戦いは数だよアニキ と言っていた人は死んじゃいましたね。
アメリカ大陸で食糧確保し、宗教改革で国民意識が芽生え、ヨーロッパを対等な国として認められるようになりました。
ヨーロッパも富を追求するレースに参加し始めました。
特に喜望峰周りの新しい航路やアメリカの収奪/輸送のため、造船技術はに大いに上がりました。
最も他国と比べるとまだまだですが。
例えばコロンブスが使用したサンタマリア号はこんな感じ。
全長18mのキャラック船という帆船。
19tくらい?
ちいさなちいさな船です。
ちなみに世間に展示してある観光地や図鑑、絵画の「サンタマリア号」は当時の倍の大きさが多いです。
なぜかはよくわかりません。
見栄張った?
小さすぎると「新大陸発見!」の感動シーンがみずぼらしくなる?
なんにせよびっくりするくらい小舟でよくアメリカ大陸を渡ったものだと思います。
では当時の他国の船はどんな案配だったでしょう?
多分、中国船が一番進んでいます。
北宋時代に高麗へ派遣する使節用として造られた帆船は全長約110メートル積載量1100トン以上。
ヨーロッパではジャンク船と呼ばれた商業船は積載量275トン程度の大船、600~900トン程度の巨大船。
太平洋を遊弋した船は2000tクラスとか。
圧倒的です。
さすが有史以前の古代から大河や沿岸で船舶を自家薬籠中の物とし、さらにモンゴルにもまれ、貿易に積極的気に手を出し、羅針盤を発明し、とにかく技術も歴史も経験値も重みが違います。
ここまで来ると他国にはチート過ぎる立場。
インド洋を庭にしていたもう一方の雄はアラブ。
「ドーニー」「ダウ」という船がインド洋に無数にあったそうです。
量産型で安普請だったとも言われます。
全長15mから20m程度。
ただ、主要航路のペルシア湾~中国は全長30m以上、400人から500人乗り大型船だったそうな。
こちらの方は数がすごい。
そもそもイスラムかどうかもわかりません。
アフリカ製、インド製、インドネシア製、ロシアやタタール、ベネティアまで、子分も含めて生産性の高い船をたくさん作ってます。
このころになると、自分たちは動かす側というより投資側にまわっていますが。
北海でブイブイ言わせていたバイキングはこんな感じ
ロングシップと呼ばれる深い竜骨と取り外しのできる横帆が特徴。
最大122トンまで運ぶことができる中型船。全体の排水量は50トン。
他国に比べて小型なのは喫水線を浅く、快速にし、かつ帆と櫂を共用する万能船にしたから。
戦闘、貿易に大活躍してます。
とにかくオールマイティ。
喫水の浅い河川も渡り、大海の荒波もものともせず、帆走も高速、小回りの必要な戦闘では櫂で自由自在に動き、時には輸送、時には冒険、戦闘も含めて何でもござれの万能船。
イギリスにとっては恐怖の代名詞でしたが。
ちなみに日本は安宅船と呼ばれるモノコックで竜骨がないタイプ。
世界では珍しい。
幅13mくらい、長さ約24mくらい、30tくらい。
非常にやすく簡単に作れる割に大型船、
凌波性も良好。
それなり頑丈。
ただし戦闘には脆弱。
甲板がない一階建てだし。
まあ沿岸海軍で陸軍国ですし。
ただ朝鮮半島との戦闘でそれなりうまくやっていましたね。
弓矢や火砲をのせればそれなりこなせました。
毛利水軍とか鉄板張って鉄甲船とか。
まあ日本にとっては海は輸送のためのハイウェイ。
家康時代は竜骨がある120tクラスは作れるようになっていました。
ヨーロッパに比べて他国はどこも優れていました。
いろいろ特徴あって面白いし。
まあ仕方ない。
ヨーロッパにとって海は今まで障害物でしたからね。
ぽっと出でいきなり強いは無理です仕方ないです。
しかし、レースを始めるには非常によいタイミングでした。
まず、一番後発だけに様々な国の様々な技術を取り入れることになりました。
イスラムの三角帆の技術、中国船から多層構造、ヴァイキング船から高速ロングシップ技術、日本のモノコック構造の板の貼り合わせ。
見事に彼らの技術を継ぎ合わせて、良いとこ取りの優秀な船をつくりはじめます。
もう一つ、
イスラムでも中国でも似たようなことが起きますが、大国が実行側から投資側に回ります。
ヴェネティア、クリミア、インド、アフリカ、ベトナム、日本、彼らの子分どもが儲ける側に回り、中国イスラムは「がんばれよー」の役割にシフトしていきます。
造船所も周辺諸国に移ります。
大国は財テクにうつつを抜かし、その力を造船技術に向けなくなります。
ヨーロッパにとっては、ヴェネティアやスペイン、オランダで造船技術が集まるのは誠に良い機会でした。
かつ、戦闘の転換期に当たっていたという部分もあります。
中世の海戦はローマ時代とあんま変わらず。衝角突撃、矢、横付けして白兵戦が主要な武器でした。
なので必要な技術は小回り。
船をぶつけるのも、近づいて矢を当てるのも、横付けして斬り込みやるのも、必要なのは機動性です。
しかし、櫂を握る役が高いわ容積とるわ、そして帆走はどんどん技術が上がって高速になるのに、櫂を握った途端に速度が激減するわ。
逃げるための帆走の方が速いとか、ローマ時代から兆候はありましたが、新型の帆、大型になって帆も帆柱も何本も並べることになります。
何十ノットも出せる高速船なのに、戦闘時だけえっちらおっちら櫂で漕ぐと。
そんな矛盾、技術飽和な時期に参入したのがヨーロッパ。
誠にグッドタイミングでした。
まず、そんな技術が飽和している時期にヨーロッパが追いついたという象徴的な出来事がレパントの海戦です。
オスマントルコと名を変えているイスラム圏vsヨーロッパの戦いです。
戦争のきっかけはこんな感じ
ヨーロッパ側からの視点では、コンスタンティノープルを墜として調子に乗ったオスマントルコが調子にのってキプロスまで攻めて来やがった。
オスマントルコ側からの視点では、コンスタンティノープル陥落や十字軍で落ち延びたなんちゃら聖騎士様が地中海で海賊やってるむかつく。なにが聖騎士だ、ばーか!ぶっ潰してやる。
中身は「レパント海戦」塩野七生さんの本でも読んでみてください。
面白いです。
何にせよヨーロッパが初めてイスラムに勝ちました。
勝因はオスマントルコの提督が引き際間違えて大損害してしまったというだけで、ある意味「運」です。
ですが運をつかめるというだけでその技術レベルは拮抗していたでしょう。
たった数十年で大したものだ。
この後の話は、よくある教科書に採用されているような読み物では
この後ヨーロッパは無敵だ!
イスラムは衰退してったぜ!
ヒャッハー!
でしたが現実は違います。
その6ヶ月後、ただちにトルコは大艦隊を復活させ、地中海の制海権をあっさり取り戻しました。
事件としても結果としても大したことではなかったのです。
しかし、ヨーロッパが初めて勝った。
この意味は大きいです。
さらにヨーロッパが参入した時期がベストなタイミングであったのは戦術の転換期であったこと。
レパント海戦は「最後のガレ-船の戦い」と言われました。
小回りが利くというメリットがあったので、ガレー船自体は19世紀まで残りましたが、それが主兵器となることは以降ありません。
帆船がどんどん発達し、速度がついていけなくなったのです。
モンゴルの騎馬兵が無敵だった理由、戦略的なスピードが勝っているので、好きなときに好きなタイミングで攻撃をかけることができる。
帆走船は小回りが利かない/いろいろな武器が使えない、そのかわりに速度に優れているので大海であれば好きなタイミングで攻撃をかけ、自分が不利なら逃げれば良い。
そしてその戦術を使うための攻撃力については、とてもタイミングよく火砲が発達します。
陸では14-5世紀では火砲は役立たずだったんですけどね。
大砲は弾を筒に入れて後ろで火薬を爆発させるもの。
なるべく遠くに飛ばそうとすればたくさん火薬を爆発させること。
でもたくさん爆発させたら筒が耐えられない。
火薬のガスを逃さないために隙間を埋めたい。
でもそのためのパッキンや冶金技術が足りないとか。
コンスタンティノープル攻略の際は、最新技術の巨砲が、巨大な城塞都市を「外し」、明後日の方向に飛んでいきました。
巨大な首都を狙って「外す」のはすごいっすね。
さらに砲身は砕けるわ、死傷者出すわ。
たしか設計者は処刑されたはず。
しかし海では違います。
なにせそれ以外の選択肢があまりないですから。
当たらないんだったら数を増やせば良い、陸で近づいたら歩兵にやられますが、船上なら横付けされなければ何とでもなる。
そう割り切って余計なものを全部取っ払ったらどうなるだろう?
そう割り切ってみたのが戦列艦。
すべて帆走にし、当たらない大砲も「数撃ちゃ~」で何十門も並べる。
櫂も、漕ぐドレイも、その生活する場所もすべて取っ払い、余った部分を帆と大砲とその弾薬庫に切り替えてみました。
それは見事に当たります。
甲板を二層にして大砲を並べまくり、50門艦、70門艦といった船をイギリスは大量生産し、海軍国イギリスができあがりました。
その象徴的な戦いが下の三つ
1545年8月15日にイギリス海峡で発生した海戦、大型艦載砲装備のイギリス軍ガレオン船2隻が、フランスのガレー船団を粉砕しました。
1587年のイギリス艦隊のカディス攻撃で、迎撃したスペインガレー船団はイギリス側の丁字戦法の前に大敗。
1588年、アルマダの海戦で、スペイン艦隊のガレー船やガレアス船は役に立たず、イギリス艦隊圧倒してました。そして切込みしようとしたスペインを優速で逃げ、当たらない大砲も何百門とぶっ込めば別な話。
それがヨーロッパが海で第一人者になった瞬間です。
世界最大の帝国をイギリスがつくる前兆でした。
ヨーロッパはたった100年ほどの出来事で、世界の強国の一角に名を連ねたのです。




