VOL.丨
初めての恋愛ものです。
「セシル・ルーシー・ヴィトン。今日からお前を、俺の側室とする!」
黒く輝く髪、濃い灰色の瞳。加えて高貴な雰囲気を漂わせる、左右対称の整ったお顔。それを、呆然と見上げていた。
──……はい?
なにいってんのこの人。意味がわからない。「今日からお前を、俺の側室とする」って何語?
朦朧とする頭で考える。──そもそも、どうしてこんな事になったんだったっけ?
そう、あれは昨日の夜更けのことだ。
突然兵士達が、我が家にドカドカと上がり込んできたのは。
私の家は、病弱な母と二人暮らし。父は早く亡くなっているため、私が家計を支えていた。
辛くはなかった。田舎に住んでいたので、村人皆で協力しながら働いていたからだ。私は女ながら力も強く、友達と行う畑仕事も平気だった。
あの時も、夕方まで働いて美味しいご飯も食べて、1日が終わろうとしていた。
それを、あの兵士達がメチャクチャにしてくれたのだ。
無理やりベッドから引き離され、右ストレートを一発お見舞いしてから、頭が真っ白のまま母を守るようにたつ。
「あんたたち……誰!? 私達、何もしていないわよ!」
そう。最近した悪いことといえば、隣の爺ちゃんが大事にしている柿の木から、果実を無断で食べたぐらいだ。爺ちゃんはおっとりしているし、笑って許してくれた。
「セシル……」
母さんが、シャツの端を掴む。安心して、私のヤンチャっぷり知ってるでしょ?
「……セシル・ルーシー・ヴィトンだな?」
先ほど右ストレートをくらった兵士が、うなるようにいう。
「そうよ。何かようでも!?」
「お前を、迎えに来た」
そして、茶髪の若い兵士が、嘲る用に宣言したのだった。
「カシリア王国第一王子、カイ・フォン・カシリア殿下の名において、セシル・ルーシー・ヴィトンを王宮に連行する!」
そうでした。なんか酷い扱いで連れられてきたんだった。
その後──。
「お待ちしておりました、セシル様!」
侍女たちに大歓迎された。
あまりに兵士達と違う態度に、たじたじとなってしまう。それは、兵士達も同様で。
「ルリカ殿、これはどういうことだ? この女は、罪人ではないのか?」
責任者だろうか、二十代位の綺麗な人が
「あなた達は馬鹿? なにも知らないのね」
笑顔のまま、辛辣な言葉を投げつける。
「なっ……! 貴様、侍女の分際で何様だ!」
彼女は笑顔を崩さず、兵士の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「何様はそちらでショ? 忘れたのですか、あたしはある理由で家を追い出されるまでは、貴族だったの」
綺麗だから、……よけい怖い。でも、こういう女性って好きだ。
男に寄りかかってナヨナヨ甘えるのだけが女じゃない。むしろ、私は強くて自立している女性に憧れる。
私がルリカさんに憧れている間にも、攻防は続く。
「お家を追い出されたならば、貴様には何の権力も無いではないか!」
「現ヒビリッヒ公爵の名前を言ってみなさい」
全然関係のない話題なんだけど。彼女の殺気に気圧されて、兵士はおとなしくいった。
「……タキオン・ヒビリッヒ公爵だ」
「そう。彼、私の弟で、重度のシスコンなの。頼れば助けてくれるわよ」
兵士は、負けを認めた。でも、ルリカさんは罰を与えなきゃ気が済まなかったみたいで。
かなり身長差があったも関わらず、ジャンプして脳天に膝蹴りをお見舞いした。
──おお! 彼女のこと、姉御とお呼びしていいだろうか。
「本当にお馬鹿さんね。あたしが一時は軍からのスカウトがくるぐらいだったのも、忘れたのかしら」
引きずられていく兵士。それを見届けたと同時に、広い部屋に連れて行かれた。
侍女たちがジリジリと迫ってきて。
──殺される……!
目をぎゅっと閉じた。
村のみんな、悪戯してごめんなさい。母さん、病気治して。
そういえば、こんな事もあったな……。と感傷に浸っていると。
あれ? 殺すにはやけに遅い……。
きづいて、恐る恐る目を開ける。
すると──。
「ぎゃぁっ、ナニコレ!?」
ドレスを、着ていた。濃い青の、落ち着いたドレス……。
「セシル様、よくお似合いです!」
差し出された鏡を覗けば、小綺麗に化粧を施されていた。
そして、戸惑っているうちに、王子の御前に出されたのだった。
──何にもわかんないし、お腹もすいたのに……。
そうこうするうちに、未知の言語を使いこなす知的生命体に遭遇した、というわけだ。