誰だって怒りたい時が在る 3
間宮は昨日の放課後は本当に酷い目に遭った……と思いながら昼休み、自分の席でサンドイッチを口にしながら昨日の出来事を思い出す。
昨日の放課後、唐突に現れた神楽坂雛は神楽坂花の妹らしい。そして、神楽坂姉は茶道部の後押しの元で無事に彼氏が出来て幸せな学生生活を勝ち取った。それを近くで見た神楽坂妹は、姉の様な学生生活に憧れて自分にも彼氏が欲しいと考えるのだった。
そこで妹は姉に相談し、茶道部という存在を知り、相談に来た。そして、茶道部部長の柊はその相談を以前の様に面白そうだと受けるのだ。そして神楽坂妹が同じ一年ならば、一年同士である間宮の方が動きやすいということで今日の昼休みに神楽坂妹の交際相手を見つける羽目になっていたのだった。
「なんで俺がこんなことを……」
そう呟きながらも、間宮はまず自分のクラスの生徒達に目を向ける。
そして間宮の視界に写った生徒達は主に三つのグループ分かれていた。一つ目は髪を染めたり、活発的な男子生徒が集まるグループ。二つ目は一つ目程では無いにしろ、黒髪のそこそこ活発的な男子生徒が集まるグループ。三つ目は文科系特有の内向的な雰囲気を醸し出す男子生徒のグループだった。
――さて、この中で神楽坂の言う優しそうな男子生徒を探す訳だが……。何処のグループにも接点が無い俺がどうやってあの輪に入って行くのかが問題だ。……どうしよう。
間宮は軽く落ち込みながらそんな事を考えるのだった。
――仕方ない、適当に外見で選ぶとするか……
そして間宮は二・三人クラスの中で優しそうな男子生徒を選んでからサンドイッチを食べ切り、紙パックのコーヒー牛乳を飲み始めるのだった。
――はい、これで終わり。あとは放課後に適当に名前出せばいいや……
そう思いながらコーヒー牛乳をストローで吸っていると横から唐突に声が聞こえて来た。
「あっ、居た居た!!」
「……」
廊下側の自分の席に座って居た間宮は、教室の出入り口から無邪気な顔を出す神楽坂を見て絶句した。
なんでここに来るんだ。放課後の茶道部の部室でいいだろ。そんな事を思いながらも、とりあえず目を逸らして他人のフリをするのだった。だが、神楽坂はそんな事を気にした様子も無く教室に足を踏み入れて間宮の前の空いた席に座るのだった。
「おはよ、間宮君」
「こんにちは、神楽坂さん」
そんな間宮は嫌そうな口ぶりでそう返が神楽坂はそんなことはどうでも良い様子で気にせず言葉を続ける。
「それで、昨日のことなんだけどさ……友達に優しくて良い人って誰だろうって聞いたんだよね、そしたら工藤君って同じクラスの人なんだけど。その人が良さげ、みたいな話になったんだけど。どうなのかな?」
「そうですね……名探偵とかやってそうな名前でいいんじゃないんですかね?」
「名探偵?」
――そうか、通じないか……
間宮の言葉に神楽坂は首を少し傾ける。それを見た間宮は気を取り直してこう続ける。
「まあ、その男子生徒で良いならいいんじゃないですかね」
「うん……じゃあそうしようかな……。その、間宮君……」
「なんですか、神楽坂さん?」
「その、なんで敬語? 同じ一年なんだからさ、タメ口でも気にしないよ?」
「そういう性格なので気にしないで下さい」
「そうなんだ……でも、もう私達は友達なんだからさ、敬語で話さなくたって良くない?」
――何を言ってるんだこの女……
昨日の放課後に茶道部で出会い、相談を受けて、軽く罵倒された。それだけの関係なのに、目の前の神楽坂は間宮の事を友達と呼ぶ。そのことが間宮には理解できなかった。たった一度出会っただけで友達関係が構築されるモノなのだろうか? そんな事を考えていると、神楽坂はこう続けるのだ。
「だから、敬語禁止。それじゃまた後でね、バイバイ。間宮君」
そう言って神楽坂は明るい笑顔を俺に向け、教室を去って行くのだった。
――ああいうのは苦手だ……