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黄泉路と繋がるこのソラの下――

作者: toy_box

どうしてこんなことになってしまったんだろう。


こんなことになるのなら気まぐれで様子を見てみようなんて思わなければ良かった。

そんな事を思いついてしまった自分を呪ってしまう。



仲の良かった美希みきが今目の前にいる。

今美希は家の前に立っている。



何度か見たことのある可愛らしい服は、今は赤く染められていて可愛らしさの欠片も見つからない。

顔には返り血を浴び、虚ろな瞳はこちらを見ているようだった。




―怖い。




豹変した原因も分からず、ただただ目の前の美希を怖いと思った。

彼女の足下には転がった物、―――つよし君だ。



そんなとき、ヒタッと音がした。



ヒタッ、



それは足音だ。

裸足で歩く、美希の。

一歩づつ近づいてくる美希。



その姿が、怖くて怖くて私は後ずさってしまった。カツッ、


美希は私が後ずさったのを聴き逃さなかったのだろう。



「なんで、離れようとするの?ねぇ?なんで?」


「あっ、・・・えっ?」



美希は歩み寄ってくる。

私は後ずさったことを後悔しながらも、それでも決して近づきたくないと思う自分が悲しくなった。

それでも、そんなことは数瞬の話。



ヒタヒタッ、


カツカツッ、


少し美希の足音の間隔が狭くなる。



ヒタヒタッ、ヒタッ、


カツカツッ、カツッ、



自分の後ずさる速度も早くなってきた。

これ以上早くなったら、・・・・。


タッ、タッ・・・


カツッ、カッ!


駄目だ。

体が後ずさりの姿勢から、逃げる体勢になっていた。


タッタッ、タッタッ



もうムリっ!!


カッカツッ、カツッ!


そこからは早かった。

自分でも驚くぐらい。


だけど、どこにいけば良いのだろう。頭が真っ白で思いつかない。

後ろからは、自分の後を追ってくる足音が聞こえている。

両側をコンクリートの塀に囲まれた道を真っ直ぐに進む。


途中、幾つかの曲がり角があったがどれも逃してしまった。

真っ白な頭で考えを巡らせる。



―もしかして学校なら誰か居るし逃げ切れるかもしれない。



そうして、自分の場所と学校の場所を考えて道を考え付く。


「いける」


自分にそう言い聞かせる。追ってくる足音を聞きながらすぐそばの下り坂を見送ってから右に曲がる。

この先は――――、


長い階段!

目の前に迫った下りの階段。


一番目の踊場まで跳躍する。


「っ、・・・くっ!」


体勢を崩しながら着地をすると美希を振り返る。


――よし!まだ、いない!


確認すると、長い階段を下りきる。


あとは学校まで一直線!

もう一度振り返ると、美希はいない。


――振り切ったのだろうか?振り切ったのだったら、もう逃げる必要はない。

そう思いながらも、学校へ足を向けたときだった。



「案外早かったね」



――なんで?

学校へ続くはずの道。

私の目の前に美希がいた。



「びっくりしてるね。知らなかった?ここの階段途中から少し曲がってるって。だから少し前にあった下り坂のほうが降りるの早いんだよ?」



「え、・・・あっ・・・」


――そんなの知らない。

途端に、足に力が入らなくなってその場にへたれこんでしまう。


「まあ、当たり前だよね。燐子りんここっち通らないし」


――足が、動かない!

準備もしないで全力疾走してきた足は、がくがくと震えて力が伝わらない。


「ねえ?なんで逃げたの?逃げるから私追ってここまで来たけど、何で追ってきたんだろうね?」


美希が近づいてくる。


「私何してるんだろう?」


美希はもう私を見下ろすことができるほど近くに立っている。


――もう逃げれない。


足は動かないし、右も左もコンクリートの壁。

後ろは階段。

誰か気づいてくれないのだろうか?


「私、・・・何でこうなっちゃったんだろうね?」


見上げた美希の顔。

私へと水が落ちる。



――泣いている?



美希の瞳から溢れていく涙。

美希の涙が乾いた顔の血を濡らし、徐々に赤い雫となって私に落ちてくる。


赤い涙は、綺麗だった。

美希の向こうに見える青い蒼い空と対になっていて余計に綺麗に見えた。


こんなときにそんなことを考えるなんてのんきだと自分でも思った。

でもそれ以外に考えることはなかった。



――自分はもう死ぬんだろうな。



でも、最後に綺麗なもの見れたな。

何で泣いてるのかな?

何が原因なのかな?

聞きたいことはあった。

聞いてあげたかった。

それでも、過去には戻れない。



「そうだね、何でこんなことになっちゃったんだろうね?美希」



私も涙が溢れてきた。

しかし、その涙は零れることはないのだろう。

私の言葉を最後に美希は手に力をこめたのだから。




















「何してんだよ!!」


声がして美希は左に注意を向けた。

しかし、すぐに美希は蹴られて塀に叩き付けられる。


そのまま塀にもたれかかりながらゆっくりと倒れる。

頭を打って気を失ったのだろう。

美希が倒れたのを見た後、私は直前に声がしたほうを見る。


「大丈夫だったか?」


声の主は私の知っている人だった。

クラスメイトのゆう君だった。


先日、優しい幽霊に会ったと言葉にしていた男の子。


「なんで、ここに・・・いるの?」


助けてもらっておきながらタイミングが良すぎる状況に疑問を持った。


「まあ、それは後で話すよ」


彼はそういうと、電話で救急車を呼んだ。

そのすぐ後、私たち全員病院に送られた。





「申し訳ありませんが、彼のほうは、・・・」


医者の声が聞こえる。

毅君はやはり助からなかった。

美希はただ頭を打って気を失っているだけらしい。


このあと、美希は意識を取り戻したら警察に連れて行かれるらしい。

事の顛末を呆然として聞いているだけの私のそばには優君がいてくれた。


「大丈夫?僕らもそろそろ帰ろう。ここにいてもしょうがないよ」


「うん。そうだね。行こっか」


病院を出るともう日が沈んでいた。

暗くなった帰り道、もう一度優君に聞いてみた。


「なんで駆けつけられたの?」


「ああ、実は電話がかかってきたんだ。幽霊から」


携帯を取り出しながらさらりと言う優君。


「え?幽霊から?なんで、優君に?」


「さあ?俺も良く分からないよ」


優君がすべて事情を知っているわけでは無かった。

その答えが私に虚しく圧し掛かった。


ピリリリッ・・・!


そのとき私に見せていた優君の携帯電話が鳴った。


「はい、もしもし・・・、ああ君のおかげで助かったよ。ありがとう」


優君の会話から相手が幽霊だということが分かった。


『会話できたら楽しそうじゃない?』


自分で言っていたことが馬鹿らしく思えてきた。

言ってやりたいことがたくさんある。


「ねぇ、相手はさっき言ってた幽霊?」


私は彼の袖を引っ張って聞いてみる。


「ああ、そうだよ。話したい?」


「うん」


彼は少し会話すると私に携帯を貸してくれた。


「もしもし、・・・」


私は緊張していた。

声がうまく出ない。


『もしもし、なぁに?』


本当だ。でも人間じゃないの?


「あの、本当に幽霊なの?」


『まぁ、自分で言うのも嫌だけれど幽霊よ』


「証拠は?」


『証拠?何でそんなもの気にするのかな?まぁ、いいけれど。携帯電話の着信見てみたら?』


私は携帯電話を見てみる。


――通話中。


それしか書いてない。

普通じゃない。

番号が表示されていない。

携帯電話には相手の電話番号が表示されるはずだ。

それが表示されない。


「本当みたいね。聞きたいこと色々あるんだけど?いい?」


『ええ、私が答えれるものなら。何が聞きたいの?』


あっさりと了承してくれた。


「それじゃ、なんであなたは彼に電話して私を助けてくれたの?どうしてわかったの?」


『そう、あなたが巻き込まれた人なのね・・・』


「ねえ、答えて!」


『悪いけれど、別にあなたを助けたつもりはないわ』


「えっ、・・・」


『私は幽霊よ?何であなたを助けるの?理由が見つからないわ』


「助けてくれたんじゃないの?」


『私はこの土地に憑いている自縛霊なの。あなたの守護霊じゃないからあなたを守る義務もないわ。私はただこの土地で死人が出て欲しくなかっただけ』


「この土地でって、・・・それじゃあ美希の時はなんで助けなかったの!助けてたら、こんなことにはならなかったのに!」


『こんなことに、か・・・。あの時は私の憑いている土地の範囲内ではなかったからわからないわ。それに言ったわよね?守護霊じゃないから助ける義務はないって。私は自縛霊だから自分の領域で起こりうるだろう事はぼんやりとだけど分かるわ。それに私が彼に連絡したのはこの土地で死人が出て欲しくないという自分のこの土地に対する意思があって、なおかつ彼とは一度会ってるからだったの』


「そんな、・・・」


『ごめんなさいね。私は何もできないの。あとは何かある?』


私は考えるのをやめていた。

私への答えは彼女が話してくれたし、もう聞くべきこともない。

ただあとは自分の中で混乱している心をゆっくりと整頓してあげることぐらい。


「わかったわ。ありがとう」


『いいえ、いいわよ』


最後に一言だけ交わすと携帯電話を優君に返した。


「もういいのか?」


「うん。大丈夫。ありがとう」


「変わったんだけど・・・あぁ、分かったありがとう。それじゃ」


優君はすぐに電話を切った。

色々と考えることが有りそうだった。


「なんか難しいこと考えているみたいだけど、考えすぎも良くないと思うよ。とりあえずは、燐子が助かって良かったって事でいいじゃないか。あの二人のことは仕方が無いとしか言えないし。」


「うん、そうだね。ありがと」


そうは言ったものの、やっぱり気にはなるのだ。

あんなに毅君を好きだと言っていたあの子が変わってしまった理由を。

それでも、考えているだけでは答えが出ないことも分かっていた。

美希に聞いてみないと分からない。


私は美希と話すことができるまで――

それはすぐかもしれないし、もっと先のことかも知れない。

そのときまで私はずっと待っていよう。


あの子と次に会うその時まで――

拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

ご指導、ご感想お待ちしております。


ここまで読んでいただいたあなたに最大級の感謝を送ります。


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