VOL.2
「何故私が? 王子の側室など、何の身分の無い私には」
言葉は丁寧に、王子をにらみつける。相変わらず、私を傲慢に見下ろしていた。
「女としてのお前に興味などない。あるのは利用価値だけだ」
ますます意味が分からない。片田舎でしか暮らしたことのない私に利用価値??
「お前は、自分についてなにも知らないのか?」
知ってるけど……。バリ村で暮らしていた、十六歳のお転婆娘です。
「──セシル・ルーシー・ヴィトン。聖女の血を引く、ヴィトン伯爵家の娘だ」
!!??
「十六年前、おまえの母──ユーリはバリ村に逃げた。平民の男と駆け落ちして。そして生まれたのがお前だ」
!!!???
「聖女は、祈るだけで命を救えるという。通常魔族しか使えないはずの魔法をも使いこなす。お前の白い肌、青い髪、紫の瞳こそその印!」
つまり……私が聖女だとすれば負け戦続きの国に活気が取り戻せる、ってこと? それが私の『利用価値』?
「ふっざけんじゃないわよ‥‥‥」
私のつぶやきは、王子の耳に届かなかったらしい。
「何かもうしたか」
「……ふざけんなって申しております!! あんたそんな事で私を村から引っ張り出したんですか! 平穏な生活を返せぇぇぇぇぇええええ!!!」
「……」
皆が黙っているのを良いことに、更に言い募る。
「母さんは病弱なんです! 友達とも引き離されて!! 私は地位や名誉なんていらない!! 平和に過ごせればそれでいい!」
一瞬の沈黙の後。
「……黙りなさい。側室とはいえ、そのようなことを言えば最悪死刑ですよ」
あなたはさっきの……ルリカさん! ……そうですね、冷静に考えたら言い過ぎました。ごめんなさい。
「あたしも若い頃はかなりむちゃしましたよ。あなた様を見ていると、思い出すわ~」
あ~、そうなんですか。私がみたかぎり、ルリカさんは軍人並みの強さですね。
「そう、分かるー? あたしもセシル様には素質がおありだと思いますよ」
二人で盛り上がっているうちに、王子達の冷凍が解けたらしい。
「うるさい女だ。だからいったろう? 女としてのお前に興味などないと。お前はあくまでも『聖女』でしかない」
『うるさい』~!? また口を開こうとすれば、
「連れていけ」
ルリカさんに軽々と担がれ、部屋を連れて行かれた。
「ご無礼、失礼いたします」
……力持ちですね。
「改めて、あたしはこれからお世話をさせてもらう、ルリカ・ヒビリッヒです。宜しくお願いします」
……まだまだ不満はあったけれど、とりあえず、力強い味方だけはゲットできた。