ラインハルトさま!
漢は産まれはしたものの弱く、超大国のメリットをなかなか活かせない状態が続きました。
秦と違って統治地域に強圧的な態度をとれる力もなく(そもそも漢は強烈な秦のアンチテーゼとして産まれたものですし)、強権を奮えるわけでもなく、騙し騙し形だけの中央集権国家、実情は有力者の顔色伺う封建国家っぽく国を運営してました。
初代劉邦が敗れ、匈奴へ従属した状態も続きます。
もちろん、人口、経済力、統治の改善(統治される身としては段々強権になるので改悪ですが)、農耕民ならではの科学技術の集積、力は貯めこんでいましたが。
転換点は第7代皇帝「武帝」
初代)劉邦から広大な領土を運営し、着々と力と富を貯めこんでいきます。お金さえあれば何とかなるのは世の常。
まずは法律から
「郷挙里選の法」
あたらしい任用法で、各地方郷里の有力者や太守が才能のある人物を推挙して登用する制度。
淀みがちな公務員達をなるべく活性化させるべくいろいろ工夫してます。
そして、劉邦の時は弱かったので、中央集権と言いながら郡国制、「みんながんばろうね!」的な統治から
だんだん締め付けを厳しくしていきます。
呉楚七国の乱で、有力者の呉王、他七国の諸侯王たちが起こした反乱を叩き潰しました。
群国といいつつ国の王で有力者いなくなります。
ついでにセコく彼らを弱めます。
「推恩の令」という法律で長子相続を他の息子にも分割して相続できるように変更しました。
所ジョージの組曲「冬の情景」ではありませんが、
一枚がぁ二枚。二枚がぁ四枚。四枚が8,16,32,64,128,256,512、千~千~みずになぁる
こんな単純な法律で各王の所有する土地が消えてなくなりました。
武帝の代で秦と同様な強大な権力を回復し、郡国制と言いつつほぼ郡県制と同様になり、まともな中央集権国家となります。
富国強兵もばっちりです。
塩と鉄を専売しました。
後年では国民の弾圧の対象と搾取として悪評高いものですが、当初は国が必要な鍬だの剣だの塩を効率よく大量に製造することにとっても助けになったと言います。
おかげで青銅器時代っぽい武器から完全に鉄製の武器に変更になりました。
次、兎にも角にも騎兵を何とかしなければなりません。
何とかしました。
誠に大国らしく、何の工夫もなくただ真似してみました。
まず服装を変えます。
漢服は和服の元になっただけに布を羽織るだけ。
これを遊牧民族の真似してずぼんを作りました。
馬鹿にしてはいけません。まだ鐙もない、鞍もない時期、馬に乗るのはひたすら股の力です。
戦車という中途半端な役立たずから、まともな騎兵の技術が産まれました。
ちなみに身分の高いものは相変わらず羽織る優雅な着物を着ましたが、農民とかはここらへんからズボン大流行です。
次、馬を増産しました。
遊牧民族のように、馬に乗り、弓が上手けりゃ獲物が取れて、家畜を育てて大金持ちという立場とは違います。完全な持ち出し。お金がかかってしょうがなかったでしょう。
が、ここは遊牧民族と桁の違う経済力。有無も言わさず馬を大量に育てます。
馬を育てる方法も一つ技術レベルを上げてます。
遊牧という、家畜を飼う場所を次々と移動してゆくタイプから、放牧という畜舎周辺に広い土地を持ち、そこで放し飼いにするタイプへ変更。
どちらも大変お金がかかります。競馬馬を作って、失敗して自殺した人たくさんいます。北海道で牛を育てるのは大変お金がかかるでしょう。
ちなみに私も牛を飼っています。億円単位の投資、数十億円単位の儲け、ただし失敗したら自殺もの。
過去に安愚楽だかなんだか鳩ポッポが薦めた詐欺牧場投資とかに引っかかっちゃいけませんよ。牧畜はとってもリスクが高いです。
匈奴の方は誰も住んでいない無料の土地でノビノビと牛馬を育て、漢の方は都市近郊でお金をダダ流しながら一生懸命育てました。漢は悲しい。
武帝は実に巨額なお金をかけ、36ヶ所の牧場をつくり、30万頭の馬を飼育しました。お金持ち!
ちなみに、この頃はまだ農耕に馬を使うような高度な技術はなく、まったくの軍事費としての出金です。
まあ馬は大河ドラマとかにでてくるかっこよいサラブレットではなく、小っちゃい蒙古馬ですが。
まあ、そんな感じで青銅器持ったしょぼい歩兵、人数だけは多いです、そんな歩兵でのたくた歩き回ってきた劉邦と違って武帝の時代になるとなかなかさまになっていて匈奴に勝てそうな気がしてきます。
そしてタイミングよく英雄が産まれました。
「衛青」の活躍。
匈奴と境を接する北方で羊の放牧の仕事をしていた人。匈奴の生活や文化に詳しいけど、まあ身分は低かったでしょう。
で、出世のきっかけは姉の衛子夫が武帝の寵姫となったこと。
銀河英雄伝説「ラインハルト」と重なっているのは偶然ではありません。
この作者は中国文学大好きっ子です。
文学だけが好きなので、科学的素養、軍事的素養がなさすぎて如何なものかと昔から言われてましたが、私は「別に作家は面白い本書ければいいじゃん」派なので楽しく読ませていただきました。
まあこの衛青、SFの主人公のモデルだけに冗談みたいな良い人で、冗談みたいに強かった。
まあ武帝との仲は良好、どころか魂まで結びついてます状態でしたが。
というかホモという噂がいつの時代でも出ています。それがうれしいのか気持ち悪いのかは各人にお任せですが。
#たぶんうちの高校生の娘はうれしい方。わたしはホモの運命などどうでもよい
ちなみにベーネミュンデ公爵夫人っぽい人とかもいたし、キルヒアイスっぽい人もいます。
ご興味ある人は北方謙三著 『史記 武帝紀』とか読むと良いですよ。本当の史記より柔らかめに読めます。
銀英伝知らない人すいません。関係なく良い話です。
で、まあ細かいことは面白い、本屋で売ってる文学作品にお任せするとして、
歴史に関係する活躍だけを。
衛青、実際に初陣から大活躍。
誰も活躍できなかった部隊で独りで戦果上げてます。
さすがラインハルト。
そしてそれから連戦連勝。
細かな戦術は有坂純著「新書英雄伝」がおすすめ。軍隊に所属した割にあんま興味ない私。まあ専門は気象だったしね。
その後は甥の霍去病も大活躍。
帝国の双璧と言われたかどうかともかく、二人で匈奴をバッタバッタと倒します。
もう騎馬の運動を目いっぱい使い、奇襲、堯回、包囲、分身合撃、時間差、分断、後方だけ叩く運動戦、何でもござれ。
甥と一緒に連戦連撃です。
というか、劉邦の頃は30万という大所帯でしづしづと攻めていた軍隊が、この二人で様変わりしてしまいました。
拠点を守る軍隊は大部隊ですが、そこから二人は一万くらいの部隊でたったかと攻め入ります。
そして勝てる状態の時に素早く獲物を屠り、飽きたか疲れたかチャンスがなくなったら戻り、相手がうんざりしている時期にまたたったかと小部隊で攻め、翻弄し、また落ち着いたら逃げ。
ぶんぶんとウザい蠅みたいな嫌がらせを続けます。以前は相手がそれをやってうざいなあと思い、疲弊したことを100倍にして返してやりました。
そして反撃しようにも、きちんと攻めるべき場所は大部隊で守っていると。
というか、匈奴は遊牧民。
「お金が欲しい」、「食いもの欲しい」が目的ですが衛青と霍去病は違います。
次々場所を移動し、もう週刊「匈奴ぶっ殺す」大会です。
あそこに貴族がいるなぁとおもったら「ぶっ殺す」
あそこに族長がいるなぁとおもったら「ぶっ殺す」
あそこに補給集積所があるなぁとおもったら「ぶっ殺す」
今日は天気が良いから「ぶっ殺す」←マジです
今日は機嫌が良いから「ぶっ殺す」←マジではないかも
今日の運勢が良いから「ぶっ殺す」←マジです
しまいにはあそこに王がいるなあとおもったら「ぶっ殺す」
匈奴は精神的にも物理的にも見事にぼろぼろになりました。
真面目な奴らを怒らせると怖いと心底身に染みたでしょう。
衛青と霍去病とどっちが強いの?
とか質問いっぱいありますが、あんま意味ないですね。
だって戦場は一つ一つ違うもの。
が、まあ世間の評価では霍去病です。
どっちが役に立ったの?
これは間違いなく衛青
だって漢軍の騎馬戦術を作り上げたのは彼だもの。
とくに補給段列をつくって騎馬の運動性を殺さず補給を絶やさない戦術は素晴らしい。
物語としては、
・とにかく二人が活躍した。
・匈奴に徹底的に勝ち、貴族幹部を殺し尽くし、奥深くまで縦横無尽、当分逆らえない状況にした。
「万里の長城は役立たず」は皆さんの想像と違って漢は強すぎて長城なんて役立ちませんでした。
#ちなみに今皆さんが写真とかで見ている万里の長城はとっても役に立ってます。
あれは別に万里の長城ではないですから。みんな嘘が好きです。
・甥の霍去病が死んじゃったけど盤石変わらず。
・南越、東越、朝鮮、すべて併呑。ま、強大で面倒な匈奴にくらべればゴミ
・この勢いで武帝は西方に進出、シルクロードといった貿易拠点の玄関口を手に入れる
・なんかやりすぎて不景気になった。役人の腐敗が横行した。とか言われる
↑
これについては信憑性に疑問持ちます。というかまだ王が力を持っていたころの方が
ひどかったのでは。
そして武帝はひどい王だったとかの評価を言うのが排除された王侯貴族。
彼らこそ中央集権国家としては効率悪い原因を作る寄生虫なのにね。中間搾取してるし。
そして西方への進出は無駄遣い...光武帝がやると褒めるのに。
まあ中国、とくに新体制なので反乱が多かったのは確かです。前漢、後漢と別れた原因も腐敗と反乱。
まあいつの時代でも中国って中国ですから。
しかし、一度確立した強さはしばらく続き、漢はこの後シルクロード等西方へ進出して巨大な版図を作ります。
光武帝の頃の領地は、世界帝国歴代18位 最大領土650万㎢
この後、代替わりは多々あれど、ヨーロッパが台頭するまで(むしろ台頭した後も)世界の中心であり続けます。




