夢を売るマッチ売り
冬童話2018
何とか間に合いました…えー…色々はっちゃけ過ぎた感ありますがどうぞお楽しみくださいませ
筆者的にはど真ん中ストレート投げたつもりです
いつものようにマッチを売りに町に出向く。白い雪の降る澄んだ空を見ていて、ふと違和感が浮かんだ。
あれ? 空って、こんなに綺麗だったっけ? それがきっかけだった。
「異世界転生してるぅ~~~~~~~!!!」
orzになりながらシャウトしてしまう。ちゅめたい。
「大丈夫かな? お嬢さん」
優しげな紳士(変態ではない)が私に声を掛けてくれる。クハッ! この優しさ、現代日本の男どもにも分けていただきたい。
うん。よし。現実逃避は止めよう。私は何だ……と、状況を改めて確認する。
マッチ売りの少女だ。うん……詰んだわ~何でこのタイミングなの。これマッチ灯して最後死ぬ場面じゃないの。えぇ? もっと前からしてくれればさ。知識チートとか出来たんだよ。多分。
くよくよしても仕方ない。どうする。マッチ。マッチ要りませんか。要らねえよ!(現代人並みの感想)。ライター買えライター。無いか……大体マッチって何に使えばいいの? どういう使い方するの。ライターと違うセールスポイントって言えば、そうだなー、火点けたのそのままポイって放り投げられるとこ? BBQで火点ける時とかに使ったりするかなー知らんけど。
そもそもさーマッチなんてアレじゃない。昔のドラマとかでも浮気発覚の小道具くらいにしか使われないじゃない。お姉ちゃんのよくいるお店とかで。背広からぽろっと出たりしちゃって。だから貰わない方がいいんじゃないの? って思うよ。うん。そんな、どこから買ってきたか分からないマッチなんて買って家庭に余計な火種を持ちこんじゃあいけないよ。マッチだけにって? うるせえよ!
あーこういう時はアレだ。ステータスオープン! って叫べばどうにでもなるってな○うで言ってた。なるのか? とりあえず……ステータスオープン!
てキタァアアアアアア!! よし、ステータスは確認できた。
マッチ売りの少女
レベル3
クラス:マッチ売りの少女
ATK:30
DEF:22
DEX:33
MAT:11
REG:15
所持スキル
商人スキル レベル2:一般キャラに対して売買を持ちかけるスキル。レベル2の場合、雇われ店員としても半人前なレベル。
一夜の幻火 レベルEX:マッチ売りの少女の逸話を体現した特殊スキル。マッチを使用することによりマッチ売りの少女が見た束の間の幻影をこの世界に映し出すことが出来る。ただし『マッチ売りの少女』の物語を知らない場合、このスキルは無効化される。
おっとぉ、何だこの胡散臭いの。ちょっと怖いんだけど。
まあでも使ってみようかしら。あ、でもこれ売りものなのよね勝手に使って大丈夫かしら。あ、でもこのままじゃどうせ死ぬしいっか……この割り切り自体がアレだけど。
というわけで、カシュ! マッチをひと擦り~と。
「……何も起こらない?」
ゆらゆら揺らめくマッチの火、その火をじぃっと見つめる。
えぇ……ここから一発逆転できる何かがあると期待したのに。
(あ~お腹すいた。コンビニで肉まん食べたい。あんまん……ピザまんカレーまん……)
「ん?」
マッチの火をじっと見ていると、その中に何かが浮かび上がってくるのが見えた。こ、これは……!
「肉まん!」
あんまん! カレーまん!
「あちちちちち!」
思わず手を伸ばしてしまった。あ、消えた。ち、脆弱な炎め……。
それからいろいろ試してみて、分かった。このマッチの火。その揺らめきは私の考えているものを映し出す。
七面鳥。クリスマスツリー。ケーキ。ナイトパレード。
一通り楽しんでみて……思いついた。あれ? これイケんじゃね?
※※※
「さあさあ皆さん! よってらっしゃい見てらっしゃい!」
パンパン手を叩いて、人目の多い広場へと場所を移し、マッチ売りの少女はいつもより大いに張り切っております。
「今日ご紹介するのはこちら! デデ~ン! ま~ほ~う~のマッチ~。おっとぉそこの皆さまがた、マッチなんてこの季節にわざわざ買ったりしねえよってお思い? ところがぎっちょん、このマッチ。ただのマッチじゃないんですねぇこれが」
※寒さのせいで半分ヤケになっています。
「はい、こうしてマッチを擦って火を灯すとですね。はいじっくり見ててくださいねぇ……何かが浮かんできますよぉ? な~にっかな~な~にっかな~?」
「あ! わかった! しちめんちょうだ!」
目の前に立ってる親子連れ。その男の子が元気に答える。
「正解! 良く分かったねェ偉いねェそんな君には特別に一足先にこの魔法のマッチをプレゼントだ」
「やったー!」
すみません、とそのお母さんがマッチの代金をひっそりと渡してくれる。
「おおっと、まさかとは思いますがこのマッチが七面鳥を映すだけのチャチなマッチだと思っちゃあいませんか。それじゃあ魔法のマッチなんて名乗れませんや。魔法のマッチの真髄はここから!」
マッチを四本、指の間に挟んで一気に擦る。よい子はマネしないでね。
そしてそのままそれを……投げる。
「わぁ……」
広場から感嘆が漏れる。
映し出されるは冬の空には似合わない大輪の花火。
この街のどの家屋よりも高いクリスマスツリー。
この世界にはない夢の国のナイトパレード。
そしてフライドチキン……で有名なカー○ルおじさん。
「ぁ……」
残念そうな声が漏れ、さらにマッチを投下。
私のいた世界の楽しいモノを、精一杯映し出した。
「さあさあ皆さん。この魔法のマッチが何と――」
当社比2.5倍くらいのぼったくり価格である。
まあ私以外の人間が使っても何の変哲もないマッチなんだけどね。売ったもん勝ち!
げへへ、溜まったお金でチキンやらケーキやらシャンパンやらを買い込んで、私は家に帰った。
※※※
「あ~ん? 帰って来たのか。酒は……」
「はい。お父さん」
お望み通りにお酒、シャンパンを預ける。お父さんはあんぐりと私がパーティの準備を始めるのを眺めている。
「イェーイ!」
マッチを一擦り。それで、ここには大きなクリスマスツリーが出来上がり。ただの幻影だけどね。
あれ? 今日クリスマスだっけ? まあどうでもいいや。
「お父さん。パーティしよ。お酒だって買ってきたんだから。あ、でも飲み過ぎないようにしなきゃダメだよ」
いつまでも固まってるお父さんから瓶を取り上げて、詮を開けてグラスに注ぐ。
「……甘い」
あ、これ……シャンメリーだ!
「たく、酔いも冷めちまったよ……」
私とお父さんはそのまま口数も少なく、チキンとケーキを食べた。
※※※
翌日の朝。私の寝つきは悪かった。心臓バクバク。そりゃあそうだ。昨日、詐欺でマッチを高値で売りつけて、そのお金をパーティ三昧で使い果たしたとくればそれはもう。
「ごめんください」
だから、こうして朝から私を尋ねてくる人間がいるというのは仕方のないことだ。
「え、N○Kの方ですか! あいにく家にテレビはありませんよ!」
「え、えぬ……?」
誤魔化しきれないか……あ、いや本当に家にテレビとかないんだけど。
「やあ、こんにちは」
訪れたのは警察官……ではなく、背広を着た恰幅のいい紳士だった。ちょっとカー○ルおじさんに似てる。
「初めまして。わたくし、マッチの流通を取り仕切っている商業ギルドの長、カーネルと申します」
カーネルおじさんだああああああ。
「いや驚きましたね。この地区でのマッチの供給は行き詰っていたのですが……」
「ご、ごめんなさいいいいいいいいいい!!!!」
土下座である。キングオブ謝罪。これをさせた方が何か悪い気になるという反則技である。
でも私はもう逃げる気はないわけで、これは掛け値なしのただのキングオブ謝罪であることを留意していただきたい……。いや、情状酌量とかその辺は……ね? 忖度してください(流行語)。
「ハッハッハ!」
カーネルおじさんは私の告白を聞いて、髭を撫でながら大仰に笑った。
「いや、なるほどなるほど……道理で」
「あの、すいません。お金は、その……もう無いんですけど。でもその」
「何を謝っておられるのですかな?」
え?
「騙されたと感じたのは……いないわけでもありませんが、このマッチになんの仕掛けもないことなど、そんなもの、手に取れば大多数の人間は初めから分かっています」
「え? じゃあ、何でみんなマッチを……」
「それでも財布のひもを緩めたのは……そうですね。夢を買ったのです」
「夢……」
「ええ。あなたが昨日、人々に見せた夢の価値はそれこそマッチ二、三箱くらいでは足りないくらいでしょう。寧ろ礼を言いたい。あなたのおかげで、この辺りでマッチを買い求めるお客が後を絶たなくてね。嬉しい悲鳴というやつです。あなたと同じように、マッチを売りに出る少女たちは、昨夜、きっと救われたことでしょう」
カーネルおじさんはどっさりと籠いっぱいのマッチを置く。
「ご祝儀です。これはそのまま差し上げますので、これを売り払った分のお金はそのままあなたの取り分にしていただいて結構」
「カーネルおじさん……どうせならお金の方がよかったなー」
「ハッハッハッハ!」
思わず出た汚い呟きにも、カーネルおじさんは笑った。
けどお金は出さなかった。ちゃっかりしてる。
※※※
「はいマッチー、マッチはいらんかえーマッチ一本火事の元……あ、しまったこれじゃ売れない」
今日も私はマッチ売りの少女。マッチは飛ぶように……とはいかなくても、結構手に取ってくれる人はいた。
けど、あの夜の奇跡。アレはきっと軽はずみにするべきじゃないんだろうって、封印してる。次にやるのは、来年の今頃……。憧れて、忘れそうになるその間。きっとそのくらいでいい。
それと、私はもう一つ、やるようになったことがある。
一夜の幻火 レベルEX:マッチ売りの少女の逸話を体現した特殊スキル。マッチを使用することによりマッチ売りの少女が見た束の間の幻影をこの世界に映し出すことが出来る。ただし『マッチ売りの少女』の物語を知らない場合、このスキルは無効化される。
この世界に私同じような境遇の人間がいるのかは分からない。私は前世の記憶を思い出したから何とかなったわけだけど、『マッチ売りの少女』を知らずに、人知れず命を落としてしまう女の子がいるかもしれない。
だから、私は『マッチ売りの少女』の物語を広める。いつか救われて欲しい。その想いがきっと、世界を越えて、奇跡を起こすはずだから。
「はいというわけで『マッチ売りの少女』はじまりはじまり~」
はいカーネルおじさんごめんなさい
この期間が終わる前に…もう一個くらい投稿するんだ(フラグ)