれが垂れている。
「あの時はまだミツキ13才だったからな、結局クッキーもほとんどミツキが食べちゃったし」
青年は微笑みながら妹の会話を楽しでいる。
二人が朝食を食べ終えかけたころ、リビングから音が聞こえてきた。
「あ、水晶通信が来てる。こんな時間から誰だろう」
ミツキは少し疑問に思いながら、リビングの方へ向かい、部屋の片隅に置かれた水晶の前に立つ。
「あ、お兄ちゃん、お父さんからだよ」
水晶通信の相手が父親だとわかったミツキは水晶に手を合わし、目をつむり何かをしている。
「よし、繋がった、お兄ちゃん通信繋がったよ、こっちおいでよー」
「今用意してるんだ、それに今日オヤジ帰ってくるんだろ」
ミツキが青年を呼ぶが青年に断られしまう。
「もぉお兄ちゃんたったら、恥ずかしがって…」
そうしてるうちに水晶の中に一人の男性が写っている、中年で髭が少し生えている。
「よぉ、ミツキ!久しぶりだな」
水晶から声が聞こえてきた、中年の男性は慌ただしそうにしなが、自分の娘に声をかける
「お父さん、久しぶり!どうしたのこんな朝早くから」
ミツキの顔がぱっと笑顔になり、通信相手である父親に返事をする。
「それがな、ミツキすまねぇんだか、今日帰れそうになくなっちまってな。明日は帰れそうなんだ、もうしばらく待ってくれるか?」
ミツキの父親が申し分けなさそうに、手を顔の前で合わせて話している。
それを聞いてミツキはさっきまでの笑顔とは反転し、顔をうつ向けている。
「そんなぁ、今日帰ってくるって言ったのに」
ミツキは下を向き肩を少し震わせながら落胆の声あげる。
「ほんとにすまねぇ、そのかわりにお土産いっぱい用意してあるからちょっとだけ待ってくれ」
「そうだよね、お父さんも仕事が大変なんだもんね、私大人になったんだよ、1日くらい平気だもん」
「ありがとう、ミツキ成長したな」
ミツキの顔に笑顔が戻り、水晶の中の父親を見ている。
「明日には絶対帰ってくるんだからね!」
ミツキは腕を組み水晶の中の父親に向かって胸をはる
「それと、ハルキは元気か?ハルキもすまねぇと伝えておいてくれ」
「お兄ちゃんは相変わらず朝が苦手てなんだぁ、今日全然起きてこなかったんだよ」
「そうか、変わってないなあいつも」
ミツキの父親は顔をほころばせる
「カンゲツ隊長早くして下さい!こっちはもうもたないです!」
水晶の中で、ミツキの父親カンゲツを呼ぶ声が聞こえる
「なんだ、おめーらもうちょい踏ん張れねぇのかよ。わりぃなミツキ仕事だ、明日には絶対帰るから安心してくれ」
プツン、カンゲツの言葉を最後に水晶通信が切れてしまった。ミツキはどこか不安気にその場に立ち、水晶をじっと見つめている。
「オヤジから通信来てたのか?」
ハルキは水晶の前に立つミツキに声をかける
「うん、お父さん今日帰って来れないんだって。でも、明日には帰って来れそうみたい」
ミツキはどことなく悲しそうに兄に伝える。
「そうか、オヤジが明日には帰って来るって言ってるんなら、絶対帰ってくるさ」
ハルキはミツキの気持ちを汲み取り励まし、ミツキの頭に手を置く。ハルキは父親のことを信頼しているのだろう。
「ありがとう、お兄ちゃん」
と振り返り兄のハルキに向かい笑顔を見せる。
「さ、お兄ちゃん学校遅れちゃうよ!用意しよ!」
「何言ってんだミツキ、俺はもう用意できてるぞ、ミツキの方こそ間に合ないぞ」
「な、お兄ちゃんずるいよー、私が通信してる間に!」
ミツキは頬膨らませ、慌てて自分の部屋に戻っていった。