VoL.6
現在、カルと部屋で勉強中だ。
カルは優しく教えてくれたし、マナーと違って勉強も楽しかった。
そういえば、幼い頃聖女の伝説に憧れていた記憶がある。
あの頃は、自分が聖女の末裔だなんて知る由もなかった。無理矢理王子の側室にされ、馴染みのない生活を送ることとなることも……。
「ふふっ……、ははははは……」
暗く笑う私。
「セシル様? どうしたの?」
「あ、いや何でも無いです。それよりお願いが……」
この望みのない生活を、少しでも明るくしたい! ということで。
「カルはカイ様のお友達なんだよね。私ともお友達になってほしいんだ。ここ、友達いないし。セシルって呼んで?」
少し戸惑ったカルは、しかし返事をしてくれた。
「喜んで。同じ聖女の末裔だしね」
これからは、カルに癒されたいと思う。
「そもそもね、これまでの歴史で聖女は三人いたとされているんだ」
歴史のお勉強中です。
「君のご先祖、『カシリア王国の救世主』マリアナ・ヴィトン、僕のご先祖、『予言の神子』セイラ・ツァーニ、『堕天使』ミリアス・フィアル。この三人ね。特にマリアナは、約六百年前に危機にあったカシリア王国を救った、我が国と切っても切れない関係なんだ」
へぇ、つまりヴィトン家が伯爵の位をもらったのも、マリアナ様のおかげさまってわけだ。
「そうだねぇ、因みにセイラは異名通り予言に特化した聖女だったんだ。そのせいか、僕も予言が得意でね」
じゃあ、ミリアスは? 『堕天使』ってなに?
「ミリアスは絶対的な力を持ちながら、正義の為には使ったことがないらしくて。むしろ、世界を滅ぼすところだったんだよ。魔族達とセイラ、マリアナが結束して止めたそうだよ」
ああ、それもう『堕天使』以外の何物でも無いね。
「ねね、歴史はいいから呪文は? 早く使ってみたい!!」
「基本的に聖女は祈るだけで魔法が使えるけどね。一応教えておこうか」
そこから始まる、基本魔法の数々。
『炎』、『氷』、『雪』、『岩石』、『雷』、『光』、『水』、『霧』、『重力』、『癒』──基本はこの位だそうだ。
「これらを総称して、『始まりの十魔法』って魔族は呼んでいるみたいだね」
そこから、更に呪文を唱えて複雑なものにするそうで。
「たとえば、炎だけでも用途がいろいろあるでしょ? 攻撃だとか、縄を焼き切るだとか。例えばこんな風に。──『炎』、『暖』」
ポッ、とカルの人差し指の指先に炎が灯る。
それは、暖かかったけれど手のひらを近づけても熱くはなかった。
「うわぁ、凄いね」
私も使いこなせるようになるのかな?
「ふふ、じゃあ今回の抗議は終わり。次はいつになるかわからないから、決まったらルリカさんに連絡するよ」
立ち上がったカルに手を振る。
小さく手を振り替かえして、カルは部屋を出ていく。
いや~、勉強になった。
魔法を応用したら王宮から抜け出せるし、母さんの病気も治せる。フフフ……、利用しない筈がない。
カルには悪いが、そんなことを考えながら夜はふけていった。
登場人物紹介Ⅲ
ルリカ・ヒビリッヒ
カイとは小さい頃から一緒に育ってきた間柄。
公爵家の出だが、ある理由から家を追い出された。今では王宮で侍女として働いている。
セシルお付きの侍女。自分の若い頃に似ていると懐かしみつつ、その性格に頭を悩ましている。
能力:あらゆる体術、銃、剣などの知識