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王城


 瞼の裏に一瞬だけ強い光を感じ、意識が覚醒した。まだ寝ていたい気持ちをぐっと堪えて寝床から出て、元の世界で言うところのリビングに向かう。


「あら?ドラーク、おはよう、よく寝てたわね~」

「おはよう、母さん」

「朝ごはん出来てるわよ、早く食べちゃって~」

「うん……わかった」


 俺の『こっち』の世界での母親、ラナリア・サヴァル・ホイヘンスさん。リムと同じ、長く綺麗な金髪に緑の瞳を持った美女。

 五歳児の体でエフェソスに強制的に転生された訳だが、初めは慣れなかった。

 神様が「良い旅を」と言った瞬間に意識を失い、目を覚ますと見知らぬ部屋に、見知らぬ美少女と美女と爽やかなイケメン……。全員金髪碧眼だし……。あの時は緊張した、というより普通に怖かった。

 リムの父親のシェルさんが優しく話しかけてくれたため、警戒心は薄れた。聞かれたことには答えられることだけ答えた。

 シェルさんは俺の事を捨て子だと思い込んだのか、『うちの養子として一緒に暮らさないか?』と、提案してくれた。

 そうして、このホイヘンス家で第二の人生が始まった。

 後々、聞いたのだがどうやら俺は、ホイヘンス家の敷地内にある庭の一角で小刻みにふるえていたらしい。正直、全く覚えていない。


「ドク遅いわよっ!お母さんが『ドラークが起きてくるまで食べちゃいけません』って言うから待ってたけど、ご飯冷めちゃったじゃない!!」

「ごめん、リム、ベットが俺を離さなかったんだ」

「絶対ウソっ!これだからドクは……今日はお父さんのヒョーショーシキでしょ!」

「まあまあ、早く食べちゃいなさい。本当にスープ冷めちゃってるわよ?」


 リムは「しまったー」と言う顔でシャラ芋のスープと少し硬めのパンを頬張る。その姿に笑みがこぼれつつも急いで朝食を口に運ぶ。シャラ芋は、地球でいうじゃがいもだ。

 ……う、うまい。舌触りが驚くほど滑らかで、じゃがいも、否シャラ芋特有のパサパサするあの感じがない。ちなみにシャラキウスさんが見つけた事からその名前が着いたらしい。

 それにしても、ここに来てからずっと感じている事なのだがエフェソスの料理は基本的に美味しい。

 写真に写っているときは美味しそう感じるのに、いざ食べてみると「なんだかなぁ~」となるあの感じにまだ出会ったことがない。

 異世界で地球の料理出したら大騒ぎになった、とかそういうのは無さそうだ。塩や胡椒などの調味料もそれほど高価ではないようだし……。


「ん!お母さん、ごちそうさま!!」

「……ごちそうさまでした」

「は~い、二人ともこれに着替えて来なさ~い」


 そう言って渡されたのは式典などで着られる正装または礼装を渡される。個人的にはこういった服装は堅苦しくて苦手なのだが父の表彰式なので、仕方がない。

 嫌々ながらも、慣れた手つきでシャツの袖に腕を通して、その上から黒を基調とした背広……というより制服のブレザーに似た上着を羽織る。

 リムは、横に俺がいるのにも関わらず着ていた服を脱ぎ、母に子供用のドレス(売ったら半年は普通に暮らしていけるほどの価値はあると思う)に着替えるのを手伝ってもらっている。

 『9歳にもなってまだ……』とは思うが、本人曰く『こうやって、お母さんにやってもらえるのも、残り数えるくらいしか出来ないでしょ?だったら、もう少しだけやってもらいたい』とのことだ。

 もう少しおしとやかだと完璧なんだがなぁ……。

 …………話は変わるが、俺がこちらの世界にきて早4年。神様に言われた「8歳になるまで、会うことが出来ないよ」と言う言葉。あれ、言い間違えていないか?

 【ステータス】とやらは来年まで使えないし、他のみんなとはまだ一度もあったことは無い。そもそも、外出すること自体少なく、外出先も貴族専用の雑貨屋や百貨店だけだ。そして、個性(スキル)で唯一、使えることが確認できたのは【暗視】だけだ。夜は月の灯りだけで、昼間となんら変わらず動ける。


 「ドラーク、支度できたの~?」


 母の急かすような声が聞こえて来た。『今、行く~!』と返答し、急いで玄関に向かう。

 最近、考え事をしたりボーっとする時間が増えて来たように感じる。

 玄関に到着すると、扉が全開になっており、庭に馬車が停めてあった。どうせ、やったのはリム辺りだろう。

 非力な9歳の肉体で自身の何倍もの大きさの扉を閉めようとする……し、閉まらない。


「坊っちゃん。後は私がやりますゆえ、馬車にお乗りください」

「あっ、ありがとうございます」


 執事のセバスさんに、お礼を言い庭に止まっている馬車に乗り込む。中に入ると長い金髪を後ろで束ねたリムが、『おそーい』と言う顔をしているが……いや、お前のせいだからな?


「それでは、出発いたします」

「馬車に乗るの久しぶりだね!」

「うん……でも、気持ち悪くなるだけだろ?」

「え~、窓開けると風が入って来て気持ちいいじゃん」


 俺も、日本にいた頃は馬車に乗って見たいと思っていた。転生してすぐの頃に母親の表彰式があった。

 その時に馬車に乗り、今日と同じように馬車に乗った。屋敷を出て、大通りを走り始めた直後キラキラを、出してしまった。

 不幸中の幸いというべきか、外に向かってスプラッシュした為、見るからに高級そうな絨毯を汚さずにすんだ。ただ、リムには笑われたが……。


「やっぱり、馬車は最高だねっ!」

「そ、そうか?あ~やばい、気持ち悪くなって来た……」


 あ~段々と頭がグルグルと回り、酔いが回って来た。リムが何か話しかけて来ているが一々返答していると本当に戻しそうなので無視をしておく。









ーーーーーーーーー半日後


「うっ、う……やばい、出ちゃう、出ちゃう、でちゃ」

「ドク、うるさい!!私まで気持ち悪くなってくるじゃない!」

「二人とも~着いたわよ~」


 やっと、王城についたようだ。

 かなり大きい方らしいホイヘンス家の門より遥かに大きい王城の門を潜り抜ける。もし、ここに敵が攻めて来たら肩を竦めて帰って行くだろうな~なんて事を考えながら……。

 門を潜り抜けると全方位、堀で囲まれている純白の王城が姿を現した。ここで馬車が歩みを止める。ここからは歩きだ。

 何人乗っても壊れそうにない橋を渡りながら、開放感を噛み締めると同時に外の空気を胸いっぱいに吸い込む。

 とにかく気持ち悪い。何か良くないものが首の付け根まで来ている。後で〈解酔〉の治癒(ヒール)(ポーション)貰おう……。良くないものと悪戦苦闘しながら、リムや母さんのあとをついて行く。


「これはこれは、副団長殿……お会い出来て光栄でございます。危険物は携帯しておりませんよね?」

「はい。リムと特にドラークは持ってないわよね?」

「私は持っていないけど……」

「勿論持ってないです」


 母とリムにかなり真剣な顔で聞かれた。多分だが、俺が危ない奴みたいな扱いをされるようになったのは、一年前に城下町を歩いていた時のこと。

 暇だったので街にある骨董品店に立ち寄った。中には、店主のおじちゃんが世界中から集めたという武器やら絵画やらが置かれてあった。

 もしかしたらと思い、店内を隈なく探してみると予想は的中したようで、日本ではよくラノベやアニメで見た『日本刀』が特売の箱に乱雑に置かれているのを発見した。

 日本人の血とも言うべきか興奮してしまい、つい衝動買いしてしまった。10歳にも満たない子供が刃物を買えるところが異世界だな~、と実感した。

 日本刀を出したり入れたりしながら、屋敷に戻るとまず執事のセバスに出会ったと同時に目を丸くされ『坊っちゃん……何処でそのようなものを……』と言われた。次に母親と出会い『悩みがあるなら聞くわよ?』と言われ。リムには『お父さん、お母さん、今までありがとう……』と言われる始末。

 いや、確かに屋敷内で振り回していたことは悪いと思うが、ネチネチ言われ過ぎな様にも思える。


「コホンッ、一応ドラークは検査して下さい」

「えっ?マジ……母さん?」

「持ってないなら問題ないでしょ?」

「えっ、そ、そうだけど……」

「では、よろしいでしょうか?」


番兵の人が恐る恐るこちらに近づいてくる。や、やめろぉ~……。


「やっぱり、有ったわね……これは、爆発ポーションじゃない!?なんでこんな物!?」

「ふっ、これはただの、爆発ポーションじゃないです。水に触れると爆発するという大変珍しいものでして……」

「何だその不思議なポーションは!?」

「こ、これは一昨年お会いしたルミアナ王女との約束でして……次にお会いする時には何か珍しい物を持参すると……」

「もし、そうだとしても爆発物は王城に持ち込めませんよ……」

「と、と、ということはま、ま、まさか…………」

「没収ですね」

「ーーーーーーーーーーーーーー!!」


俺の奇声と絶叫が雲一つない青空に吸い込まれて行った。

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