VOL.3
「良いですか、まずはマナーをマスターしてください!」
……はい。頑張りますから、ルリカさん睨まないでください。
とはいえ、礼の仕方一つにも細かくて、ずっと田舎で暮らしていた私には理解不能。
角度やら言葉遣いやらテーブルマナーやら……。頭が爆発しそうだ。
結局夜が明けるまで、ルールを叩き込まれた。
「……寝ます」
今何時だと思ってるの明け方5時だよ。バリ村にいたころ毎日10時には寝てたよ。
頭の中で恨みつらみを撒き散らしつつ、ベッドにダイブ。あー凄い、フカフカだー。
「どうぞおやすみなさってください。ただ、二日後王妃様達がお茶会を開くそうなので、起きたら徹底的にやらせていただきます」
この人は鬼か。
「王妃の自覚を持ってください」
側室になるの決定なの? 王子も鬼か。
「ルリカさん、一つお願いしてもいいですか」
「何なりと」
「王子ってどんな人ですか? 子守歌代わりにでも、お願いします」
ルリカさんは少し戸惑っていたが、やがて話し始めた。
王子──カイ様は幼い頃から存じています。
カイ様には姉がいらっしゃる。それが第一王女ミシュラ様。ミシュラ様は大変できた御方で、昔から何でもカイ様の上をいくほど優秀なのです。
そのせいか、カイ様にはコンプレックス意識が強くて……。あの様な態度をとるのも、かまって欲しい表れなんですよ。
あと、小さい頃からいつも眉間に皺があって、難しい顔をしていました。友達も少なくて、いつも寂しそうだった。
でも、大好物のラズベリーを食べる時だけこう……子供らしいかわいい顔になって。
趣味? 狩り、ですかね。
とにかく、本当は真っ直ぐな方なんです。セシル様、カイ様をよろしくお願いします。
「セシル様! もうお昼ですよ」
どうやら話を聞いているうちに、眠ってしまったらしい。
「あと十分……いや九分五十九秒……」
「それほとんど変わってません。昼食ですよ」
あー、美味しそう……食べたい……でも眠い……。
「やっぱり断ってください」
「起きてください! 王子が会食を申し込んでいます」
布団を引っ張られるが、掴んで離さない。起きるもんか、絶対クマもできてる。
「いやー! 起きない!」
「起~き~ろ~!」
あれ? ルリカさん、声低くなった?
力が緩んで、布団をはぎ取られてしまう。
「寝かせてくださいよぉ~……」
薄く目を開けると、
「う、うわ!?」
……王子様、だった。
考える前に体が動く。
バシッ!!
やっちゃったー……。
ビンタをした右の手のひらがジンジンと痛む。
「き、貴様! 俺の頬を打つとは、何事だ!!」
「だっ、だって寝間着姿ですよ!? いきなり入ってこられて、反射でっ……」
尻すぼみになっていく声を、ルリカさんは面白そうに、王子様は顔を真っ赤にして聞いていた。
「……いいか、お前は俺の命令に背くことは出来ない!」
怒りを押し殺した声で王子がいう。
「今すぐ着替えろ、庭で待っている」
「……はぁーい」
「返事は短く!」
「……はい」
「もっとはきはきと!」
「はい!」
「よろしい!」
軍隊みたいなやりとりを残して、王子は出て行った。
ルリカさんは、笑いを押し殺すのに必死だ。
「……もしかして私達、バカップルってやつに見えました?」
ついにこらえきれず、吹き出しながら頷いてくれた。
オーノー、ジーザス!!
聖女の末裔らしく、祈ってみた。
……神よ、助けてください!!
いや、助けろぉぉぉぉおおお!!!
登場人物紹介です。
セシル・ルーシー・ヴィトン
聖女の末裔で貴族だが、十六年間その事実を知らずに生きてきた。
かなり凶暴で、村での力仕事によって筋肉もついている。
突然側室にされ、戸惑い中。
可愛い物が好きなど、乙女な一面も。
能力:独自の戦闘方法、聖女の魔法?