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人間の歴史。  作者: TAK
十字軍
41/176

虐殺の時間-殺し、殺され、略奪し、略奪され、捕まって売り払われ、人肉食

「殺っておしまい!」


ローマ教皇のご命令で西ヨーロッパの人達は一斉に聖地に向かいます。




西ヨーロッパは西ローマがいなくなって空白地、それを救ったキリスト教はとっても中心。


村の中心は教会。

正しい知識を教えてくれるのは教会の司祭様。

敵を頑張って跳ね除けてくれる中心も教会。

命を賭けて蛮族と交渉もしてくれる。

生まれた息子を祝福してくれ、かわいい嫁さんとの結婚も祝福してくれ、善行をしたら褒めてもらい、悪徳を諭してくれ、司祭様が声かけてくれたら村中の男共が助けてくれ、もちろん誰かが困ったら俺が助ける、死ぬ時も厳かに見送ってくれる。

もちろん村の男たちは忠誠を誓います。

そんな素朴な男たちは、司祭様の一言で


「殺ったろうやないか!」


民衆十字軍は一斉に東に向かいます。

まあ、かなり軽い考えっぽかった感じ。

大人数でお参りいけば良い程度。

半分以上はお伊勢参りや東海道五十三次な感じ?


女子供は抜きな!

聖職者はちゃんと街守れよ!


丸無視で一家総出で立ち上がります。


なんかイスラムって金持ちらしいしな!


微妙に聖なる行事なのか略奪しに行くのか、遊びに行くのか、よくわからないまま突き進みます。





そしてイベリア半島スペインから来るイスラム教徒どもを跳ね返しているフランク王国。

美しく、強く、屈強な騎士が見事に異教徒どもを跳ね返しています。

乱暴で民衆の嫌われ者になりつつあり、異教徒どもが来なくなったので私闘を繰り返したり、略奪していたりは見ないふりしてね。

あと「自分たちが正統」とふんぞり返っているヴィザンチンの野郎も嫌いだけど、教皇様が言うなら助けてやるわ。

イスラム教徒やヴィザンチンのやつら俺らより裕福で文明的で幸せそうで憎いけどね。

機会があったらぶっ殺してやる!


ある意味暇になったのでガス抜きも兼ねて一斉に集結します。


アデマール司教、トゥールーズ伯レーモン4世、ボエモンの3人を中心に、


ゴドフロワ・ド・ブイヨン、ブローニュ伯ウスタシュ、ボードゥアン3兄弟、フランドル伯ロベール2世、ノルマンディー公ロベール、ブロワ伯エティエンヌ2世、ユーグ・ド・ヴェルマンドワ


錚々たる顔ぶれで進軍します。

最強戦力!



実は、せっかくの騎馬ですが自分もチェーンで編んだ鎧、馬もチェーンで重くて機動性皆無の騎馬兵。

もちろん連携なんて取れません。

従士という名の軽歩兵数人で主人の周りを囲み「殺てまえー!」が戦術。


なんで彼らがスペインの先進的なイスラム教徒に勝てたか。


まあ端的に言えばゲリラ戦ですね。

何にも考えずに侵入し、周辺をぶち壊し、戻っていく。

昔のローマではないですが、うんざりな蛮族だったでしょう。


イスラムにとってはスペインは端の端、ローマが堀り尽しつつあった廃坑寸前の鉱山維持も面倒になったのでフランスどころかスペインも捨てようかなぁ状態だったのもあります。




教会側はいろいろ政治的な意図がありました。

正教側は、イスラム国家からの圧迫でひーひー言っていたので猫の手も借りたい。

ローマ教皇側は、西ローマや元老院で東ローマといろいろと袂を分かっていたので、


「こんな辺境の地で田舎宗教やっているより、煌びやかなコンスタンティノーブルの仲間に入りたいなぁ。」


とか。

いぢましいというか何というか。

ほんの数話前は「カソリックが世界を救う」的な話を私してたんですけどね。

たった百年ちょっとでこんな話になるとは思いませんでした。





まあイスラム側も杜撰でいいかげんでした。


こちらは舐めてたということもあるし、エルサレムはファーティマ朝のイスラム国家とセルジューク朝のイスラム国家と争っていたりしてどちらがどうというところも含めて混乱です。

ま、ヴィザンチン相手ならセルジューク朝がキリスト教徒の敵だし(キリスト正教だけど)、敵はあっちだろうと、その時占領していたファーティマ朝はのんびりしてます。





こんな各人が勝手な理屈を並べて東に進んだのが十字軍です。




さてさて、そんな勇気一杯、正義一杯の戦いはどうなったでしょうか。



最初、


民衆十字軍がドナウ川沿いに東を進みます。

ハンガリーに侵入。

同じキリスト教徒です。


あれ!?

食いもの足りないぞ!?


飢え死にはたまらんので周辺で調達します。

調達と言っても要するに略奪ですけどね。


ハンガリー農民怒りまくり。

ハンガリー騎兵が農民の怒りに応えて虐殺しました。

1/4ばかし殺されます。


ベオグラードでは4千人ほどハンガリー市民を殺し、占領します。


ドイツでは村ごと占領して居座ったり、ブルガリアでは逆に夜盗のように襲われて男は殺害、女子供は奴隷としてうっぱらわれるとか。

まあかわいそうな子供を引き取ろうとか美談もありましたけどね。

ごく一部以外はあまり敬虔なキリスト教徒らしからぬ凄惨な話ばかりです。


当たり前ですね。

平和に暮らしていた民衆に、着のみ着のままボロボロな大群衆から恐ろしい顔で、


「俺はキリスト教徒だ!イスラム教徒ぶっ殺しに行くぞ!腹減ったから食いもの出せ!金出せ!」


は嫌です通用しない。

そこらじゅうで殺したり殺されたり。


ようやくコンスタンティノープルにつきました。

その流浪の民で乞食っぷりにコンスタンティノーブル市民ドン引き。

金と食いもの渡してさっさと出てってもらいます。



出てった先の東はポーランド。


元々ポーランドってユダヤ人にやさしい国でした。

そして可哀そうに、西ヨーロッパではユダヤ人は大嫌われ者です。

追い出されたユダヤ人の行き先はイスラム国家かポーランド。


「あれ!?ここにユダ公がいるじゃん!ひゃっはー!異教徒虐殺ぅ!」


多くのポーランド人殺されました。


そしてトルコのニカイアに辿り着き、ようやくイスラム圏の国民を殺害します。

近郊のギリシャ人やトルコ人の村を略奪!奪う!犯す!

聖なる義務はどうした?


「近所のクセリゴルドン陥落」

「ニカイア包囲、落城寸前」

「ニカイア落城、十字軍勝利!」

「略奪し放題!遅れるなよ!」


欲にまみれた連中ばかりの十字軍、大パニック。

スパイの偽情報でしたが。

女子供を残したまま、「俺も略奪させろー!」


伏兵で全滅しました。


本気になったイスラム軍には鎧袖一触でしたね。

まあ一応戦名はついてます。


「キボトシュの戦い」


実に30万人以上のキリスト教徒が進軍しましたが、途中の経路で


殺し、殺され、略奪し、略奪され、捕まって売り払われ、



ニカイア近辺ですでに6万人くらいに減っており、その連中はほぼ全て虐殺され、3000人ばかしの取り残された女子供のみ助かったと言います。


多分、その女子供は幸せだったでしょう。

ニカイアは彼らのいた地より格段の文明国でしたから。

そしてユダヤ人もイスラム人もキリスト正教人も共存している幸せな国です。

嘘か誠か、それくらい祈っておいても罰は当たらないでしょう。


30万人以上のキリスト教徒は消滅しました。


途中で少しは救われて人はいるでしょう、奴隷として売り払われた人もいるでしょう。

それ以外はドナウ川、トルコまでの間の通り道に捨てられたのだと思います。

その後、周辺で疫病が蔓延しました。

最後まで迷惑な存在でした。





本来、民衆十字軍は騎士たちと一緒にエルサレムに突入する予定でした。

しかし先のように勝手に進み、勝手に暴走し、イスラム教徒と戦う前に、同じキリスト教徒、キリスト正教、ユダヤ教徒と戦って戦力の大半を失い、イスラム教徒によって消滅させられました。


そしてヴィザンチン市民も彼らの極悪さ、非道さに恐怖します。

アレクシオス1世は彼らに頼ったことを心底、後悔したでしょう。

十字軍は、イスラム教国よりヴィザンチンに記録されている理由もこれです。


更に、その十字軍の中には領土争いの宿敵であるノルマン人のボエモンもいる。

完全に見込み違いを悟りました。


十字軍をなんとか制御できるレベルになるよう、ヴィザンチンのアレクシオス1世その後はそれに傾注するようになります。


まずは残存の十字軍に交渉です。

食料を提供する代わりに、自分に臣下として忠誠の誓いを立て、さらに占領した土地はすべて東ローマ帝国に引き渡すことを誓うよう求めました。



一時は小競り合い寸前になりましたが、なんとか双方妥協しました。

今度はヴィザンチンの軍隊も交えてまともに進軍します。


最初の目標は「ニカイア」


そもそもヴィザンチンがイスラムに奪われた都市です。

力攻めを避け、包囲し、兵糧攻めをしました。


で、ここでヴィザンティンは小狡い感じ。

民衆十字軍の悪名を利用し、ひそかに略奪蛮行を避けるためには降伏するしかないとせまったのです。

なんとすごい悪名だったのでしょう!

ニカイア守備兵はあっさり了承し、東ローマ軍をひそかに入城させ、さっさと占領させました。

無血占領は本来喜ぶべきでしょうが、十字軍、略奪できなくてお怒りのご様子。


その後もエルサレムを一路目指すのですが、その間にヴィザンチンの領土が回復していき、十字軍はその小狡さに怒りが倍増していきます。


そしてイスラム軍も混乱中、辺境の一地域ということで本格的な反撃はセルジューク軍からはなかったものの、砂漠はじくじくと十字軍を蝕みます。


そして烏合の衆。

錚々たるメンバーが仇だったのか、少しづつ分解していきます。


ブルゴーニュ伯ボードゥアンは袂を分かち、辺境トルコ南東部のエデッサを占領し、ここの統治者になりました。



一方、本体の方は地震で壊滅した昔の大都市、この時は田舎町のアンティオキアを責めます。

しかし兵力足りず、包囲戦をしたものの長期になってしまい、包囲している十字軍が食糧難で苦しむようになります。

地震と大雨に怯え、飢餓に苦しみ人肉食まで行う始末。


ボエモンはアンティオキアを自らのものにすると公言し、強引に攻め、アルメニア人衛兵を買収して城内に突入し、火を放ち多数の市民を虐殺しました。

相変わらずイスラム教徒はやる気なし。

一応援軍を送って逆包囲を仕掛けますが、付き合っていられずすぐに逃げます。

またもやキリスト教国の勝利!


何と2連勝です。


2連勝もしたので、「そろそろ良いかな」とやる気なくなる将兵多数。


ついでにヴィザンチンの小狡さムカつきMAX、さらに欲が出て占領した土地も自分のモノにしたがります。

遠く離れた西ヨーロッパからどのように統治するつもりだったのでしょう?


さらに疫病で多くの兵や馬が命を落とした。

その犠牲者に教皇使節アデマールも含まれていました。


もう、誰もまともに指揮する人はいなくなりました。

ヴィザンチンに従いたかったのは教皇だけなので、それ以外の騎士は暴走状態です。


シリアの都市マアッラ攻略の際、十字軍兵士達が市民を鍋で煮殺し串で焼き殺すという人肉食事件が起こります。

ついでに、十字軍のおかげでエルサレムの巡礼も制限され本末転倒。

カソリックの信者からさえ突き上げが起こります。

もううんざりな雰囲気の十字軍。


五月蠅いボエモン残して軍勢はエルサレムに向います。

ちなみにボエモンはアンティオキア公国建国を宣言して脱退。




そして1099年、エルサレム攻囲戦が始まります。


進軍はスムースだった様子。

だって十字軍が通過した町や村で行った略奪や虐殺の凄まじさが惨すぎて、自分たちが襲われないように宝物・食料・馬など物資や道案内を提供してとにかく媚び売りまくりましたから。


そしてイスラム国家も大混乱。

ファーティマ朝が混乱乗じてセルジューク朝から奪ったのほんの一年前。

ババ掴まされたも同然ですもん。



そして十字軍は飢えた狼状態。

本当に食いものなくて飢えてましたけど、包囲する側が飢えてるってどうなんでしょうね?



そこらじゅうを強引に食い破り、犠牲をものともせずぶち当たり、その弱点を強引に見つけて城壁を打ち壊しました。

都市内侵入後、エルサレム市民は宗派問わず大虐殺。

イスラム教徒、ユダヤ教徒、東方正教会、東方諸教会のキリスト教徒まで平等に虐殺しました。


ユダヤ教徒はシナゴーグに集まりましたが入り口を塞ぎ火を放って焼き殺しされました。

イスラム教徒はソロモン王の神殿で虐殺されました。


正教会(ギリシャ正教)、非カルケドン派(アルメニア使徒教会、コプト正教会など)各教派のエルサレム総主教たちは追放され、カトリックの総大司教が立てられました。


キリストが架けられた「聖十字架」など聖遺物もすべて追放した司祭達を拷問して手に入れました。



惨い悪魔のような国家、十字軍国家「エルサレム王国」が誕生したのです。


エルサレムを占領した将兵はたくさんの財産を得て凱旋帰国。


ちなみにここまで大混乱で周辺諸国に迷惑かけまくりの軍勢ほとんどの将兵は帰ってしまい、エルサレム王国の兵力はたった2000名。


何というか、計画性がないというか、あんだけ味方も敵も殺しておいて、虐殺略奪し放題で、このオチかよと思ってしまいます。


そして最後のオチ。


1101年の十字軍と呼ばれる雑兵や民兵を含め10万人近い軍勢がエルサレムを目指しますが、セルジューク連合軍によってあっさり壊滅します。

本気になったイスラム兵には鎧袖一触。

10万人が消滅しました。


一応、エルサレム王国そのものはテンプル騎士団、病院騎士団(聖ヨハネ騎士団)といった騎士修道会が組織されて、エルサレム王国を防衛し、1187年まで持ちます。


が、散々喚いて手に入れたその他の土地は全て奪還されました。


1147年にフランス王ルイ7世とドイツ王コンラート3世がこれを取り戻そうと第二回十字軍を起しましたが失敗に終わります。


何というか、一応エルサレムを奪還しましたが、こんな感じで良いのだろうかというところ?

ありとあらゆる他宗派に嫌われ、平和の都市を踏み潰し、自分たちも云十万単位の犠牲。

しかも何回も。


惨たらしい事件が、後にヨーロッパの教科書で


「大成功!」


と言っている中身でした。

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